飛行機などの交通機関での、赤ちゃんのギャン泣き、どう考えますか?
昨年、漫画家が飛行機内での赤ちゃんギャン泣きへの不満を雑誌に投稿して炎上した事件があった。
今回は、「心温まる、飛行機会社の粋な工夫」のお話が拡散されつつある。
(目次)
- 大泣きする赤ちゃんを愛せるか
- ビジネスとしては正しい
- 母の日だけでなく、毎日のしくみにできるか
- 「さかもと未明炎上事件」 への声
- 混載された乗客と逃げる航空会社
- 誰がギャン泣きのコストを負担すべきか?
- 「棲み分け」という解決策
- サイレンスカー
- 棲み分け案も万能ではない
- あなたがギャン泣きの赤ちゃんの隣の席だったら
より引用。
アメリカの航空会社「JetBlue Airways」が画期的なキャンペーンをしました。
赤ちゃんが大声で泣くほど、乗客全員がにっこり嬉しくなるのです!
一体どんなキャンペーンでしょう?
●「もっと泣いて!」ギャン泣きで拍手が!
「FlyBabies」というキャンペーンは、6時間のフライト中、搭乗した赤ちゃんが全員に聞こえるほどの「ギャン泣き」するたびに、次のフライトが25%割引になるのです。
4回泣けば、次の往復チケットが無料になるのです!
小さなすすり泣きはカウントされないので、思いっきり大声で泣いた方が感謝されるのです。
(中略)
このキャンペーンは、5月8日の母の日に実施されました。
日ごろ、赤ちゃんを連れた母親たちがどれだけ苦労しているか、理解してもらうために、大胆なキャンペーンに踏み切ったのです。このPR動画の最後には、「次に大泣きしている赤ちゃんを見たら、ぜひ笑顔でいてくださいね」というメッセージが。
ジェットブルー航空については、ジェットブルー航空 - Wikipediaを。
さて、このキャンペーンをどう考えるか。
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大泣きする赤ちゃんを愛せるか
客の笑顔は、赤ちゃんに向けられたものではない。自分が受けられる割引に対して向けられたものだ。いわば航空会社が親に代わって迷惑料を自分に払う、ということだ。
なので、赤ちゃんを愛せよ絶対主義者(?)にとっては、倫理的には許せないキャンペーンということになる。
ただし、このキャンペーンの面白いところは、2人目のギャン泣きでさらに割り引きとしたこと。つまり、「泣かれたら困る存在」から「泣いて欲しい存在」へ赤ちゃんのポジショニングを移動させるキャンペーンなのだ。
そうするとどういうことが起きるか。人の感情とは不思議なもので、それ泣け、もっと泣け、大声で泣け、ということになる。赤ちゃんへの見方が転換するのだ。
それがこのキャンペーンの狙いだろう。
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ビジネスとしては正しい
ビジネス的にこのキャンペーンを考えてみよう。
ギャン泣きしたら周りのお客を割引、ということは、一理ある。飛行機代が安くなることは嬉しいからだ。
また、正規料金は静かさ込み、という前提で、ギャン泣き迷惑料を、丁度遅延割引と同じ発想で、周りのお客が受け取る、という方法だ。
ただしこれは、静かさを求めるお客には歓迎されないだろう。彼らが求めるのは、割引ではなく、静かさだからだ。いわば、牛丼一杯を注文したら、まずい牛丼を食わされて、はい割り引きました、と言われるようなもの。
だが、これはアクシデントであると考えると甘受できなくはない。
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母の日だけでなく、毎日のしくみにできるか
どうだろうか。その分、いつもの料金を高くする必要がある。仮に10回に1回、ギャン泣きが発生したとして、25%割引。これを持続させるためには、正規料金を、2.5%上げる必要がある。(他に、航空会社にとっては払い戻しコストがかかるがそれはここでは考慮しない)
他の要素は乗車率にどう影響するかだが、それはここでは割愛。赤ちゃん連れは間違いなく増えるが、ギャン泣き容認飛行機、ということで、静寂を求める客は避けるだろう。
ジェットブルー航空は格安航空会社(LCC)だ。だから、静寂よりも安いことを求める客が多いだろう。とすれば値上げをしなければ客が増える可能性がある。
一方、同社にとっては2.5%の値上げができれば安心だ。
私は最初、これってどうよ、と思ったのだが、よく考えてみると、なるほどでもある。
逃げている日本の航空会社に比べて、ジェットブルー社は、ともかく取り組んだ、という点で評価する。
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「さかもと未明炎上事件」 への声
その前の「さかもと未明炎上事件」をおさらい。
これに対して、BLOGOSや発言小町などに、いろんな意見があった。
「静寂が欲しければビジネスクラスに乗ればいいだろ」
つまりエコノミークラスの客は、騒音を甘受せよ、という意見。
「赤ちゃんを連れて飛行機に乗るべきじゃない」
これには、「赤ちゃんの健康にも悪いし」などのバリエーションもある。確かに、親の楽しみのために、たとえば乳児を連れてハワイに遊びいくのはどうか、という面はある。その一方で、諸般の事情で、やむを得ず、というケースもあるだろう。
「それぞれいろんな事情がある。赤ちゃん連れに優しくしてほしい」
これには「外国は赤ちゃん連れに優しいよ」などという「出羽守」な意見もある。外国も様々だが、そういう面もあるだろう。一方、日本は子供連れに寛容という面もある。欧米では、レストランは大人の世界、子供をベビーシッターに預けて行く場所、という面もある。一概に言えないのだ。もちろん飛行機は大人の世界か、というとそうとはいえないのだが。
ただし、赤ちゃんの泣き声に困るのは、日本だけではない、という証拠がこのジェットブルー航空の事例だ。みんなが赤ちゃんに優しければ、こんなキャンペーンは打たないはずだからだ。
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混載された乗客と逃げる航空会社
混載された乗客ができることは、限られている。
逃げるか、受け入れるか、低減するか、しかない(具体的方法は最後に述べる)。しかし、狭い機内は逃げる余地は少ないのだ。
航空会社は、この問題について及び腰だ。子供連れと静寂を求める客のどちらの肩を持っても、反対側から叩かれるからだ。
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誰がギャン泣きのコストを負担すべきか?
