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なぜ原爆投下は戦争犯罪か~アメリカ人にきちんと説明できますか~

広島、長崎への原爆投下。それは果たして戦争犯罪なのでしょうか。

5月のオバマ米大統領の広島訪問は、いろんな議論を呼びました。橋下徹氏は、オバマ米大統領は謝罪すべきだと主張しました。 

そもそもそれは犯罪なのでしょうか。アメリカ人に納得してもらえるように説明できますか?

 

広島・長崎への原爆投下は、当時でも非人道的であり犯罪的。現在では明確に戦争犯罪です。

そこのところを、シンプルに整理しました。

 

(目次)

 

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 画像はpixabay.comより 

  • 代表的な見方

原爆投下についてはいろんな見方があります。

 「民間人を大量に殺したのだから、当然戦争犯罪でしょ」という見方が多いでしょう。

一方、「戦争なんだから、勝つためにはしかたないでしょ」という見方も。

さらに、米国では、「早く戦争を終結させるため、多数の米兵、さらには日本人の命を救うためには必要だった」という見方もあります。

 

 今回は、「当然、戦争犯罪でしょ」を深掘りします。

 

  • 戦争犯罪であった説

 「民間人を大量に殺したのだから、当然戦争犯罪でしょ」という見方。これが日本では一般的です。

 

ちょっと待ってください。戦争犯罪とは、そもそも誰が決めるのでしょうか。

「戦争犯罪」という言葉は「法律(条約を含む)」と「倫理」の2つの面があります。

そして、それらには、「いつのものか」という時点の問題がつきまといます。

 つまり

  • 戦争犯罪説は4つに分けられます

(1)当時すでに法的に戦争犯罪だった

(2)当時はともかく今日では戦争犯罪である

(3)当時すでに倫理的に犯罪的だった

(4)当時はともかく今日では倫理的に犯罪的だった

 

で、結論は、

(1)は微妙であったとしても、(2)(3)(4)が正解というところでしょう。

 

  • 法的な戦争犯罪

戦争にはルールがあり、非人道的な行為は「戦争犯罪」としてやってはならぬ、ということになっています。原爆投下の時点でも、非戦闘員の殺傷を目的とした攻撃を禁じるハーグ陸戦条約がありました。

 

  • 原爆投下時点の条約

当時あった条約は、ハーグ陸戦条約です。米国も日本も批准しています。

ハーグ陸戦条約では、「無防守な都市」への攻撃を禁じています。 

第25条:防守されていない都市、集落、住宅または建物は、いかなる手段によってもこれを攻撃または砲撃することはできない。

第二五条[防守されない都市の攻撃]  防守セサル都市、村落、住宅又ハ建物ハ、如何ナル手段ニ依ルモ、之ヲ攻撃又ハ砲撃スルコトヲ得ス。

Art. 25. The attack or bombardment, by whatever means, of towns, villages, dwellings, or buildings which are undefended is prohibited.

 ハーグ陸戦条約 - Wikipedia 及び 軍事目標主義 - Wikipediaより

 

これが一般に「非戦闘員への攻撃」や「都市攻撃」と言われるものです。

 

また23条では「不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること」を禁じています。

23条1項では「毒、または毒を施した兵器の使用」を禁じている。また、同条5項では「不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること」を禁じている。しかし「不必要な苦痛」の明確な定義がないため、曖昧なものとなっている[1][2]。

ハーグ陸戦条約 - Wikipedia 

 

これが一般に「非人道的兵器の使用」といわれるものです。

 

この2つの点のいずれから見ても、原爆投下はハーグ条約違反として戦争犯罪である、ということができそうです。

 

ところが、この条約が、当時有効かどうかについては、争いがあります。

陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(1899年条約、1907年条約)第2条は「交戦国が悉く本条約の当事者である」ことを求めており、第二次世界大戦における当条約を解釈するさいについては注意が必要である。2条の総加入条項を有効とした判決として東京高判S47.11.28、地裁判決では「イタリアを初めとする幾つかの交戦国が加入していなかった(・・・略)したがって、総加入条項を満たしていない以上、第二次世界大戦について、ハーグ陸戦条約の適用はないといわざるを得ない」[14]との判示がある。

