時々話題になるのが、住宅を買った方が得か、賃貸の方が得か、という問題だ。
いろんな計算式で、どっちがどうだ、という記事が出る。
しかし、それらのほとんどは、本質を突いてない。上っ面の比較である。なので、どっちもどっち、とかケースバイケースみたいな結論になりがちだ。
ここで、計算式やグラフを使わずに、極めて普遍的で基礎的なたった2つの法則を紹介する。
これは投資理論や金融理論の基本中の基本だ。
「あなたなら、きっとわかるよねっ」
(五十嵐優美さん 足成より)
(目次)
- 経済や投資に強い人には
- 私は素人、という人には
- ここで覚える法則はたった二つ
- リスクプレミアムの法則とは(第一法則)
- 所有プレミアムの法則とは(第二法則)
- 不動産神話と所有バイアス
- プロと素人が使う法則の違い
- なぜ分譲マンション業者は、土地を仕入れて、マンションを建てて売るのか。
- 他の要素もあるのではないか
- あなたはどうすべきか?
- 投資の対象を、自分が住む住宅だから、不動産だから、と考えた時点で間違いなのだ。
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経済や投資に強い人には
経済や投資に強い、FP(ファイナンシャルプランナー)の資格を持っている、という方ならば、当然に理解できるはずだ。万一、理解できなければ、それは勉強の仕方が間違っているのだ。(実は、間違った教育が普及しているのだが。)
ただし、断っておくが、これを知っていると、かえって素人相手の商売はしにくくなるかも知れない。プロにとって、素人に知られては困る話しだからだ。
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私は素人、という人には
一方、この手の話しは全く初めて、という方。是非、先入観を一旦置いておいて、素直に読んでみて、考えてみてほしい。あまりにも基本的で普遍的な世界中の法則なので、よくよく考えると、きっと理解できるはずだ。
そうなると、あなたは、そこらの不動産にちょっと詳しい人よりも、遙かに高いレベルの本質を身につけることができる。そして、この見方は、マンションに限らず、不動産に限らず、何にでも応用できるのだ。
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ここで覚える法則はたった二つ
一つは「リスクプレミアムの法則」だ。
もう一つは「所有プレミアムの法則」だ。
マンションを例に、順に説明する。
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リスクプレミアムの法則とは(第一法則)
「リスクを取る人は、その分リターンをもらえる」ということ。それだけ。
分譲マンションを買う人は、リスクを取る人だ。それに対して、賃貸マンションを借りる人は、リスクを取らない人だ。
ここでいうリスクとは、たとえば老朽化した時に、管理組合の合意がとれずに、修繕が滞ってボロマンションになったり、建て替えの合意がとれなかったりすること。また、住人におかしな人が入ってきた時、周囲の人口が減少したり、治安が悪くなったり、などなどだ。もちろん、欠陥マンションをつかむリスクもある。耐震偽装で取り壊しや、くい打ち偽装のケースが記憶にあるだろう。
だから、理論的には、リスクを取ってマンションを買って人に貸す人は、そのリスク分だけの恩恵がないといなくなるはずだ。つまり、借りるよりも安く買えれば、それがリターンとなる。
貸すのでなく、自分で住む場合も同じだ。たとえば転勤もリスクであり、転勤したときに、高く売れるか安く売れるか、わからない。それもリスクなのだ。もちろん離婚だって、今どき普通にある。自分で住む、というのは「自分で買って自分に貸すこと」なのだ。
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所有プレミアムの法則とは(第二法則)
もう一つの法則、それは、
「所有プレミアムが発生する場合、購入価格には所有プレミアムが上乗せされ、割高になる。」
それだけ。
所有プレミアムというのは、第一法則の理論値と実際の購入価格の差である。
つまり、第一法則の理論では1000万円のはずなのに、いざ買おうとすると、1500万円であれば、差額の500万円が所有プレミアム、ということ。
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不動産神話と所有バイアス
「不動産神話」というのがそれだ。
不動産に限らず、日本人に限らず、行動経済学的に「所有バイアス」というのがある。バイアスとはゆがみのこと。人はモノを持っていると安心して、手放したくなくなるのだ。客観的価値が100円の安カップでも、ひとたび自分のモノとなると、150円でないと手放したくなくなる、という有名な実験がある。そういうこと。
それに、戦後日本特有の不動産価格の右肩上がり現象などが加わって、日本の強固な
「不動産神話」が生まれたのだ。
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プロと素人が使う法則の違い
だから、第一法則に支配されるプロの間では、1000万円でしか取引されない物件が、第二法則に支配されるアマチュアに売る場合、1500万円で売れるわけ。プロはこれを、「素人」といわず「エンド(エンドユーザー)に売る」と表現する。エンドに売ったほうが、プロは儲かるわけ。それが所有プレミアムと思っていい。
この所有プレミアムの強さは、地域によっても異なる。いわゆるブランド価値だ。東京で言えば、北部よりも南部のほうが所有プレミアムが高い。賃料も差があるが、その差以上に、売買価格の差が大きいのだ。
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なぜ分譲マンション業者は、土地を仕入れて、マンションを建てて売るのか。
なぜ彼らは、いい立地の土地を仕入れて、賃貸マンションを建てて貸して、息長く儲けようとしないのか。(実は、そういうケースはわずかにあるが、例外だ。)
その答えは、「所有バイアス」から生まれる「所有プレミアム」にある。貸すよりも売ったほうが、儲かるからだ。所有プレミアム付で、高く売れるからだ。
以上である。これでおしまいなのです。
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他の要素もあるのではないか
確かにそうだ。
他の要素、たとえば、住宅ローン減税、市況をどうみる、などがある。が、これらは上の二つの法則の基本の上の、ごくごく表面的な要素にすぎない。
現実にはそれらを考慮するのは当然だが、何事もまず基本を押さえる必要がある。
基本があってこそ、応用がある。それが分かっている人を本当のプロと呼ぶのだ。
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あなたはどうすべきか?
それはあなたが金持ちか貧乏人かで決まる。
あなたが金持ちならば、不動産を買うのは割に合う投資である。
あなたが貧乏人ならば、身の丈を超えた集中投資である。
金持ちとは、お金を十分持った上で、お金を借りて、あちこちに分散投資ができる人のことを言う。
貧乏人とは、お金を余り持っていなくて、不動産を買うためには絶対借金をしなくてはいけない人のことを言う。
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投資の対象を、自分が住む住宅だから、不動産だから、と考えた時点で間違いなのだ。
不動産の購入は、株券やトヨタの社債を買うのよりも、はるかにリスクが高い集中投資である、ということを理解せねばならない。不動産は高価であるがゆえに、貧乏人には、集中投資と同じこと、つまり身の丈を超えたリスクを背負うことになる。
リスクを取って集中投資した場合、もちろん成功することもあるかもしれない。だが、失敗することもあるのだ。後者が見えない人が多いから、第二法則が発生しているのだ。