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三菱自動車は再生するのか~不正から資本提携へ~

不正発覚で再び地に落ちた三菱自動車だが、日産の資本傘下で再生するのだろうか。

 

4月20日の三菱自動車の不正公表から5月12日の日産の資本参加発表まで、劇的な1か月だった。

三菱自動車の不正問題は終わったわけではないが、世間の関心は日産の資本参加で、三菱はどうなるのか、ということに移ったように思う。

世間ではいろいろ言われているが、むのきらんの見方を述べる。

 

(目次)

 

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画像は日産 三菱自を“傘下”に 株式の34%取得へ | NHKニュースより。

日産、ゴーン社長。三菱自、益子会長。

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 画像は三菱自動車 燃費データ不正の行方 | NHKニュースより。

 

  • 三菱自動車は再生するのか

再生する。

考えてみよう。あなたとゴーン氏と、どちらが経営者としてふさわしいだろう。ゴーン氏が投資として見合う、と判断したのだ。もちろん失敗する可能性は常にある。それが経営であり、投資ということだ。

ゴーン氏の判断は、およそだが成功率7割の賭け、ということだろう。

 

最大のリスクは、三菱の不正が海外の車種にも及ぶことだ。販売の9割を占める海外で、三菱自動車のブランドが毀損したらば、ダメージは大きい。日産の出資は、それがないことが前提だ。実際に出資が行われる2016年末までには明らかになるだろう。

 

両社は、補完できる分野がすでにいくつもある。たとえば東南アジアでは、両社が現地生産や販売など、似たような事業を展開している。そこでの相互乗り入れによるコストダウンだけでも効果が出る。2千億円の出資は、奇策をしなくても勘定が合うのだ。

 

幸いなことに、次期の軽自動車は、日産が開発することがすでに決まっている。(製造は三菱)。したがって、次期車については、「日産が開発したのですから大丈夫」と顧客に説明できるのだ。

 

  • 益子会長に責任はないのか

経営責任はある。

相川社長が辞任し、益子会長は年内に予定されている日産の資本傘下まで社長を兼務、その後も、役員陣に残り三菱グループや日産との調整やブランド再構築に当たる、と報道されている。

三菱商事出身の益子会長は、2004年に三菱自動車社長に就任、2014年に会長になった。eKシリーズの燃費改ざんが行われた2013年には社長であった。なので、当然に経営者として責任がある。本人もそれは認めている。おそらく、役員報酬のカットや返上という形で、益子会長も経営責任を明確化することになるだろう。

本人からすれば、社内風土改革にも十分目配りした経営をしてきたのに、開発部門の閉鎖的体質が不正を呼んだ、ということだろう。開発部門の責任者を長年勤めてきたのは相川社長だ。相川氏は一層、責任を痛感しているだろう。

 

  • ゴーン氏の陰謀だったのか

それはないだろう。

日産が、新型車の開発を担当するにあたり、現行車の実燃費などをテストすることは、おかしくない。そこででた数値が、カタログ値と大きく異なったのが、不正が発覚する発端だ。

日産は三菱に問い合わせ、共同でのテストを提案する。三菱は内部調査をして、不正を発見した。

4月20日の不正公表の前に、益子会長がゴーン社長に事前報告とお詫びに出向いた。その時からゴーン氏の資本提携戦略が動き出した、と報じられているが、それはどうだろうか。

おそらくその前に日産の技術部門からゴーン氏には報告が行っていたのではないか。また、もちろん、それ以前から、三菱も日産も、それぞれに提携戦略はいろいろ練っていたのだ。2014年に社長の椅子を相川氏に譲った益子会長の主な仕事が提携戦略であるのだ。

日産にしてみれば、三菱の不正は他人事ではない。三菱からOEMで入れている軽は、国内の日産の主力車種の一つであるからだ。ことが起きて、顧客やディーラーにわびるのは、日産の仕事でもあるわけだ。

  

  • 会社ぐるみの不正なのか

「会社ぐるみ」とまでは言えない。「組織ぐるみ」程度である。

今回の不正は会社ぐるみであり、三菱自動車は芯からとことん腐っている、という批判がある。

整理せねばいけないのは、「組織ぐるみ」と「会社ぐるみ」は異なる、ということ。

組織ぐるみとは、個人ではなく、ある部署の数人が知っている、関与している不正だ。

一方、会社ぐるみとは、トップの指示があったり、トップが知っていたり、また会社の多くの人が知っているようなことだ。

芝エビでないものを芝エビと呼ぶ的な、食品の名前の偽装は、「業界の常識」であった。つまり、会社ぐるみどころか「業界ぐるみ」だ。

 

今回はどうか。5回に渡る燃費目標の引き上げは、確かにあった。そこで経営陣は、実行可能な引き上げかどうかを検証すべきだった。しかし、彼らは、それをしないで、これで達成します、という車種担当の説明を鵜呑みにした。そういう心理は働きやすい。