発生側(赤ちゃん連れ)にコストを負わせるか、回避したい側(静けさが欲しい客)がコストを払うか。
ビジネスクラスの代わりに、「赤ちゃんクラス」を設ける。もしくはビジネスクラスを「非赤ちゃんクラス」にする、という方法だ。
前者は反発が強い。後者も、実は貧乏人は迷惑を甘受せよということになる。
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「棲み分け」という解決策
これが一番スマートだろう。
飛行機は1日に複数便飛んでいる航路がほとんどだ。その場合、「赤ちゃんウエルカム便」と「サイレンス便」に分けるのだ。
赤ちゃんを連れての旅行には様々な事情があるだろう。しかし、そもそも最初から1日1便(もしくは数便)しかない、と思えばそんなものだ。
ただし、棲み分けが顧客に支持されるかどうかは、社会的な問題だ。赤ちゃん連れの権利を100%守れ(つまりどの便にも乗せるべきだ)、という声や、飛行機の中は自由にさせろ、という意見もあるだろう。
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サイレンスカー
実際に、欧州では、列車に「サイレンス・カー」という車両が設置されているケースがある。これは、赤ちゃんに限らず、要はおしゃべり禁止の車両ということ。
ドイツの場合は、一等車がそうなっている。日本の一等車(グリーン車)は、普通車よりも静かなことが多いが、大声でおしゃべりするなど、意外にマナーが悪い人も目立つ。
鉄道交通を考える。(8)ドイツ・ICE「Psst」という発想。 – 中京テレビ:稲見駅長の鉄道だよ人生は!!
ちなみに、日本でもかつてJR西日本ではひかりレールスター 700系の4号車を「サイレンスカー」としていた。ただし、今は廃止された。JR東海などの混雑路線でこそやってほしいものだ。
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棲み分け案も万能ではない
棲み分け案は、誰でも思いつく案かもしれない。
しかし実際には、航空各社は競争の中にいる。そこを考える必要がある。
同じ路線、たとえば羽田札幌便でANAとJALのうち、たとえばANAがこれを導入した場合、どうなるか。 (同路線にはエアドゥなどもあるが、置いておく。)
赤ちゃん連れならば、赤ちゃんウエルカム便を選ぶ。そうでないならば、サイレント便を選ぶ。
では、同時刻に発着するJALはどうだろう。9時羽田発の赤ちゃん便と混載便。赤ちゃん連れならば赤ちゃん便を選ぶが、そうでない人は、混載便を選ぶだろう。結果、どちらの乗車率が高くなるか。ヘタすると赤ちゃん便はがらがら、となりかねない。
20時羽田発のサイレント便と混載便ならば。赤ちゃん連れは混載便。そうでない人はサイレント便を選ぶだろう。こちらはよさそうだ。一般に、機内では静かにしていたい、という人が多いのだから。
つまり航空会社は、赤ちゃん便が一杯になるほどのニーズがある時間帯を選ぶ必要があるだろう。
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あなたがギャン泣きの赤ちゃんの隣の席だったら
それはともかく、実際の話、ギャン泣きの赤ちゃんの隣の席になることはある。私はどうしているか。私は「4つの戦術」で対応している。
・他の席が空いていれば、移動する。
・移動が無理ならば、赤ちゃんを自分の子供だと思うように努力する。
・できれば、お母さんとコミュニケーションをとってみる。
・道具で対応する。たとえばこれ。
ただし、周囲の音を100%カットすることはできない。あくまで低減するだけだ。
それでも、劇的に小さくなる。そして自分の好きな曲や映画を見る、ということでしょうね。