むのきらんBlog

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飲食店を禁煙にしたら死者は減るのか~受動喫煙のリスクはどれくらいか~

飲食店の禁煙を法制化することが検討されていますが、反対論として 「飲食店を禁煙にしても死者は減らない」という意見があります。果たしてそうなのでしょうか。

 

 

 

blogos.com

BLOGOSで私に意見をくださったのは、aninekoさんという方です。ご意見を全文引用します。(太字筆者)

「年間15000人の受動喫煙死亡者」の死因を見てみると、店での短時間受動喫煙が理由とは思えない。

死因は長期間・長時間の受動喫煙だと思う。
これは家庭や職場などの長時間居る場所と思う。

店を禁煙にしても死者は減らない。
だからこの「店全面禁煙」の法的根拠は無い。

 

たまたま、aninekoさんのコメントを題材に使わせていただきましたが、飲食店の全面禁煙には、 飲食店を始め、自民党の議員などから強い反対論があります。だから法制化がなかなか進みません。現在検討中の法案も、骨抜きになりそうです。

 

今回は、この、飲食店を禁煙にしても死者は減らないかどうかについて考えます。

飲食店禁煙には他の論点もありますが、それ置いておきます。また、「死者」には、もちろん喫煙者の死者が大きいのですが、それも置いておいて、「受動喫煙による死者」に限って考えます。

 

まず明らかなのは、飲食店には客と従業員がいるってことです。

従業員という視点

これについては、あまりにも明らか。従業員にとっては、店こそが職場なのです。だから長時間の受動喫煙はよくない、ということならば、飲食店も全面禁煙にすべきです。つまり、オフィスの全面禁煙と同じことです。

1000歩ゆずって、移行措置として煙が漏れない喫煙室の設置は容認するとしても、です。現在、店内全面禁煙のロイヤルホストが設置しているレベルのものです。

 

客の死亡は減るのか~それで寿命は何秒縮む?~

比較的限られた時間の受動喫煙が健康にどれだけ影響するんか。

それには、地域メディエータの半谷輝己さんの書いた「それで寿命は何秒縮む?」が参考になります。

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この本、オススメします。食べ物から放射能まで、いろんなもののリスクを「損失余命」 という一つの物差しで表示しています。そうすれば、たとえばタバコと放射能の被曝などを客観的に比べられます。この本は、よくある「○○が体に悪い」的なトンデモ本ではなく、世界中の科学者の知見をまとめたものです。

 

以下、この本をもとに計算してみます。

 

夫の喫煙による妻の受動喫煙では、タバコ1本あたり24秒。(肺がんと虚血性心疾患のリスクのみで計算)。ちなみに、喫煙者本人は、タバコ1本あたり12分です。

飲食店の受動喫煙を、妻の受動喫煙と同じレベルと仮定してみましょう。

 

タバコ1本吸うのに3分かかるとします。一時間では20本。タバコ一箱分です。

24秒×20本=480秒=8分。つまり喫煙者の近くに1時間いるごとに、8分、寿命が縮まるわけです。

飲食を一回あたり3時間とします。

そうすると、3時間×8分/時間=24分。飲食一回あたり24分寿命が縮まります。

会社の帰りに、週に3回、居酒屋に付き合ったとします。(つきあいのいい方ですね。)

年間58週×3回=174回。

24分×174回=4176分=69.6時間。つまり約3日分。

これを入社してから退職するまで40年間続けるとすれば。

3日×40年=120日。つまり40年間、タバコ好きの上司や同僚に付きあって居酒屋に出入りすると、約0.3年分寿命が縮むのです。

 

では、これを大きいとみるか、小さいとみるか。

 福島県の放射線の外部被曝と比べてみる

同じ本によると、半谷さんが調べた福島県の伊達市。市民の事故年度の外部被曝は、3ミリシーベルト相当なので、28時間、およそ1.2日分。翌年は9時間19分。と大幅に下がっています。除染や放射能そのものの「半減期」もありますし、除染もあるでしょう。ですので、伊達市にずっと住み続けたとしても、損失余命はせいぜい数日分、誤差範囲、ということになります。

(なお、伊達市は、原発事故により避難が進められた地域ではありません。逆に、それゆえに、住民から住み続けることの心配の声が大きかったわけです。)

 

従業員の受動喫煙の被害を計算する

ちなみに、同じように従業員の受動喫煙の被曝リスクを考えてみましょう。

一日8時間、月160時間労働とします。年間では1920時間です。

1時間で8分、余命が縮まりますので、年間では、1920時間×8分/時間=15360分=256時間=約10.7日

40年間では。40年×10.7日/年=428日=1.2年

つまり、タバコの煙に常時さらされている職場にずっと働いていると1年以上、寿命が縮まるのです。非常に大きいですよね。

もちろん、この計算に含まれていないCOPD(慢性閉塞性肺疾患、いわゆるタバコ病)などのリスクもあります。そして、これは平均値ですので、若くして発症するリスクも当然にあるのです。

 

したがって、あなたがタバコを、吸おうが吸うまいが、喫煙可の飲食店に勤めるべきではありません。またそういう店は避けるべきです。

また、喫煙可の店に大切な人を誘うのは、その人の寿命を短くすることに荷担している、ということです。

喫煙可の飲食店で従業員を雇用するのは、金儲けのために従業員の健康を危険にさらす行為です。

 

そして、今焦点となっているのは、こういう問題を「本人の選択の自由」に帰していいのか、ということです。

他人のタバコの煙に1時間さらされれば、その人の寿命は8分縮むのです。

 

 

注記:「他人のタバコの煙1時間で、8分寿命が縮む」と記載しましたが、このような計算には当然に誤差があります。また、個人差もあります。本当に「8分」なのか、10分なのか、6分なのか、という議論は、余り意味がありません。最も重要なのは、他のリスクと比較した大ざっぱな程度問題(桁の違い、ということ。オーダー・オブ・マグニチュードといいます)なのです。