6月23日、英国のEU離脱の是非を問う国民投票が行われます。
果たして英国はEUを離脱するのでしょうか?
私は、英国は「保険の原理」が働いて60%の確率で、ぎりぎりのところでEUに留まると予想します。
(目次)
画像は 英世論調査、EU離脱派が残留派を7ポイントリード=ユーガブより
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世論調査は離脱派が残留派を上回る
直近では、離脱派が急上昇し残留派を超えて半数に迫る勢いです。
6月15日の日経朝刊1面によれば、(英国の)「7つの世論調査の平均値は離脱46%、残留44%。『英の首相官邸はパニック』と報じられた。」とのこと。
また、こんなふうに報じられています。
英世論調査、EU離脱派が残留派を7ポイントリード=ユーガブより
[ロンドン 13日 ロイター] - 13日に公表された英タイムズ紙向けのユーガブの世論調査によると、英国の欧州連合(EU)離脱を支持する英国民の割合が46%となった。一方、残留を支持する割合は39%だった。
11日に公表された同じ世論調査では、離脱派が残留派を1ポイントリードしていた。
13日に公表されたORBのデイリー・テレグラフ向け英世論調査では、EU離脱を支持する割合が49%、残留を支持する割合が48%だった。
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オッズは
一方、ブックメイカー(賭け業者)が公表しているオッズ(確率)はどうでしょうか。代表的な2社を見てみます。
betfair EU Referendum Betting - Latest Polling & Odds - June 12
European Union Membership Referendum - Latest Oddsより
6月14日及び15日
残留:1.45 (69%)
離脱:3.15 (31%)
William Hill Politics betting | William Hill
EU Referendum - Thursday 23 June | Vote on the fate of the UK in the EUより
6月14日 15日
残留:1.53(62%) 1.57(60%)
離脱:2.50(38%) 2.37(40%)
(ウィリアム・ヒルの括弧計算は筆者による)
ということで、ブックメイカーは残留の確率を6割~7割とみています。
なお、ブックメイカーのオッズは毎日変更されるとは限りません。あくまで業者が変更の必要があると思った時に変えるのです。昨日と今朝(日本時間15日朝)では、ベットフェアは変えていませんが、ウィリアム・ヒルは、離脱の確率をさらに上げてきました。
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行動経済学で考えると
あなたの目の前にAとBと書いた2つのハコがあります。2つのうちどちらを選びますか?
1.Aのハコには、1万円が入っています。Bのハコには、1/2の確率で、2万円が入っています。
2.Aのハコには、1万円。Bのハコには1/2の確率で3万円が入っています。
3.Aのハコを選ぶと、あなたは1万円払わねばなりません。Bを選ぶと、1/2の確率で一銭も払わないで済むか、2万円払うことになります。
これらの問いは、行動経済学で実験されたものを少しアレンジしました。
一般には、次のような傾向が現れます。
1の場合は、Aを選ぶ人が多い。
2の場合は、分かれる。
3の場合は、分かれるが、1のケースよりもBを選ぶ人が増える。
これらはリスク選好度、つまりリスクを取る度合いを示す実験です。
一般的には人はリスクをとりたがらない傾向(リスク回避的)にあります。1と2はそれを示しています。
一方、利益よりも損失のほうを重くみる(損失回避的)ので、1と3を比べると、リスクを取る人が増えます。
ところが、次の問いはどうでしょう。
4.Aを選んだ場合、毎年1000円を払わなければならない。Bを選んだ場合、うまくすると全く払わなくていいかもしれないし、うまくすれば毎年1000円もらえるかもしれないが、ひょっとすると10万円を払わなければならないかもしれない。その確率は明らかにされていない。
これだと、Aを選ぶ人が多いのではないでしょうか。(お金持ちで、10万円も1000円も同じはした金、と感じる人は別です。)大きな損失を生む可能性のある賭けには、乗りたくないものです。ここでは「リスク回避」の力学が働きます。
いわば、Aは10万円を払わなくて済む「保険料」と見ることができます。これを「保険の原理」と名付けてもいいでしょう。
イギリスの場合も、そういうことではないでしょうか。
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英国人はどう考えるか
あなたにとって大事なものは何でしょうか。家族を含む生命が大事、その次は仕事(雇用)、というのがまあ一般的でしょう。
英国人も同じ。投票日が近づくにつれ、失う可能性のあるものの大きさがちらつきます。英国離脱派が優勢という世論調査、株価やポンドの下落などが報じられます。
ひょっとしたら、職を失うかもしれない、という恐怖が生まれます。
それまでの調査は、どちらかというと、「現状への不満」が優勢になりがち。しかし、離脱が現実のものになりそうだ、と思うと、「失うかもしれないものの大きさ」が頭をもたげます。
したがって、現状へのいろいろな不満という「保険料」を払っても、大きな損失を生むかも知れない賭けから身を引くことを選ぶのではないでしょうか。
どちらかというと、離脱論のほうが威勢のいい発言をしやすいものですが、サイレントマジョリティは現状維持を選ぶ、と私は見ています。
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「現状維持」がひっくり返るのはどういう時でしょうか。
一つは、大きなテロ事件が起きて、命への脅威が強く意識されるときです。雇用より命だ大事ですから。
もう一つは、今でも職がない、もしくはこの先、職を失うかもしれない、と思っている人が多い場合です。英国の失業率は5%。言い換えると95%はともかくも職についています。しかも数年前は8%ですから、英国では職が増えているのです。
また、経済成長率もこのところ2%前後と、1%前後に低迷している日本よりは遙かに高い成長率です(ともに物価の影響を除いた実質成長率)。
このような国の国民が、大きなリスクを冒す可能性は低いでしょう。
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スコットランド独立投票もこのパターン
2014年に行われたスコットランドの独立を巡る住民投票もこれに似たパターンです。
2014年スコットランド独立住民投票 - Wikipediaより
2014年2月7日時点では賛成43%、反対57%だったが、その後はじわじわと賛成が上昇し、9月7日の『サンデー・タイムズ』の世論調査で賛成51%、反対49%となり、初めて独立賛成派が反対派を上回った[16]。しかし9月13日の発表では、賛成46%に対し反対54%となった。
そして9月18日の投票の結果、反対票が55.3%、賛成が44.7%となり、独立は否決されました。つまり、投票11日前では、独立賛成が多かったのに、5日前では逆転し、それと投票結果はほぼ同じとなったわけです。
これは、前述のリスク選好度の反映とみることができるでしょう。
今回の国民投票は23日、その5日前は18日です。その当たりが投票の結果を占う大きなタイミングと思います。
と、いうことで、私は英国が「保険の原理」によってEUに留まる確率は60%とみています。大体、ブックメイカーのオッズと同じくらいですね。それでも離脱の可能性が40%ということは、非常に大きなリスクです。
イギリスの人たちが、自分たちが普段意識していないけれど、生活の基盤として当たり前に享受しているもの、それを失う可能性を意識して投票することを期待します。
2016.6.24追記。ご存じのとおり、英国のEU離脱が決まりました。予想が外れた私の反省と愚痴はこちらをどうぞ。