厚生労働省の研究班の「受動喫煙による死者は年間1万5千人」や
部屋や服に残ったタバコの煙で健康被害?注目される「三次喫煙」とは
に関連して、「そもそも受動喫煙は本当に有害なのか。分煙も進んでいるし」という質問をいただきました。
「やさしそうな、むのきらんさんに聞いてみました。」ですって。あらまあ、ありがとうございます。やさしく可愛くがモットーですのよ。なるべく、わかりやすく答えてみますね。
一言で言うと。
1.受動喫煙による死亡はどれくらい?
ざっくりいえば、がん死の内、タバコが20~30%、受動喫煙が3%くらいと認識しておけば、大きな間違いはないでしょう。
2.分煙で効果があったか?
日本ではまだ死亡数の減少にはつながっていませんが、きちんと分煙すれば、今後は期待できます。
3.法規制は強化すべき?
法規制は当然強化すべきです。今の日本は「分煙もどき」の後進国です。
(質問は若干アレンジしています。)
(目次)
- 1.受動喫煙による死亡の定義とはどのようなものですか?
- 2.分煙が定着して随分になりますが、死亡者が減少等効果はあったのでしょうか?
- 3.もし7000人も受動喫煙で亡くなっているのであれば、法規制すべきでしょうか?
- まとめ
1.受動喫煙による死亡の定義とはどのようなものですか?
「例えば、ガンで70歳で死んだとして、30%が受動喫煙によるなど、具体的に。また、初心者向けのHPがあれば教えてください。」
まず、大前提として。
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「受動喫煙による死亡」と推計で使われた「受動喫煙による死亡」は異なります
前者の数ははっきりしていません。その内で、疫学的、統計学的な研究である程度確からしい、ということがわかってきた部分が推計に使われています。
前回の6800人は、肺がんと虚血性心疾患のみによるものです。
今回の1万5千人は、それに脳卒中の8000人を加えたもの。
受動喫煙で1万5千人死亡は本当か~タバコ論争を検証する~ - むのきらんBlog
一方、
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タバコによる健康被害は広範に及ぶことが分かっています
たとえば乳がんも国立がん研究センターや東京大などの調査によれば、喫煙者は非喫煙者に比べ1.9倍の発がんリスクがあることが分かっています。これは上の推計には入っていないのです。
画像は「肉・パン中心の欧米型食事、乳がんリスクが1.32倍に
国立がんセンターなどが注意喚起」
日経 2016/6/20 より
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タバコのリスク因子に占めるウエイト
は次のとおりです。
平成24年2月27日 たばこアルコール担当者講習会
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdfより
なお、能動喫煙(喫煙者本人)のほうが、被害が大きいので、データが多いわけです。受動喫煙は能動喫煙に比べると、タバコに晒される時間など、各種の条件の差も大きいので、能動喫煙の害よりは詳細に分かっていません。
さて、「ガンで70歳で死んだとして、30%が受動喫煙によるなど」ですが。
ざっくりと、
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がん死の内、タバコが20~30%、受動喫煙が3%
くらいと認識しておけば、大きな間違いはないでしょう。
これは、さきほどの
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdfの3,4ページ目のがん死亡のうち、タバコが20~27%、77400人という数値。
それと、例の受動喫煙6800人のベースとなる、肺がん死66849人中受動喫煙2120人つまり3.2%、
これらを勘案した結果です。
さらにざっくりといえば、
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おおよそ日本の死者の1割がタバコ死。さらにその1割が受動喫煙死
と考えておけばいいでしょう。がん死に占めるタバコの割合は喫煙率によりますが、
例の「6800人」研究で使われた肺がんの相対リスクをざっくりいえば、タバコゼロに対して能動喫煙のリスクは4倍、受動喫煙のリスクは1.3倍です。(男女など差がありますが)
これは、母数が同じとしたら、タバコゼロの死者100人、能動喫煙400人、受動喫煙130人ということ。タバコゼロに対する超過死亡者を能動と受動で比べると、能動300人、受動30人となります。つまり10:1。
これは、次のデータとも整合性があります。(日本の6800人は同じソースなので当然ですが。)
平成24年2月27日 たばこアルコール担当者講習会
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室資料より
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdf
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受動喫煙についての、わかりやすいサイト
から抜粋したデータをいくつか上げておきます。詳しくはリンク先を見てください。
受動喫煙(他人のたばこの煙を吸わされること)と個別疾病との相対危険度
(非喫煙者を1とした時の喫煙者の危険度)
個別疾病の相対危険度 | 相対危険度 |
肺がん死亡数(US-EPA報告 1998) | 1.19 |
虚血性心疾患死亡数(Heらによる調査 1999) | 1.25 |
なお、「喫煙者」という表現は、ここでは受動喫煙による被害者という意味です。
東京都資料「他人の煙は迷惑」
こちらでは、職場、家庭のデータも出ています。
これは、例の「6800人」のデータをわかりやすくしたもの
こちらは、「6800人」には含まれない別の研究。
解説 喫煙・受動喫煙の有害性
産業医科大学産業生態科学研究所 健康開発科学研究室教授大和浩
http://www.health-net.or.jp/tobacco/pdf/tobacco_20150624_02.pdf より
2.分煙が定着して随分になりますが、死亡者が減少等効果はあったのでしょうか?
