むのきらんBlog

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自由に考えよう

すでに消費税はゆがんでいる

このエントリーについて、次の指摘があった。

<軽減税率に反対している人は、車イスが非課税になっている現状に、どうして反対しないのか?>

<「車イスや医療費、家賃など非課税品目をすべて廃止」を主張しなければ、軽減税率反対とつじつまが合いません。>
・・・この指摘は一理あります。


これは重要なポイントなので、以下にコメントします。

 

これらは、社会政策的配慮から非課税としています。特定物への補助金や政策減税と同じことです。一応、絞り込んで行われているわけ。そしてたとえば「車イス」については、経済をゆがませる可能性が低いわけです。一方「家賃」のほうが大きく経済をゆがませますが、それは持ち家への各種の優遇と見合い、とも言えます。というか、持ち家のほうが優遇金額が大きいわけです。(説明は長くなるので省略します。)

 

さて「特定物への補助金や政策減税」はそもそも適切か。というとこれは大きな問題があります。個人が価格と便益を秤にかける自由な選択を阻害し、経済をゆがませることになります。経済学上は、死荷重が増える、と表現します。

 

ですので、これらが正当化されるのは、死荷重のデメリットを上回る社会的経済的意味があることに限られるべきなのです。

 

「再分配」を考えると、基本的にはたとえば生活保護者にはお金を支給して自由に使わせるほうがいいのですが、現実には「無駄使い」が発生しやすいので、特定の財やサービス、たとえば医療を無料にするほうが適切、というようなことです。

 

軽減税率はこの条件を全く満たしていないから悪法なのです。新アベノミクス目標のGDP600兆円への壮大な逆噴射なのです。税収が毎年1兆円減るといった財源だけの問題ではありません。政府が1兆円吸い上げ食品にだけ配ることと同じなのです。(「租税支出」といいます。)

 

軽減税率の実施で、唯一満たすのは、国民感情とそれによる与党の支持率というやつです。

 

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ところで上に例示した、生活保護者への給付と医療費無料化の例は、ちょっと不適切だったかもしれません。医療は「保険」の意味あいがあるので。

 

別の例を挙げれば、たとえば、「子育て支援」のために子育て世帯に給付金を支給しても、それは「子育て」に使われるとは限りません。「保育園利用バウチャー」を支給したほうが、保育園の利用にしか使われないので、政策目的としては狙い撃ちしやすい、ということです。

ただし一方でそれは親の自由な選択をゆがませることにはなるわけです。「子育て環境」のために、家の購入に当てるほうが優先するのだ、という人もいるでしょうから。(あくまでたとえばの話しです。)

 

いすれにしても有効な「狙い撃ち」は、なかなか難しいものです。「自由な市場」に任せておいては、解決しえない社会的な課題も沢山あるのですが、それを政府が有効に解決するのも、なかなかに難しいところがありますね。政策には、ある程度の無駄は織り込まざるを得ないわけです。

 

といっても、無駄のほうがあらかじめはるかに大きい制度設計では困ります。それが軽減税率です。

 

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現行の家賃の非課税措置について、補足します。(2015.12.11)

 

家賃の非課税措置を問題にするのであれば、持ち家取得にかかる各種の減税や補助金とをまず比較せねばならないのです。

 

上で説明を省略したのは、「家賃の非課税措置」は、どれだけ賃貸住宅入居者の負担減になっているかという問題です。

一見なっているようですが、ことは単純ではありません。貸し手の視点で考える必要があります。家賃の原価は、基本的には建築コストです。(理論上、土地は減価しませんので全額が原価とはいえません。ここの計算は長くなりますので省略)


建築コストには消費税がかかりますので、それが家賃に転嫁されています。なので、入居者の軽減部分は、貸し手の原価を引いた利益に応じた消費税部分ということです。ここが一般に理解されていない部分です。

 

つまり、たとえば家賃10万円の場合、消費税8千円分が軽減されるように見えるけど、実際には貸し手が負担している消費税分は、10万円の中に含まれている、ということ。

 

なお、もちろん、家賃は需給(相場)によって決定されますので、原価が常に家賃を決めているわけではありません。が、原価は家賃の重要な要素なことは明らかです。

 

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補足の補足です。上の話しに疑問を持った方へ向けQ&Aです。2015.12.11

 

<家賃の非課税措置を問題にする際に、持ち家取得にかかる各種の減税や補助金とを比較する必要はありません。住宅購入も家賃も消費であり、野菜を買ったり、旅行に行くのと同じです。
何を買うか個人の自由ですから、どの商品を買っても同じ税率である必要があります。>
・・・消費税の政策的非課税措置は、他の減税や補助金と同じ政策的措置であることをまず押さえる必要があります。それは別というのは間違いです。
消費税の全ての政策的非課税措置に反対というのは一つの主張として成り立ちます。

 

<消費税は、所得税を正確に徴収するには限界があることから導入されたはずです。所得税を払わない人でも消費税を必ず払うことが導入の正当性です。>
・・・そのとおり。それは理由の一つです。仮に所得税が100%正確に徴収されたとしても、間接税の比率を上げる正当性はあります。そもそも「所得」に課税すべきか「消費」に課税すべきか、は種々理論がありますが、そのバランスが大切というのが学者のコンセンサスです。

 

<「消費税を補助金として利用する」という話は、消費税の理念に反するはずです。
補助金が必要であれば、消費税以外の税制で実施すべきです。>
・・・基本的にはそのとおり。したがって消費税には社会政策的非課税制度は不要という主張はありえます。

 

<家賃には消費税が転嫁されていないと思います。家賃は、需要と供給で決まります。どのような税制でも家賃は変わりません。>
・・・需給理論の勘違いです。コストが上がると供給曲線が変わるのです。

貴殿の理論では建築コストが上がってもマンションの分譲価格は変わらないことになります。
ただし賃貸住宅の投資と家賃には時間的ズレが大きいことやその他の理由(それもゆがみなのですが)で、家賃についての消費税の「寄与率」は、他の商品に比べて低めであることは事実です。