当時としてはハイテンポの展開だが、現代のテンポから見ると、予想どおりちょっとスローに見える映画。間延びしているわけではないのだが、時間の感覚が30年前と今では異なるのだろう。息もつかせぬ展開、というわけではない。
しかし、それでも愛すべき映画である。ロードムービーとして非常に楽しめる。
画像はアマゾンより。(アマゾン・プライムでも観られます)
以下、若干のネタバレあり。できれば観た後で、余韻を味わうお供にどうぞ。
(目次)
- ハードボイルドとはこういうことだ。
- 賄賂は受け取らない
- 「最も危険なゲーム」
- 後味の悪い「ハードボイルド」になっていたかもしれない
- ぐっとくるシーンがいくつかある。
- 映画では血が流れない。
- 賞金稼ぎは実在する
- 乗り物マニアにもどうぞ
- 80年代のアメリカ
- ジャックがやりたい「コーヒーショップ」とは
- ハードボイルド・ヒーローの見果てぬ夢
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ハードボイルドとはこういうことだ。
別れた女房には金をせびるが、数年ぶりに会った娘からの金は受け取らない。
ラストシーンも、普通に考えると矛盾がある。しかし、映画的なハードボイルド・ヒーローは、これでなければならないのだ。
マイルールに生きる男(女も)をハードボイルドと定義できるだろう。ある種、ストイックな生き方だ。逆の見方をすれば、マイルール以外に自らのよって立つものがない、ということかもしれないが。
金も、地位も、名声も、女も、家族も持たない。友達といえるのは、賞金稼ぎの仲間だけ。それも騙し騙される競争相手である。
こんな主人公から、マイルールを取っぱらったら何が残るだろう。
人生の選択の時に、マイルールを選んだからこそ、今の孤独な自分がいるわけだ。
現実の人間は、マイルールよりも現実を取るだろう。そのほうが幸せな家庭が持てるかもしれない。分かれた女房と警部の家庭のように。
だからこそ、ハードボイルド・ヒーローは、映画の中で生き続けるのだ。
会計士のデュークもまた、マイルールに生きる男、ハードボイルドヒーローである。
賞金稼ぎのジャックにつかまって、護送されたあげく保釈を取り消されれば、殺されることがわかっている。だが、減らず口をたたく。彼が正気を保つ方法は、自らのスタイルを保つことだけだ。
この作品は、そんなハードボイルド・ヒーローたちの物語である。
ロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、アリゾナ、ロスと舞台はめぐる。契約を守ったジャックだが、最後に契約を破る。他人との契約よりも、自らの契約(マイルール)を守ることを優先したのだ。会計士を護送することは契約上のミッションだったのが、最後には会計士を護ることが自分のミッションとなったのだ。
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賄賂は受け取らない
契約するまでは、契約金を吊り上げる。しかし、一旦契約したら、とことん契約を守る。たとえ、他が破格の条件を出したとしても。それを受けることは、契約を破ること、「賄賂」なのだ。
但し、契約相手が自分を信頼していない、自分を裏切ったと感じたら、躊躇いなく破棄する。
最後に会計士から受け取ったものは、賄賂ではない。賄賂という取引、トレードやディールではなく、友情の証し、グッドウイルなのだ。
ちなみに、ジャックの契約は10万ドル、同業者は2万5千ドルである。他のブログでは、ジャックの方が安い契約としているが、勘違いだ。ジャックなりに商売上手なのだ。
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「最も危険なゲーム」
という、ギャビンライアルの往年の冒険小説にも、似たようなシーンがある。(以下、ネタバレ)。美貌で金持ちのビークマン夫人に「某所に連れて行ってくれたら、新品の飛行機を買ってあげる」と言われ、それを賄賂だとして拒絶した辺地の個人営業パイロット、ビルケアリが、後半ではタダ同然で連れて行く。後で、それを「金持ちへのステップのイロハも知らない行為」だとして、夫人にからかわれる。ただし、拒絶したことで、ビルは夫人の雇われ人ではなく、対等な自立した個人として認められるのだ。
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後味の悪い「ハードボイルド」になっていたかもしれない
もし、クライアントの保釈金融業者が、二股をかけて、他の賞金稼ぎにも依頼しなかったら、どうだろう。会計士はいい奴だが、ジャックは契約を履行しただろう。後味の悪い「ハードボイルド」になっていた。ハードボイルドの物語が美しいのは、かなりタイトな条件があるのだ。
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ぐっとくるシーンがいくつかある。