車種担当にしてみれば、「無理です」と報告したら、もう一度検討してこい、と言われ得るだろう、という思考が働く。

そのやりとりが、車種担当と、エンジン、シャシなどの機能担当や、設計、実験などの部門担当でも同じように交わされたのだろう。

 

本来、性能実験部はその名のとおり、実験を行う部署だ。本来の燃費改善の役割は設計部門などの狭義の開発部門だ。しかし、単なる実験や試験を超えて、燃費改善に努力する部署、となっていたわけだ。実験してみないとわからないこと、いくつか前提や設定値を変えて試験した上で、最適な設定値を出す、といった作業が実験部門でも行われる。

 

そのような「実験」と、認証を得るための「試験」は、本来は分けねばならない。しかし、その垣根がなかったのだ。

 

「不正の風土を許した」という点では、経営陣の責任も含め、会社ぐるみ、との批判は免れない。その一方で、「不正は誰が行ったか」という点では、今回は性能実験部とその関係部門という組織ぐるみではあっても、会社ぐるみ、とまでは言えないだろう。

3万人の三菱自動車グループ社員の、ほとんどはこの不正を知らなかったはずだからだ。

 

益子会長も相川社長も不正の事実を知らなかったはずだ。彼らがそんな大きなリスクを犯すはずはない。

  

  • 不正は三菱グループだからか

違う。

三菱グループであることは一要素としてあるかもしれないが、最大の要素ではない。三菱だから、どうこう、というのはある種後講釈に過ぎない。

一番酷いのは、日経新聞のあるコラム。三菱グループが大量に購入するので、ある程度は自動的に売れる。その体質が三菱自動車の不正を呼んだ、というもの。

もしもそうだとしたら、不正をしてまで燃費を良く見せる必要はないはずだ。

 

自動車メーカーでは過去も今も不正が花盛りだ。そしてもちろん、それは自動車メーカーに限ったことではない。食品、くい打ち、家電、などなど、不正はそこら中に転がっているのだ。 

今回の不正で国交省の指示により、各社が調査したところ、スズキが、規定の方法と違うやり方で試験をしていたことを公表した。それもまた「不正」ではある。今回の三菱で明らかになった3つの不正の内の一つと同じカテゴリーのようだ。

 

そこから、より深刻な「改ざん」まではつながった道だ。

今回三菱だ批判されているのも、1992年から日本の法令と異なる高速惰行法で行っていたことが、2013年の改ざんと同じ「風土」と言われているからだ。

改ざんと他の二つの不正が異なるのは、消費者などの利益を害するかどうか、である。

違う方法であっても、同じ測定結果が出れば、直接的には消費者利益を損なうものではない。いわば料理法が違っても味は同じ、というようなものだ。

 

しかし、2013年の軽自動車の燃費改ざんは、「悪い燃費を良く見せかけた」という点が悪質だ。

関係者は、「大それた悪事をしでかしている」という実感はないだろう。実燃費には、使い方、運転の癖、オイルなど整備の状況、などさまざまな要素があるからだ。だから、これくらい数字を入れ替えても、大したことはない、という認識だろう。

燃費不正は、普通の人が起こす、犯意の弱い犯罪なのだ。重罪意識のない犯罪ほど、再発防止が難しいものはない。万引きが根絶しがたいのと似ている。

 

また、三菱グループは不正のデパートでは当然にない。三菱であろうがなかろうが、不正はあちこちにあるのだ。ただし、三菱には一定の信頼があるので、不正のダメージと批判が強くなるのは当然だ。

  

  • 不正は繰り返されることはもうないか

不正はまた発生するだろう。

不正は、病気や犯罪のようなもの。減らすことはできても、根絶は困難だ。3万人の社員をかかえた企業グループで不正がない、と思うほうがおかしい。

不正ゼロ、というのは、ゼロリスクを求めるようなものだ。神ならぬ人が構成する組織、大なり小なり不正が皆無ということはない。日産やトヨタでも例外ではなかろう。

 

大企業で不正が起きると、「大企業病」と言われる。そういう面もあるだろうが、批判するのは簡単だし、同義反復に過ぎない。3万人の企業で、業務に関係した不正を根絶するというのは、3キロ先の針の穴に糸を通すようなものだ。

コンプライアンス(法令、倫理の遵守)が重要なのは、不正は発生するもの、という前提で、いかに不正を減らすか、防ぐか、ということなのだ。だからコンプライアンス向上の取り組みは終ってはならないのだ。

(なお、韓国で日産のディーゼル車が不正だと批判されているが、日産は不正を否定している。本件はわからないが、おそらく日産の言い分が正しいのではないだろうか。)

 

 

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