蓮舫氏の二重国籍問題について、いろんな「疑惑」が取りざたされていますが、ほぼ決着しましたので整理します。
蓮舫氏が政治家としての説明責任を「あいまい戦術」で回避したことが、議論の拡散を呼び、左右の対立を深める結果になったと思います。
(目次)
- 蓮舫氏は日本国籍を持っているか
- 蓮舫氏は国籍選択をしたか
- 蓮舫氏の台湾(中華民国)籍問題は、大陸(中華人民共和国)の法で決着ずみか
- 台湾と国交断絶をした時点で、二重国籍ではなくなっているのではないか
- 蓮舫氏の台湾籍離脱証明を日本政府は受理したか
- 金美齢氏が帰化手続きをする時には、台湾当局の離脱証明を受理しているようだがそれとは矛盾するのではないか
- 蓮舫氏は「帰化したとうそをついた」ので選挙違反か
- 蓮舫問題とは結局のところなんなのか
- では、問題はないのか
- 残念なすれ違い二項対立
- 他に問題はないのか
- 蓮舫氏の時系列はざっくりどういうことか
画像は、国籍放棄問題の渦中にある蓮舫氏、単独インタビュー - Yahoo!ニュース
蓮舫氏は日本国籍を持っているか
持っている。選挙に立候補する際は、それを証明するために、戸籍(謄本・抄本)の提出が必要であるので、間違いない。
蓮舫氏は国籍選択をしたか
今回の蓮舫氏の発表で、過去に国籍法に定めるいずれに方法でも国籍選択をしていなかったことが明らかになった。つまり、2016年9月までは二重国籍であった。
蓮舫氏の台湾(中華民国)籍問題は、大陸(中華人民共和国)の法で決着ずみか
大陸の法律では他国の国籍を取得したら、大陸の国籍を失うことになっている。だから日本国籍を取得した時点で、重国籍ではない、という主張を蓮舫氏他がしていた。しかしそれは、日本政府により否定されている。
日本政府は、台湾籍の人の国籍問題で、大陸の法が適用されるとはしていない。国家間の国交では、「大陸を一つの中国」の正統政府と認めているが、それとこれとは別である。
台湾と国交断絶をした時点で、二重国籍ではなくなっているのではないか
そうではない。もしそうならば、今回、国籍選択宣言を行政指導されなかったわけだ。
ややこしいのだが、蓮舫氏は、日本国籍と外国籍の二重国籍ではあった、ということになる。ただし、その「外国籍」とは、「どの国の籍か」ということになると、日本政府は判断をしない、ということ。
国籍選択届の用紙には、「現に有する外国の国籍」という欄がある。それは申請者側が書けばよいのだ。蓮舫氏が「中国」と書いたか「中華民国」と書いたかは、不明である。(中国と書くように行政指導はあったのかもしれない)
蓮舫氏の台湾籍離脱証明を日本政府は受理したか
受理を拒否した。 台湾政府を国家として承認していないためである。つまり国家として承認していない政府が発行した国籍離脱書類は受理できないという見解ということ。だからといって、上に書いたように、大陸の法律を適用するということでもない。
金美齢氏が帰化手続きをする時には、台湾当局の離脱証明を受理しているようだがそれとは矛盾するのではないか
それぞれ別の取り扱い、ということのようだ。帰化の場合は帰化の要件の一つが外国籍の離脱である。その書類としては認めているようだ。
一方、国籍喪失届の際は、台湾の書類の添付を認めていない(ので受理しなかった)。そういう矛盾を解決するために、日本国籍選択&外国籍放棄宣言という手続きがあるともいえる。
蓮舫氏は「帰化したとうそをついた」ので選挙違反か
起訴され裁判で決着を見ないと断定できないが、起訴されないと推定できる。理由は3点。
(1)蓮舫氏は国籍法上、帰化ではないことは明らか。だが、「帰化=外国籍から離脱すること」、という理解は国籍法上の帰化の定義ではない。(外国籍からの離脱は国籍法上は帰化の一要件に過ぎない。)。かつ一般的認識としても確定していない。
(2)公職選挙法上の、違法要件としては、意図的な経歴詐称かどうかが問われる。蓮舫氏の場合は、意図的とは断定しかねる。
(3)蓮舫氏が「帰化」でなかったことが明らかになったとしても、選挙に影響が出るとは断定しかねる。
検察としては、こういうことを考えると、公判維持が困難と判断するだろう。
