むのきらんBlog

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自由に考えよう

「日本より貧弱な武装のネパール、ブータン、ラオス、ミャンマーなどが中国に侵略されていない件」が誤りな件

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 宮武嶺氏は割と人気のブロガ-のようだし、同感、として拡散もされているので、陰謀論の典型として取り上げたい。

 

blog.goo.ne.jp

 

前から、中国が攻めてくる~、攻めてくる~とお経のように唱える人たちに一回言っておいてやろうと思っていたことがあるのですが。

 中国が国境を接している国は14か国あるのだそうですが、それらの国に中国が攻め込んでいないことをどう考えているのでしょうか。

 

 これに引き換え、日本はベトナムの10倍の5兆円くらいを防衛予算として毎年使っている世界第八位の軍事大国です。

 上のような地続きの弱小国に侵攻しない中国が、どうして海を越えて日本に攻めてくる攻めてくるっていうんですか?

 

 

  • 藁人形論法の典型 

これは、藁人形論法の典型だ。

「中国が攻めてくる~、攻めてくる~とお経のように唱える人たち」というが、一部の人は別として、日本本土を近々、中国が武力制圧すると主張している人はごく僅かだ。

むしろ、当面の脅威は、尖閣諸島であり、南シナ海であろう。

前者は、日本の実効支配している領土を、武力で奪い取ろうという構えである。

後者は、日本領ではないが、日本のみならず東アジアの地政を大きく変えていくものだ。

 

それを、相手の主張がそうだ、と決めつけ、そんなことはない。という論法。これを「藁人形論法」という。

 

で、言いたいことはこれのようだ。

中国の軍事的脅威も、日米の軍需産業の儲けのために過大に伝えられているとは思いませんか。

つまり、軍需産業による世論誘導という陰謀論だ。確かに軍需産業にとって、脅威の存在は飯のタネではある。

しかし、筆者が狡いのは「(だから)中国の軍事的脅威論はウソだ」ということを言外に印象づけようとしていることだ。それを、中国の軍事的脅威を全否定せず、他国の例を挙げて婉曲に印象づけようとしている、という点が上手いレトリックである。

 

  • 中国は攻め込むことはない、というレトリックを自分で反証している

しかも、宮武氏の 

中国が国境を接している国は14か国あるのだそうですが、それらの国に中国が攻め込んでいないことをどう考えているのでしょうか。

という中心の主張は、以下の宮武氏の言い訳により、ことごとく自身で反証されてしまっている。 

 

 世界最貧国のラオス、ネパール、ブータンなどは中国から見れば、国力も軍事力も吹けば飛ぶような額でしかありません。右翼の人が言うように、中国が覇権主義の侵略国家なら、とっくの昔に征服してしまっていてもおかしくないでしょう。

 中国共産党は確かに60年以上前にチベットには攻め込みましたが、それは中国の一部だという意識があったためであり、複雑な背景もありました。台湾も中国は自国の一部だとして香港のようになるべきだと考えているわけです。

 また、40年近く前にベトナムとの国境紛争はありましたが(中越戦争)、中国はベトナムを占領してしまおうとしたわけではありません。

 

つまりチベット、台湾、ベトナムについては、それぞれ固有の特別な事情があった、という言い訳だ。

 

その論理ならば、たとえば沖縄はどうか。

沖縄については明治時代に清国政府も宗主権、領有権を主張していた。しかし、最終的に日清戦争の清国の敗北で決着がついたのだ。これを、中国にとって、「特別な事情」と言わずして、なんというべきか。

琉球/琉球王国/琉球帰属問題

 

  • 中越紛争も不正確

なお、次の記述も不正確である。

また、40年近く前にベトナムとの国境紛争はありましたが(中越戦争)、中国はベトナムを占領してしまおうとしたわけではありません。

 

1979年の中越戦争(中国がベトナムに侵攻し敗北して撤退)と1984年の中越国境紛争を混同し、後者を無視している。後者は、1984年に中国がベトナムとの係争地域を武力侵攻し占領。中国は1988年に撤退したが、その後も衝突が発生した。

 

 

  • 日本周辺の戦略的重要性の無視

そして、宮武氏は、日本周辺の中国にとっての戦略的重要性を無視している。米国と2大覇権国として太平洋の半分を分け合おういう中国にとって、ネパールやブータンとは、戦略的重要性は全く異なるのだ。

国際政治や安全保障を考える際、決して日本国内だけの視点で、ものを見てはならない。 相手の視点と思考様式に従って、地図を眺めることが不可欠だ。

 

  • 「平和国家日本」とナショナリズムの逆効果

なお、もちろんだが、「平和国家」日本も他国からみれば、70年以上ではあるものの、アジアの軍事覇権国家であった時代を忘れられているわけではない。それは、たとえば韓国が日本をどう見ているか、ということで明らかである。

日本国内のナショナリズム的な動きに対し、彼らが敏感に反応し、時に日本叩きの口実ともなるのは、そういうことである。

そのような歴史を持つ日本は、決して、中国などのナショナリズム国家と、「どっちもどっち」に見られるような言動を行ってはならない。それは日本の国益を損うことなのだ。

宮武氏のような、軍需産業陰謀論という結論ありきの言論にも要注意だが、日本の「愛国者」も御用心、というところである。