とりわけ、別れた女房の家を訪れるシーン。やるせない。
そして、もちろん、ラストシーン。
それらがぐっとくるための道具立てもいい。主人公が止まりがちな旧式腕時計をしばしば振るのも、いい。別れた女房と娘が、美人でないのもいい(不美人ではない。リアリティのあるキャスティングなのだ)。
別れた女房の再婚相手は、元同僚の警部補(ルテナン)で今は昇進して警部(キャプテン)。しかし、暮し向きは豊かでなく、女房の手持ちは僅か。
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映画では血が流れない。
がしかし、ヘリの襲撃者たちは、撃墜された。狙撃者も撃ち殺された(もしくは重症だ)。死人は出ている。血が描かれないだけだ。その点は、ディズニーランドのアトラクションと同じである。
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賞金稼ぎは実在する
映画では、ジャックがデュークに白昼堂々、粗っぽく手錠を掛けて、連行している。現代で、警察官でもない者がそんなことができるのか、と疑問だった。
しかし、アメリカではできるのだ。保釈保証業者とバウンティハンターについては、以下のサイトが面白い。
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乗り物マニアにもどうぞ
自動車はもちろん、飛行機(国内線ファーストクラスには、テーブルと花)、鉄道(大陸横断鉄道アムトラック、貨物列車)、長距離バスなど、ディテールが面白い。ハイジャック対策はほとんどない時代でもある。
インディアンの居留地(リザ-べーション・キャンプ)もちょっとだけ出てくる。そこでのおんぼろプロペラ機のシーンも楽しい。
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80年代のアメリカ
も楽しめる。私はダイナーのシーンが好きだ。ジャックが、出しっぱなしの酸化したコーヒーを注がれるシーン。会計士が紅茶を注文して、お湯とティーパックを出され、パックをせわしなく上げ下げするシーン。路銀がない2人が、モーニングセットメニューを説明され、しかし食べ損なうシーンも。
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ジャックがやりたい「コーヒーショップ」とは
10万ドルの賞金で賞金稼ぎから足を洗って、ジャックが始めたいのは「喫茶店」と字幕に出ているが、「コーヒーショップ」である。1980年代のアメリカには、もちろん日本風の喫茶店やコーヒー専門店は、ほぼない。(ロスのリトルトーキョーにはあったかもしれないが。)もちろんスタバもタリーズもまだない。
あるのは、軽食堂であるダイナー、劇中にも出てくるようなトレーラーハウスをダイナーにしたような店である。ただしダイナーは1950年代が最高潮であり、当時はトレンドの店ではない。やや田舎っぽいイメージだ。ダーティーハリーのキャラハン刑事が愛用しているのもそれ。
当時、コーヒーショップと言われているのは、日本で言うファミレスである。代表的なのは、デニーズだ。コーヒーをお代わり自由で出すのが特徴。だから、コーヒーショップと呼ばれていた。当時のロスなど、大都市に段々増えていたのがそれだ。ジャックはフランチャイズ店のオーナーになりたいタイプではないので、流行の独立系のファミレス(コーヒーショップ)をやりたかったのだろう。
ちなみに、「コーヒーのお代わり自由」というのは、デニーズが上陸した70年代の日本では、衝撃的であった。決しておいしくはないコーヒーではあったが、それがアメリカの味、アメリカのスタイルだった。
日本では、デニーズが上陸するまでは、ドライブインと言われていたタイプだ。
レストランというほど、スーツで出かけねばないような専門店ではなく、カウンター主体のダイナーとレストランの中間的な位置づけである。
会計士のセリフも面白い。盛んに「コーヒーショップはリスクが高い。1年で半分が潰れる。止めておけ。」と言う。その通りだ。コーヒーショップは、ダイナーよりも規模が大きく、投資額も大きくなる。当時も、独立系のコーヒーショップは、デニーズなどのチェーン店に駆逐されつつあったのだ。
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ハードボイルド・ヒーローの見果てぬ夢
「最も~」のビル・ケアリの、航空測量会社を興す夢と同じ、見果てぬ夢なのだ。それを実現するには、賄賂を取らねばならない。
しかし、この映画も、「最も~」も、主人公は己を貫き通し、その上で、提示されたものよりも大きな現実的な果実を手にしたことが暗示されている。そこがまたいい。
映画とは、リアリティの衣を被ったおとぎ話なのだ、ということを味わえる名品である。今宵はハードボイルドという、見果てぬ夢に浸り切ろう。