むのきらんBlog

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自由に考えよう

映画の天使がくれた愛すべき愚作〜映画「天使がくれた時間」批評〜

映画で重要なのは、テーマではない、細部である、という事を教えくれる作品だ。

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画像はアマゾンより。(アマゾン・プライムでも観られます)

 

 
以下、重要なネタバレあり。
 
(目次)
 
  • 陳腐なテーマとプロット 

テーマは、愛と家庭が一番、という陳腐なものだ。
 
プロットも、煎じつめてしまえば、成功した独身男ジャック(ニコラス・ケイジ)が、13年前にキャリアのために振った恋人ケイト(ティア・レオーニ)からの電話。おそらく、ずっと同じマンハッタンで暮らしていたのが、パリに転勤することになって連絡してきたのだろう。それをきっかけに、もしあの時、結婚を選んでいたらと妄想し、彼女を今も愛している自分に気づく。そして、空港でよりを戻す。
という、極めてありふれたお話し。それを、映画的に描いただけ。それも天使が妄想を映像化してくれたという、これまた映画にありがちな陳腐な手法で。
 
こう書いてしまえば、身もフタもない話しである。
 
テーマを絶賛する批評が多いが、テーマ(テーゼ)はありふれたものだ。それでも、絶賛するブロガーが多いのはなぜだろう。それは。
 
  • ここでも神は細部に宿った

テーマもプロットもありふれている。だが、しかし、それでも、この映画をくれる時間は「映画の天使がくれた時間」なのだ!
それは、脚本、役者、演出、撮影、道具立て、それぞれが細部において統合された作品世界を成して輝いているからだ。
特に、ケイト役のティア・レオーニは素晴らしい。子供も夫婦愛も一戸建ても、というある意味で欲張りな女性なのだが、仕草の一つ一つ、表情の一つ一つが、どういう反応を示すかな、とドキドキさせる。キュートである。
映画の神は細部に宿る。今回、神は彼女に宿り給うた。これが別の女優だったら、単なる愚作になっただろう。
 
  • トリックスター(狂言回し)の天使 

天使も面白い。天使にまつわるエピソードは、映画のテーマにもプロットにも直接関係ないが、妙な現代的奥行きを与え、天使という存在のおかしさと陳腐さを忘れさせている。
 
パラレルワールドものという点では、この映画もフランクキャプラの名品、「素晴らしき哉、人生!」を踏襲しているが、そういえばそちらでも、天使は天使になりそこないの落第天使であった。
 
  • この映画のテーゼは正しいか

ただしテーマ的に考えると、もし2人がキャリアアップの機会を捨てたことを後悔していたら。もし、ケイトが中年で不恰好になっていたら、などなど、その選択は絶対の正解ではないかもしれないのだ。学生時代の愛が13年後もラブラブとは限らないわけだ。
 
映画でも、空港でよりを戻した2人は、これから結婚し楽しい家庭を持つこともできることが暗示されている。つまり「キャリアか愛か」の2択ではなく、「キャリアも愛も」かもしれないのだ。流行りの言葉で言えば、それこそがワークライフバランスかもしれない。
 
でも、そんなことは暇な時に考えればよい。まずは、映画の天使がくれた時間を味わうとしよう。
 
 
ちなみに、こちらも強くお勧め。画像はアマゾンより。
2ショット写真がカバーに使われている映画はいい映画という法則があるのかな。(単に私が好きなだけかもしれません)

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