豊洲市場問題が迷走しています。現状とこれからについて、ざっくりとQAとして整理しました。
- 盛り土はそもそも必要か
- ではなぜ、盛り土をすることになったのか
- 盛り土なしの地下空間はNGか
- 地下空間のたまり水は問題か
- 地下水は問題か
- 豊洲市場は安全か
- 豊洲市場は問題ないか
- なぜ都は盛り土を行わないことを説明しなかったのか
- 直接的には誰の責任か
- 小池都知事の延期決定は正しいか
- これからどうなるか
画像は、豊洲市場について|東京都中央卸売市場 より
盛り土はそもそも必要か
答え:法的には不要。
そもそもの土壌汚染対策法では、いくつかの対策のいずれかをとることが求められている。たとえば所定の厚さのコンクリートを敷けば、クリアする。豊洲市場はこれをクリアしているわけ。
それは、科学的にはその上の住んでも問題ないレベルであり、もちろん食品市場でも安全上の問題はない。
ではなぜ、盛り土をすることになったのか
答え:専門家会議の提言に盛り土が入っていたから。
食品市場としての安心安全の立場から、念のために盛り土を行う、ということ。東京都のHPなどでは、盛り土を安全対策の一つとして説明していた。
盛り土なしの地下空間はNGか
答え:特段NGとはいえない。
一般のビルでも、床下に地下空間を設けることはよくある。それは構造上、床スラブ(横梁)や基礎杭との接合等で一定の高さが必要であり、配管や配線の場所としても役立つからだ。
もちろん、盛り土の上に床下として地下空間(この場合は「地上区間」となるが)を設けることも技術的的には可能だ。しかしその場合、当然ながら床は高くなる。今回も地下に4.5m、地上に1m高くしている模様だが、盛り土上だともっと高くなるだろう。
都庁内ではそれも検討されたが、使い勝手とコストの両面で現在案になったようだ。
そもそも汚染度の除去は行われ、かつ、床下のコンクリ厚が十分であるので、土壌汚染対策法上は問題ない。
地下空間のたまり水は問題か
答え:特段問題ない。
そもそも、地下空間に水が溜まるのはよくあること。その原因は周囲からの雨水と地下水である。今回は、排水ポンプが試運転状態であったので、それを本格稼働させれば、適切に排水される。
今回の「たまり水は地下水」と専門家は言っているが、地下水といっても、雨水が一旦土を通れば、地下水である。「外構工事が未了であるため周囲から入った雨水」という都の説明と専門家の説明は矛盾するものではない。
たまり水を検査した結果も、まったく問題ないことが証明されている。
地下水は問題か
答え:特段問題ない。
最近の調査で一部に環境基準を超える物質が検出されたことが問題視されている。しかしこれは空騒ぎである。環境基準そのものは、飲料にしてもいいレベルを基準にしている。しかし豊洲の地下水は使うものではない。しかも、排水浄化システムが本格稼働すれば、順次、放流基準まで浄化されて地下水位は下がる。なお、放流基準は、環境基準の10倍である。
豊洲市場は安全か
答え:安全。
前述のように、地下の汚染が豊洲市場の食品や関係者に被害をもたらす可能性はない。
したがって、豊洲市場は、安全であるといえる。もしも、1月に予定されている次回の地下水検査の結果で、ある程度の地下水汚染があるとしても、安全である。
そもそも、地下水検査が全て終了する前の11月に移転が決定されたのは、移転を急いだ、ということもあるが、前述のような認識があるからだ。
豊洲市場は問題ないか
答え:問題はある。
一つは、説明責任の問題。専門家会議は提言する会議であり、都に対し法的拘束力はない。都は、それを参考にしながらも、盛り土をしないならしないで、堂々と行えばいい。都民など関係者に適切な説明を怠ったことは重大な問題である。
それ以外にも、使い勝手、費用などの問題はある。さらに、そもそも、取引量が落ちている卸売市場の整理統合を行わないで、単なる移転を決めたことが果たして適切だったかどうか、という問題がある。より本質的には、中央卸売市場を都道府県が直接運営することの是非も問われるべきだ。費用面で巨額になったのは、それが遠因だ。
そして、目下の最大の課題は、急速に膨れ上がった都民などの「不安」をどう払しょくするか、ということ。つまり、豊洲問題の本質は、科学的な「安全」ではなく「安心」であるのだ。
なぜ都は盛り土を行わないことを説明しなかったのか
答え:複合的な要因が説明不足を呼んだ。
都庁全体の意思決定としての隠ぺいの意図は発見されていない。むしろ、技術サイド、現場サイトでは、盛り土を行わないほうがいい、という認識は共有されていた。
