むのきらんBlog

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中国の核戦略は相互確証破壊(MAD)の実現~南シナ海や尖閣だけではない、想像したくない近未来シナリオ~

南シナ海、東シナ海、さらに日本近海での、中国の海洋進出が続いています。南シナ海での進出はアメリカに対抗するため、アメリカ本土をいつでも核攻撃できる態勢を整えるためだ、という説もあります。

中国の核戦略は、相互確証破壊(MAD)を米国との間で実現することだと想定できます。そうなると、どうなるでしょうか。

とてもではありませんが、想像したくないような恐ろしい近未来シナリオが待っています。

(目次)

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中国海軍フリゲート艦 江凱II  中華人民共和国海軍艦艇一覧 - Wikipedia

 

そもそも、

  • 相互確証破壊(MAD)とはなにか

簡単にいえば、西部劇で二人が銃を持って対決した時、先に撃ったほうが必ず撃たれると確信すれば、二人とも引き金を引けない状態になる、ということです。

 

相互確証破壊 - Wikipediaでは次のように書かれています。

相互確証破壊(そうごかくしょうはかい、英: Mutual Assured Destruction, MAD)とは、核戦略に関する概念・理論・戦略。核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し核兵器を使用した場合、もう一方の国が先制核攻撃を受けても核戦力を生残させ核攻撃による報復を行う。これにより、「一方が核兵器を先制的に使えば、最終的に双方が必ず核兵器により完全に破壊し合うことを互いに確証する」ものである。理論上、相互確証破壊が成立した2か国間で核戦争を含む戦争は発生しないことになる。また歴史上も米国とソ連の間に相互確証破壊が成立した冷戦後期以降、この2カ国間で戦争は発生していない。

 

つまり、

  • 核の傘が効かなくなる

相互確証破壊が成立した2か国の間において、核の傘は機能しないため、消滅すると考えられている。日本を例にとれば、冷戦後期に米国・ソ連の間で相互確証破壊が成立したため、ソ連との関係において日本に対する米国の核の傘は消滅した。

 ということです。

 

では、Wikipediaの

  • 「相互確証破壊が成立した2か国間で核戦争を含む戦争は発生しないことになる。」は本当か?

確かに、両国の間で核戦争は発生しなくなるでしょう。つまり、事実上核兵器が無力化するわけ。

とすればどうなるか。

通常兵器だけを保有した大国がにらみ合うのと同じ、ということになります。

 

  • MADな世界とは

MADな世界では、核の傘は事実上無力化され、「通常兵器だけの世界」が現出します。 つまり原爆が投下された1945年以前の戦略的状況と同じ次元に戻るわけです。 1945年以降から今日までとは、全く異なった状況が生まれる可能性があります。

 

「核の恐怖」による抑制がきかなくなる、ということは、現在の世界各地で起きている紛争・低強度戦争のような、通常兵器による戦争・戦闘が、超大国・大国をも相互のプレイヤーとして起きる可能性があるといことです。

その場合は、核による脅しというオールオアナッシング的な威嚇が効きにくく、ここまではやるけどこれ以上はやらないよ、というようなこともあり得る。そのような読み合いであり、刻々と変化する国民感情に、各国政府は一層振り回される、ということになるでしょう。

 

  • たとえばこんなことが

仮に米国が「トランプ大統領」になった場合でも、中国の動きに「あんまり図に乗ると核を使うよ」と今は口で言えます。 しかしMADが成立すると、中国は「その手は封印されてるよ」ということで、「中国の海である西太平洋に手を出したら撃つからね。血を見たくなければ、あんたらはハワイから東半分、アメリカ大陸に引っ込んでな。そこまでは手を出さないからね。米兵の血は高いんでしょ。」と言えるわけです。

 

  • ソ連(ロシア)とアメリカは戦争にならなかったが

ところで、MADが実現して久しいソ連(ロシア)とアメリカでは、戦争が起きていません。これは、Wikipediaの説が正しいから、ということでしょうか。

私は違うと考えます。確かに第二次大戦のような、ドイツや日本が壊滅の瀬戸際となるほどの戦争は起きないでしょう。先の大戦でドイツや日本が核兵器を持っていたら、そこまで追い詰められたら、仮に自国が焦土になろうとも、躊躇なく使うでしょうから。日独ともに国民の生命よりも(当時の日本では「国体」と呼んだ)「体制」の維持が最低限の戦争目的でしたので。

したがって、MADの2国間での滅亡を賭けた「大戦争」は起きなくても、「中戦争」「小戦争」は起きえます。ベトナム戦争など、過去の「代理戦争」は、このバリエーションとみることができるでしょう。

 

  • 中世的な戦争の世界

つまり「節度ある戦争」は起きる可能性があるということです。いわば中世ヨーロッパ的な戦争の姿です。利害が対立した2国間が戦争で決着をつけようとする。そして、一方の優勢が確定したところで、講和という手打ちになる、というタイプです。

中世的な戦争の世界では、相手をとことんまで滅ぼしません(滅ぼすケースもありますが)。ただし、「属領」や両国の勢力圏が接する地域は、常に争奪の対象になり、右に左にと翻弄されるのです。ここは、ヨーロッパのめまぐるしく変わる歴史絵地図を見ていただくと、容易に理解できます。

では、米中が争う時、翻弄されるのはどの地域か。それは明らかです。

 

  • 北朝鮮もMADを狙っている

MADを狙っているのは、中国だけではありません。北朝鮮もまた、米国との間でのMADを目指しています。米国本土を核攻撃可能な弾道ミサイルの開発を続けています。

北朝鮮がMADを確立した場合、何が可能になるでしょう。

これまでは、北朝鮮が(多連装兵器などで)「ソウルを火の海にするぞ」と脅かしても、(米国の核兵器で)「ピョンヤンも火の海になるぞ」と言われます。しかし、MADが確立すると、「ピョンヤンも火の海になるぞ」と言われたら、「ワシントンも火の海になるぞ。それでもやるのか?」と言い返されてしまうのです。そのとき、アメリカはどう答えるでしょうか。

 

  • 米中のMADはいつ実現するか

以上のとおり、ざっくりと表現しましたが、これは想定したくない、不都合で恐ろしい近未来シナリオです。

中国と米国の間のMADは、2020年代には実現すると予測されています。残念ながら中国の核戦略の進展を止めることはできません。私たちは、この「不都合な真実」に向き合っていくしかありません。

米国の「核の傘」の下で安心していられた時代は、続かない可能性が高いのです。

 

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2017.4.2 追記。

タイトルや表現を若干修正しました。内容の骨子は変わりません。「トランプ大統領」がついに実現してしまいました。そして、北朝鮮や中国については、エントリーで危惧した方向にどんどん進んでいます。それが、「私たちが生きている時代」なんですね。