むのきらんBlog

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国民投票は正しくない~英国EU離脱が教えること~

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英国のEU離脱が国民投票で決まった。私はそうなる可能性を40%と見ていたが、逆の結果になった。「なぜ」と「これから」を3点ほど。

 

 

アナウンス効果が大きかった

今回、世論調査は揺れた。当初、残留が大勢と見られていたが、移民が急増したとの報道(これは時点の差があり、誤解も大きいが)により、離脱が残留を上回った。ところが、投票1週間前の6月17日、残留派のコックス下院議員が殺害された。ここで、残留が盛り返し、そのまま投票日の23日を迎えた。投票日でも、ブックメーカー(賭け業者)は、オッズを変更し、大方の予想は残留となった。

 

これらの最後の報道がいけなかった。報道すべきでないとは言わないが、いわゆるアナウンス効果により、「どちらかといえば離脱派」は、面白くない、あと一押し、と投票所に向かい、「どちらかといえば残留派」は、まあいかなくてもいいか、となった。そそれが「離脱」が1741万742票で51.9%、「残留」が1614万1241票で48.1%、という僅差の結果になったのだろう。投票率は72.1%と前回2015年の下院選挙の66.1%を上回った。

 

国民投票は正しいか

  • キャメロン首相の過ち

「国民投票は、国民の意思がもっともストレートに反映される、最も民主主義的な行為だ」という意見が見られる。しかしそれは正しいのだろうか。

もしそうだとしたら、国会も議員も不要である。

今回は、国会が判断を放棄して国民投票を行ったのだ。前回2015年の下院議員選挙に勝つために、キャメロン首相が国民投票をマニュフェストに入れたのだ。皮肉なことに、英国議会では、残留派が圧倒的であるにもかかわらず、である。つまり、議会は判断を放棄し、判断を国民に委ねた。

本来であれば、重大事については議会で十分議論し意思決定を行った上で、その是非を国民に問う、というのが国民投票のあり方であろう。

もちろん通常の選挙で審判を仰ぐという方法もあるが、これには種々の要素が入り、論点が薄まってしまう。国民投票は特定の事項にだけ、直接国民の判断を仰ぐものだ。

 

  • 意見の違いではない、 認識、前提の違い

「なぜ国民投票が正しくないのか。手続きとしては最高の民主主義ではないか。」という、当然の疑問が出るだろう。

手続きとして一応正しいことは、意思決定の中身の正しさを意味しない。

なぜか。

十分に議論を尽くした上で、客観的事実を全て共有した上で、さてどうする、というときには、投票は最後の手段として有効だ。

しかし、それが不十分であれば、投票は、手続き的な正しさだけのものだ。

前提とする事実認識が異なれば、異なる判断をするからだ。まず、前提とする事実認識を、できるだけ客観的に共有せねばならない。

 

したがって、

  •  ファクト・ベースド・ポリティックス(事実に基づく政治)

が不可欠なのだ。これはエビデンス・ベースド(証拠に基づく)とも言われる。

英国でもこれが十分に行われたとは考えられない。7割もの国民が、客観的な事実認識をすることは、非常に困難であり、ほぼ不可能と言っていいだろう。

人は、信じたいものだけを見て、信じたくないものからは目をそらしてしまうからだ。国民投票は、「テレビと居酒屋談義による意思決定」というのが実態である。

政治専業である国会議員でさえ、なかなか出来ない、事実に基づく意思決定が、国民にできるはずがない。 

 

これから起きること

英国は直ちに離脱をEUに通告する。2年後の2018年に実際の離脱となる。

英国のEU離脱は、英国の経済と政治へ大きな影響を与え、EUにも大きな影響がある。もちろん、EU各国の離脱派に本件が力を与えることは間違いない。それらはよく語られていることなので、それ以外のポイントを2点だけ。

 

  • スコットランド

2014年、独立を諮る住民投票で英国残留を決めたスコットランド。その前提には、EUの中の英国の中のスコットランド、という整理があった。しかし、今回は異なる。スコットランドはEU残留派が多数だ。したがって、スコットランドの意思が反映されなかったことになる。 スコットランド残留の前提が変わったのだ。

 

既にスコットランドは、独立志向を再燃させている。2016/6/24 日経より

英紙ガーディアンによると、スコットランドのスタージョン行政府首相は24日、同地域の投票では欧州連合(EU)残留が多数を占めたことを受け、「スコットランドの人びとはEUの一部で有り続ける意思を明確に示した」と述べ、EUに残留するため英国からの独立を求める意向を示唆した。

 

  • 北アイルランド

北アイルランドでも、英国のEU離脱は火だねになるだろう。EU加盟国のアイルランドとの自由な通行・通商が阻害されるおそれがあるからだ。1998年の紛争終結の合意まで32年間、テロと流血を繰り返してきた。その後も散発的な暴力事件が起きている。

新たな流血が起きるかどうかはわからないが、不確実性、不安定性は確実に増すだろう。北アイルランドの現在の平和は、微妙なバランスと関係者の努力によって維持されているからだ。EU離脱に投票したイングランド人は、北アイルランドのことも忘れたように見える。

 

駆け足で3点ほどの述べた。もちろん、ストレートに日本でも同じことが起きるという意味ではないが、英国で起きたことは日本の鏡でもある。

 

 

私の外れた予想はこちら。とほほ。残念。

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