それが、都庁全体に共有されていないこと、そして世間に説明されなかったことはなぜか、ということだ。
一つは、小池氏が会見で指摘したように、縦割り横割りによって、「組織として気が付かなかった」という面があるだろう。また、気がついた人がもしもいたとしても、自分の仕事ではない、ことを荒立てないほうがいい、という意識もあったろう。そして、一部報道にあるが、盛り土をしないことを公表すると、大きな反発を受け、きちんと説明しても納得してもらえない。という認識もあっただろう。
これらの要素が複合して起きた事案である。
直接的には誰の責任か
答え:市場長である。
移転プロジェクトの総合責任者は当然に市場長だ。技術サイドと説明サイドを両方統括するのが職務なのだ。土壌汚染対策や建物の概略立面を把握し、議会やHPでの説明などを統括する立場にある。
ところが市場長も異動がある。これまで判明したところでも、盛り土をしない認識をしていた市場長と、そうでない人がいる。したがって、「市場長の責任」ではあるものの、「この人が最大の戦犯」とは、今の時点ではなんともいえない。
それ以上の上位職位者、たとえば副知事や知事は、所掌業務が広いので、結果責任を問われるべきではあっても、直接の責任はほぼない。(もちろん、たとえば石原慎太郎氏が知事時代に、「盛り土をやめろ、それは説明するな」と明確に指示していた場合は別だが、それはほぼありえない。)
小池都知事の延期決定は正しいか
答え:政治的には正しい。ただし、大きなコストをかけたことになる。
前述のとおり、安全面の問題はまずない。しかし、「安心」は別だ。安心を担保するのは適切な情報公開と説明だ。
行政においては、説明責任は重大な問題。盛り土問題が判明する前にも、種々疑問が投げかけられていた。小池氏は、いったん立ち止まってしっかり検証する、という主張をして当選した。もしも、小池氏が移転をそのまま承認していたら、小池都政に重大な疑義が生じただろう。したがって、「民主主義のコスト」としては、延期決定は政治的には正しい。そして、盛り土問題などが判明したことは、検証の必要性を裏付けたことになる。
これからどうなるか
答え:いずれ、豊洲移転となる。
そのうち、専門家会議から「安全性には問題がない」というお墨付きが得られるだろう。地下空間に換気設備や空気モニタリング設備等の追加対策はありえる。その時点で、移転ゴーを小池氏は決断する。
その時期は、来春か遅くとも来年2017年一杯だろう。移転の時期は早くて2017年夏、遅くとも2018年夏までには移転が行われるだろう。
実は、「移転ゴー」のその時が、小池氏にとっての最大の政治的危機だ。世間の不安はなかなか解消されない。原発再稼働について、世論が割れているのと同じ現象が生じるだろう。今、小池氏を支持している層は、豊洲反対派も含まれており、呉越同舟なのだ。したがって、かなりの人が離反する可能性があるのだ。今、小池氏の移転延期を支持しているマスコミも一転して小池叩きに走る可能性がある。不安をあおるほうが、マスコミにとって商売になる。また彼らの正義感にも沿うのだ。
小池氏は、現在の「安心安全」を検証する立場から、安心安全を説明する立場に変わらねばならなくなる。
ここをどうくぐり抜けるか、そこが政治家として通らねばならない試練である。
移転後も豊洲問題はくすぶり続ける。しかし、世間の関心は時とともに薄れていく。2020年のオリンピックのころには、そんなこともあったねえ、ということになるだろう。
そもそも、「築地直送」と宣伝している一部の寿司店など以外では、この魚は築地や豊洲を経由しているかどうか、わからないのだ。消費者の魚離れは一層進むだろうが、それへの影響もわずかだろう。
(関連情報)
小池都知事の定例記者会見9月30日(全文1)盛り土なしを決定したプロセス (1/2)
(都の公開情報)
豊洲市場について|東京都中央卸売市場 現在、盛り土の部分の誤った説明文は削除されている。
専門家会議資料 東京都が予定している土壌汚染等の対策 都が以前、専門家会議に出した資料。
東京都土壌汚染対策指針 特に13ページを参照。
(関連エントリー)
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豊洲市場の地下空間問題の最大の問題点/マスメディアの悪意報道|マスメディア報道のメソドロジー 技術解説ブログ
豊洲市場の盛土の話 - Togetterまとめ 盛り土のそもそもの経緯
(追加)
2017年3月3日 記者会見資料|コラム|石原慎太郎公式サイト | 宣戦布告.net
石原氏が記者会見で公表した「豊洲市場関係時系列表」(おすすめ)