むのきらんBlog

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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンは友情の物語

軽い痛快犯罪娯楽作品かと思って観たが、そうではなかった。 しかし、お勧めします。

 

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(以下、批評と感想。興趣を削がない範囲での若干のネタバレを含みます。)

 

孤独な男達と友情の物語

主人公のフランク少年(ディカプリオ)の父親の描写がいい。

父親は、実力でのし上がって、ロータリークラブ入りを果たした実業家だ。だが、のし上がるには、無理もしたのだろう。脱税でIRS(内国歳入庁。日本でいう国税庁、税務署だ)にこっぴどくやられる。その結果、妻にも見放され、孤独になる。

 

米国でも、裸一貫からのし上がるのは大変だ。キレイゴトだけではなかなか、エスタブリッシュメントが、がっちり固めた社会に参入していけない、という現実を反映しているともいえる。描写はされないが父親は第二次大戦に従軍し、そこでフランス人の女性(妻となる)を見初めて帰国し、裸一貫で事業を興したのだろう。

しかし、そういう逆境にある父をフランクは、愛情を持って見つめている。父の手口やセリフを真似る描写は、父への「リスペクト」といってもいい。(フランクが他に「教師」を知らなかったせいでもあるが。)

 

 

家出したフランクにとって、FBIのカール・ハンラティ(トム・ハンクス)は父親代わりだ。

そのあたりは、ルパン三世と銭形警部の構造である。しばしば犯罪者は芸術家、警察や探偵は批評家にたとえられるが、真剣にプロファイリングしてくれる人がいて初めて、犯罪者は孤独をいやされる。(実際はそうではないのだろうが、お話としてはそれが定番)

フランクはカールの追及から逃れようとする反面、無意識ではあるが、追及の手がかりを残してしまう。

 

フランクが孤独なら、FBIのカール・ハンラティ(トム・ハンクス)も孤独だ。離婚して一人暮らし、クリスマスの晩に一人で仕事をしているのはフランクとカールの2人だけとして描かれる。(もちろん、そんなことはないのだが)

 

その2人の、「トム&ジェリー」的な関係がドラマの構造だ。追う者と追われる者の駆け引きが、たっぷり楽しめる。それは同時に、信じるもの、最後に頼れるものを、互いのなかに探す旅でもある。要所に配されるオールデイズな名曲が、味わいを深める。男同士の世界がここにある。

孤独な男達ゆえの、男同士の友情の物語なのだ。

 

ジェンダー・ハラスメント映画 

それに比べ女性たちの描かれ方は、非常に浅い。男の地位や金に引かれる存在として描かれている。スチュワーデス(フライトアテンダント)や看護婦などの制服に弱いのは男もそうだが、今回それにいかれるのは主に女性たちだ。

カールの母親からしてそうだ。ナチスドイツからフランスを解放したG.I.(米軍兵士)に惹かれて米国に渡ってきたのだ。いわゆる「戦争花嫁」の一種だ。おそらくG.I.の制服とそれが象徴する解放者としてのアメリカ、さらに夢の国アメリカ、というイメージが作用したのだろう。しかしカールの父が、IRSに脱税を摘発されて、事業に失敗すると、あっさり別の有力者に乗り換えてしまう。

 

女性達はことごとく、カールにだまされる。その制服が象徴する地位とあいまったセックスアピールによって。制服はいわば「ライオンのたてがみ」だ。ディカプリオでも、彼が貧民を演じた映画「タイタニック」の構造とは全く違う。フランクが身元を明かした女性の、その後の対応がそれを象徴している。

(その点、「ルパン三世 カリオストロの城」とは逆、ともいえる。「泥棒になる」といったクラリスは可憐でしたね。)

ディカプリオの女たらし映画でもあるが、女性を類型化したジェンダー・ハラスメント映画といってもいいくらいだ。

 

パンナムタイピスト、スチュワーデス

時代背景の描写もいい。

パン・アメリカン航空パンナム)が輝いていた時代でもある。1960年代、ベトナム戦争の話しがちらりと出てくるものの、映画に描かれていたアメリカは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に描かれた1950年代の空気と同じ、繁栄と夢の国、アメリカである。

今、パンナムはとっくにない。フライトアテンダントも、日本ですらあこがれの職業ではなくなっている。

タイピストという仕事があった。手書きや口述をタイプライターという機械で、活字体の文書にする仕事だ。タイピストが女性の憧れの仕事だった時代がある。その次にきたのがスチュワーデスだ。1960年代では、タイピストはすでに憧れではなくなっているが、スチュワーデスが憧れの対象だった。

その時代の空気を楽しむには映画「ハッピー・フライト」もお勧めだ。

 

なお、141分はやや長すぎる。2時間を超えねばならない必然性はないといっていい。2時間以内に収めてくれれば、秀作になっただろう。

 

 

こちらの浜村淳氏の批評も一読の価値がある。ネタバレあり。

映画評論 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン

 

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キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン - Wikipedia