ハーグ陸戦条約 - Wikipediaより 太字は筆者

であるからです。

 

  • 現代的視点ではどうか。

1949年に締結されたジュネーブ諸条約に、1977年に追加議定書が採択されました。

ハーグ陸戦条約よりも、より具体的で明確になっています。

 

第四編 文民たる住民
(中略)
第四十八条 基本原則
紛争当事者は、文民たる住民及び民用物を尊重し及び保護することを確保するため、文民たる住民と戦闘員とを、また、民用物と軍事目標とを常に区別し、及び軍事目標のみを軍事行動の対象とする。

第四十九条 攻撃の定義及び適用範囲
(中略)
3 この部の規定は、陸上の文民たる住民、個々の文民又は民用物に影響を及ぼす陸戦、空戦又は海戦について適用するものとし、また、陸上の目標に対して海又は空から行われるすべての攻撃についても適用する。もっとも、この部の規定は、海上又は空中の武力紛争の際に適用される国際法の諸規則に影響を及ぼすものではない。
(中略)

第五十一条 文民たる住民の保護

(中略)
2 文民たる住民それ自体及び個々の文民は、攻撃の対象としてはならない。文民たる住民の間に恐怖を広めることを主たる目的とする暴力行為又は暴力による威嚇は、禁止する。
3 文民は、敵対行為に直接参加していない限り、この部の規定によって与えられる保護を受ける。
4 無差別な攻撃は、禁止する。無差別な攻撃とは、次の攻撃であって、それぞれの場合において、軍事目標と文民又は民用物とを区別しないでこれらに打撃を与える性質を有するものをいう。
(a)特定の軍事目標のみを対象としない攻撃
(b)特定の軍事目標のみを対象とすることのできない戦闘の方法及び手段を用いる攻撃
(c)この議定書で定める限度を超える影響を及ぼす戦闘の方法及び手段を用いる攻撃
5 特に、次の攻撃は、無差別なものと認められる。
(a)都市、町村その他の文民又は民用物の集中している地域に位置する多数の軍事目標であって相互に明確に分離された別個のものを単一の軍事目標とみなす方法及び手段を用いる砲撃又は爆撃による攻撃
(b)予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において、巻き添えによる文民の死亡、文民の傷害、民用物の損傷又はこれらの複合した事態を過度に引き起こすことが予測される攻撃
6 復仇の手段として文民たる住民又は個々の文民を攻撃することは、禁止する。
(以下略)

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/ap1.htm 

 

少なくとも今日においては、戦勝のためであっても都市に原爆を投下してはならないということです。それは原爆が国際法が禁じる、非戦闘員への殺傷を目的とした爆撃の極致であるからです。広島市民が、軍需産業に従事していても「文民は、敵対行為に直接参加していない限り、この部の規定によって与えられる保護を受ける。」(51条3項)

わけです。そして、無差別攻撃も禁じられています。

つまり、現在の国際法では、都市への原爆投下は戦争犯罪であることは明白です。

 

では、

  • 軍事施設破壊や戦闘員殺傷を目的の原爆投下は、今日ありなのか

ジュネーブ諸条約の1977年追加議定書では、非人道的兵器の使用については、次のようになっています。

第三編 戦闘の方法及び手段並びに戦闘員及び捕虜の地位
第一部 戦闘の方法及び手段
第三十五条 基本原則
1 いかなる武力紛争においても、紛争当事者が戦闘の方法及び手段を選ぶ権利は、無制限ではない。
2 過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器、投射物及び物質並びに戦闘の方法を用いることは、禁止する。
3 自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることを目的とする又は与えることが予測される戦闘の方法及び手段を用いることは、禁止する。

https://www1.doshisha.ac.jp/~karai/intlaw/docs/ap1.htm

 