なお、「選挙違反として裁判で確定するかどうかは別として、自分は辞職すべきと考える」、「自分は選挙違反として起訴され有罪になると推定する」という言論もありうる。それらは、矛盾しない。
問題なのは「選挙違反であるから国会は蓮舫議員を免職させるべきだ」的な曖昧な主張である。選挙違反かどうかは、裁判で決めることであり、国会が決めることではないのだ。
蓮舫問題とは結局のところなんなのか
二重国籍の人は日本にも多数存在する。また公職選挙法も重国籍はダメ、とはしていない。
これまで、蓮舫氏は違法状態であったことは明らかだが、選挙違反には当てはまらず、違法状態であったことで蓮舫氏が議員を失職するするものではない。自らの国籍問題をちゃんとせずに議員を続けていた、過去、それについて曖昧な発言をしていたという点は、よろしくはないが、まあ、そういうことは、まま、ありうる、ということ。蓮舫氏にしてみれば、日本国籍を持っていればよいので、あとは大した問題ではない、という理解であったのだろう。(そういう認識がけしからぬ、という批判はもちろんありうるが。)
では、問題はないのか
問題はある。
それは、蓮舫氏の二重国籍問題が指摘された今年になってからも、曖昧な発言を繰り返し、問題をもみ消そうとしたことだ。
国籍法違反ではないか、という指摘に対しては、国会議員としては誠実に向き合う責務がある。顧問弁護士もいるわけだから、戸籍を調べれば国籍選択がなされていないことは容易に確認できる。
そして事実を開示した上で、確認不十分や表現があいまいであったことは申し訳ないと謝罪し、改めてきちんと手続きをすればいい。それで満足するかどうかは、有権者が判断することである。
蓮舫氏は、戸籍謄本の開示をプライバシーを理由にして拒否し、問題を見えずらくした。一般人ならばともかく、政治家として重大な説明責任を回避したことになる。
政治家は、時として曖昧戦術を使うことがある。嘘に限りなく近いことを言うこともある。誰であろうと、それは望ましくない。もちろん嘘はいけない。中でも蓮舫氏の曖昧戦術は、説明責任の放棄である。政策のためではなく自らの保身のためであり、強く批判されるべきものだ。
残念なすれ違い二項対立
残念なのは、攻撃側(批判者)の多くは、(国会議員の)「二重国籍」そのものを「国益に反する、あってはならないもの」として攻撃し、防御側はそれを「(国会議員に限らない)二重国籍への攻撃。偏狭な民族主義、国家主義。」として反論したこと。
ここで不毛な二項対立に至った。つまり右側はますます蓮舫憎しとなり、左側は右側憎しとなるわけ。
そもそもの問題提起者である八幡和郎氏にはそういう側面は見当たらない。しかし、八幡氏に追従する、(一部国会議員を含む)ブロガーやコメンターなど、ネット世論の発言者は、そういう傾向が強いことは明らか。
なお、本来、二重国籍問題は人権をめぐる重大な論点であることは間違いない。二重国籍を非としながらも運用上の放置を認める国籍法を改正すべきかどうかは、改めて十分議論されてしかるべきだろう。
産経の報道では「日本で複数の国籍を持つ人のうち国籍選択義務が生じる22歳以上の人は、約17万人とされる。」とのことだ。
ちなみに1985年の国籍法改正までは、二重国籍は部分的にせよ認められていた。たとえば米国で日本人を父として生まれた人は、米国籍であり、かつ日本国籍を持つことが可能であったのだ。(現在は、国籍選択をすることになっている。)
他に問題はないのか
旅券の取り扱いの問題も問われている。蓮舫氏が台湾の旅券を更新し続けていたとすれば、台湾国籍を保持していたことを認識していた、ということになる。
現在のところ、蓮舫氏は台湾の旅券を更新していたという証拠はない。蓮舫氏は、「台湾のパスポートを探したら出てきた」と発言している。更新する理由はないので、私は更新していないだろうと推測している。戸籍(謄本・抄本など)とあわせてパスポートを公開していないことが、いまだに「疑惑」を長続きさせている。
蓮舫氏の時系列はざっくりどういうことか
1967年 東京都で生まれる。父は台湾籍。母は日本籍。
当時の日本の国籍法では、母が日本籍では日本国籍を自動取得できない。一方台湾籍は取得できたので、その時点の国籍は台湾籍一本。
母は日本籍なので、母は父と結婚する段階で親の戸籍から抜けて戸籍をつくった。その際に、父(母の配偶者)は、中国籍と表示。