「ほぼ、家の外で受動喫煙の機会がなくなっていると思うのですが。」
これについては、
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「喫煙率が減っているのに、タバコによる死者が増えているのはおかしいではないか」
という意見も時々見ますね。
肺がんなどの発症は、被曝の累積によりますので、死因に占める割合はすぐには減らないでしょう。今、日本で死亡している人は、タバコだらけだった70歳以上がほとんどなので。
こちらのデータがいいでしょう。
平成24年2月27日 たばこアルコール担当者講習会
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdfより
また、こちらも参考になります。
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分煙や禁煙しても手遅れか
では、今の分煙には効果がないのか。また、今禁煙しても手遅れなのか。といえば。
そんなことはありません。効果はあります。いくつになっても、禁煙は効果があります。
こちらのデータ
平成24年2月27日 たばこアルコール担当者講習会
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_1.pdfより
WHO(世界保健機関)も、タバコを止めると急激にリスクが下がるとしています。したがって、今後は、死者に占めるタバコ由来の死者数は減っていくと予想できます。
ただし、1年間で亡くなる死者の総数は母数が多い団塊世代が後期高齢者になっていくことでしばらく増加しますので、それに伴ってタバコ由来の死者の絶対数は増えるでしょう。
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タバコの死者は本当に急増したのか
また、先般騒がれた、受動喫煙による死者の推計値が年間6800人から1万5千人に倍増したのは、推計の対象とする疾患を広げたため。なので、増えた減った、という絶対数とは関係ありません。
しばしば勘違いされますが、タバコが大きな要因となる疾患は肺がんだけではありません。ほぼ全ての病気に、タバコは悪影響を及ぼす、というのが医学界のほぼ一致した見解です。
ただし、今の分煙は極めて不十分です。これについては、次のところでお話します。
3.もし7000人も受動喫煙で亡くなっているのであれば、法規制すべきでしょうか?
「街中での受動喫煙はほぼないので、あるとしたら家庭内でしょうからそこは法規制しかないかなと思いますが。」
当然に法規制すべきです。日本の法規制は、主要先進国はもちろん、韓国、中国(北京市など)、タイなどにも劣っています。
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公共の場の規制を強化すべき
日本も以前よりは大分よくなりました。ただし、まだまだです。特に飲食店での喫煙禁止は、日本は遅れております。私は新自由主義者ですが、それゆえ、「市場の失敗」も認めます。飲食店での喫煙を禁止しないのは、市場の失敗を招いています。
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日本の「分煙」は嘘っぱち
日本の分煙はうそっぽいものが多いのです。タバコの煙は流れていきます。なので、分煙をするとしたら、煙を完全に外に出さない完全分煙でないと余り意味がありません。ポーズだけ、ということになります。タバコの煙は放射性物質と同じようなもの、と理解ください。(厳密な話しではありませんが)
タバコの感度には個人差がありますが、私の場合は、遠くの見えない席からの煙でも咳が出ます。咳が出る、というのは急性症状ですが、目に見えた急性症状がない方も、被曝していることは間違いありません。
これについても、こちらのサイトがわかりやすいです。
解説 喫煙・受動喫煙の有害性
産業医科大学産業生態科学研究所 健康開発科学研究室教授大和浩
http://www.health-net.or.jp/tobacco/pdf/tobacco_20150624_02.pdf より
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家庭内を規制すべきか
1で述べたように、喫煙者の伴侶のいる人は、タバコによる疾患が多い、という疫学研究もあります。
しかし家庭内は公共の場所ではないので、難しい問題です。基本的には科学的知識を前提とした家族の合意が必要でしょう。したがって、まずは啓蒙です。たとえば婚姻届を出すときに、「絵入りの重要事項説明書」を役所が用意して、それに合意してもらう、ということもいいかもしれません。
これは、本質的にはDV(家庭内暴力)が許されるか、ということと似ています。タバコは緩慢な暴力なのです。麻薬中毒者が犯罪や暴力事件を起こすのと似ています。子供に悪いものは、伴侶にも悪いのです。特に子供に対しては、親の自由意思に任せるべきではないかもしれません。
したがって、理論的には家庭内も規制すべきでしょう。許されるとしたら、タバコ常習者の独居やカップル、ということかもしれません。
また、タバコは火災の最大原因でもあります。身近で有効な防災対策として、特に集合住宅では規約で排除すべきかもしれません。
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そもそも喫煙者は自己の自由意思で喫煙しているのか
実はここが大きな問題です。喫煙者の自由、趣味趣向を認めよ、という意見がありますが、これは間違いです。
タバコは、習慣性、依存性、中毒性がある毒物です。つまり麻薬と同じです。
あなたは、麻薬を麻薬患者の自由にさせろ、という意見を聞いたらどう思いますか。
したがって、喫煙者本人に対しても、本来は喫煙禁止を進めるべきなのです。
まとめ
受動喫煙の被害は年間、6800人以上を死に至らせるほど深刻です。日本の分煙は非常に遅れています。規制を強化すべきです。
タバコ問題に真剣に向き合おうとしない政治家、従業員や客を被曝させている飲食店はブラックです。
(参考となるサイト)
厚生労働省関連
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/dl/s0302-8k.pdf
国立がん研究センター関連
http://www.ncc.go.jp/jp/information/pdf/20101021_tobacco.pdf
http://www.ncc.go.jp/jp/cis/divisions/tobacco_policy/files/mpower_2011.pdf
WHO(世界保健機構)関連
日本禁煙学会
政府インターネットテレビ
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注:記事中の写真はモデルさんであり、本記事の作成者ではありません。