ここは微妙です。

  • 非人道的兵器かどうか

つまり「非人道的兵器」に該当するかどうか、という判断が求められます。ナパーム弾などの他の爆弾でも、即死でない場合は大変な苦痛があります。したがって「過度の傷害又は無用の苦痛を与える兵器」かどうかが問題になります。

つまり他に代替できる兵器があれば、原爆は投下先を問わず、それ自体が「非人道的兵器」となります。現代では、原爆は投下先を問わず非人道的兵器であるという認識が妥当でしょう。 

 

なお、放射能を帯びた砲弾に「劣化ウラン弾」というのがありますが、これは原爆とは全く別物です。

 

そもそも何が非人道的兵器なのか。原爆投下はどのような対象でも、どのような規模形態でも、すべて非人道的として、国際法違反なのかについては、議論の余地がありますが、今回はこれ以上踏み込まないことにします。

兵器は、本質的に非人道性を帯びるものです。ですので、どこまでが人道的兵器(というか許容範囲)で、どこからが非人道的兵器かについては、今後も時代とともに認識が変わっていくでしょう。

 

  • 倫理面ではどうか

今日、一般的な倫理として「人道」という概念があります。何が「人道」か、というと難しいのですが、少なくとも、一般人の殺傷や、無用な苦痛を与える兵器の使用は、「非人道的」といえましょう。

したがって、今日の人道概念では、そのような原爆の使用は、非人道的と見なされます。

 

  • 当時はどうか

当時でも、人道という概念はありました。しかし、「原爆は非人道的であり決して使ってはならぬもの」という概念は、共有されていなかったと思われます。一つには新しい兵器であって、その非人道性が認識されていなかった、ということがあります。

それでも、当時、もしも日本が勝利して、米国を裁く法廷を設けたとすれば、米軍の原爆投下を「非人道的行為」と断罪したものと思います。

また、前述のように、ハーグ陸戦条約が総加入条項を満たしていないため、法的には有効でなかったとしても、陸戦条約の締結趣旨からみて、人道上はそれを遵守すべき、というのは当然のことといえましょう。

 

  • 原爆研究は日本でもあった

なお、ドイツや日本でも原爆が研究されていました。日本では、原爆投下の前月である1945年7月まで研究は進められていました。もしも日本が開発に成功していたら、まず間違いなく使用していたことでしょう。当時の日本の優先順位は、他国と同じく「人道」や「国際法」よりも勝つこと、少なくとも敗戦しないこと、でしたので。

日本の原子爆弾開発 - Wikipedia

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画像はアマゾンより

 

 と、いうことで4つの問いを順に見ていきました。

(1)当時すでに法的に戦争犯罪だった

(2)当時はともかく今日では戦争犯罪である

(3)当時すでに倫理的に犯罪的だった

(4)当時はともかく今日では倫理的に犯罪的だった

 

で、結論は、

(1)は微妙であったとしても、(2)(3)(4)が正解というところでしょう。

つまり、広島・長崎への原爆投下は、当時でも非人道的であり犯罪的、現在では明確に戦争犯罪である、ということです。

 

  • 国会質疑では

なお、国会では山本太郎議員の質問に、政府はこう答えています。

 ○国務大臣(岸田文雄君) 広島、長崎への原爆投下等が国際法違反かという御質問でありました。
これは、こうした行為は絶大な破壊力あるいは殺傷力ゆえに国際法の思想的基盤にあります人道主義の精神に合致しない、このように我が国は理解をしております。国際司法裁判所等においてもそうした議論が行われていると承知をしております。

「参議院議員 山本太郎」オフィシャルサイト | 2015.8.25安保特「原爆投下や空襲は戦争犯罪・国際法違反か?」の質問に、答弁回避の安倍総理 より。太字筆者。

 

山本議員は、政府はあいまいだ!と批判しています。しかし政府は、上の(1)についての言及は避けて、(2)~(4)の整理のとおり回答していることがわかります。つまり、米国の原爆投下是認論者に対しても説得力のある、適切な回答であることがわかります。

  

 

さて、もう一つ、アメリカで有力な考え方があります。

それは、

米軍将兵の生命を救うために必要であった説

これは、次回のこちらで。

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