1972年 日本は、中華人民共和国(大陸)と国交樹立、中華民国(台湾)と国交断絶。台湾の国家承認取り消し。
1985年 改正国籍法施行。(蓮舫氏17歳)
母が日本籍でも、出生と同時に日本国籍を取得できることになった。
その経過措置で、蓮舫氏の場合は、法務局に届け出れば、日本国籍を取得できることになった。
蓮舫氏は、父と法務局に行った、としている。これは改正国籍法附則による国籍取得の届け出のためと推察される。
1990年 国籍選択の期限切れ。(蓮舫氏22歳)この時点で、国籍法上は違法状態。
2016年 二重国籍問題発生。
台湾当局に国籍離脱を申請し国籍離脱証明書を取得。
都内の区役所に国籍喪失届を提出しようとするが、受理を拒否される。
行政指導に従い、区役所に国籍選択宣言(&台湾籍離脱宣言)を提出。国籍法上の違法状態を解消。
法務省:法務大臣閣議後記者会見の概要 より。2016年10月14日
重国籍問題に関する質疑について
【記者】
民進党の蓮舫代表の件に関して,蓮舫代表は自身の台湾籍について,戸籍法第106条にのっとった手続を進めているとおっしゃっています。ただ,これはいわゆる国籍の喪失届の手続ではないかと思いまして,これは適切な手続と言えるかどうかお答えください。【大臣】
個別具体的な事案については,お答えを差し控えます。一般論で言えば,事柄の性質上,蓮舫さん御自身で説明すべき問題であると考えております。 一般論として,台湾当局発行の国籍喪失許可証が添付された外国国籍喪失届については,戸籍法第106条の外国国籍喪失届としては受理していません。【記者】
外国国籍喪失届を受理しないということは,窓口では,改めて選択宣言をしてくださいというような回答をするということでよろしいでしょうか。【大臣】
一般論で言えば,そういうことだと考えています。
(蓮舫氏および関連する主張など)
アゴラ 言論プラットフォーム 八幡和郎氏と池田信夫氏が蓮舫氏国籍問題の主砲
蓮舫 | れんほう 参議院議員 蓮舫氏の公式サイト プロフィール欄に経歴表示あり
蓮舫 - Wikipedia 生年月日や両親、婚姻等のベーシックデータとして
国籍放棄問題の渦中にある蓮舫氏、単独インタビュー - Yahoo!ニュース 国籍取得を示す画像の元画像など
蓮舫氏のフェイスブックページ 過去ログには、本件についての発表骨子等が記載
(台湾と中国の取り扱い)
蓮舫氏には台湾の国籍法が適用される – アゴラ 大陸(中共)法が適用されるという誤解を解く
蓮舫二重国籍についての法務省見解はこうだ(増補あり) – アゴラ 台湾の国籍法上の取り扱いは明示されていない
(蓮舫氏の二重国籍解消手続き)
民進・蓮舫代表 台湾籍離脱手続き「不受理」 日本国籍「選択宣言した」 - 産経ニュース
台湾政府の許可証受理せず=蓮舫氏の手続き不備か-金田法相:時事ドットコム
法務省:法務大臣閣議後記者会見の概要 法務省の公式見解
「最優先はTPPでない、むしろパリ協定」蓮舫代表ぶら下がり記者会見 - 民進党 蓮舫氏側の見解
【二重国籍問題】蓮舫氏は25年以上違法状態か 「二重国籍」で法相見解 - 産経ニュース 蓮舫氏は過去、違法状態という法相見解。(今は違法状態は解消されている。)
(台湾籍の国籍表示と帰化申請)
台湾出身者の戸籍の国籍が「中国」とされている問題について | 外国人登録証,戸籍問題,提言 | 日本李登輝友の会 │ 新しい日台交流にあなたの力を! 戸籍謄本上の表記
(蓮舫氏国籍問題についてのベーシックな関連サイト)
法務省:国籍Q&A 国籍取得、帰化、国籍選択などの基本として
国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律 蓮舫氏の場合は、これが該当するのでややこしいのです。
法務省:国籍選択について 国籍選択したものと見なす規定の整理もあって、わかりやすい。(なお、蓮舫氏の場合は、みなし規定に該当しません。)
日弁連 国籍選択制度に関する意見書 国籍選択制度の立法過程と催告等の運用状況の資料として。
国籍法改正と強制的国籍選択制度 横山真規雄氏の論文 明治大学大学院紀要 1985.2