トランプ氏が、日米、日中などの、貿易赤字を問題にしています。赤字っていうと、なんだか悪いことのように思えますが、貿易赤字って本当に悪いんでしょうか。一番わかりやすく解説します。
- 貿易赤字は悪か
- そもそもなぜ貿易赤字ができるか
- 赤字ではお金がたりなくなる?
- 貿易赤字がずうっと続いてもいいの?
- 貧乏国にはだれもお金をだしてくれない
- 偉大な国はお金が集まる
- 偉大な国なら貿易赤字は問題ない
貿易赤字は悪か
八:ご隠居、たいへんだあ!
ご隠居:おや、八っあん。なにを慌てておるんだね。
八:いやねえ。メリケン(米国)のトランプっていう王様が、なんでも「輸入は悪だ」「貿易赤字は赤だ」「日本は米国から富をかすめ取っている!」って言っているようなんです。
ご:そのようですねえ。
八:ご隠居は、隠居されているから、そうやって澄ましていられるんですよ。こちとら、大変なんです。
ご:それはそれは。八っあんの商いとそのトランプとやらはどういう関係にあるんですか。
八:いやねえ。ご存じのとおり手前どもは、大八車をこしらえまして、メリケンにも買っていただいているんですよ。小回りもきくし、軽いし、なかなか壊れにくいと、大層な評判で。
ご:そうでしたね。
八:それが、トランプが、「メリケンは、日の本のじゃなくて、メリケンでこしらえた大八車を買うべきだ! 日の本も、メリケンの大八車を買え!」 って言ってるんです。
ご:そうらしいですね。
八:で、一つ教えてもらいたいことがありましてね。そもそもの話なんですが、貿易赤字とやらは本当に悪いことなんでしょうかねえ。
そもそもなぜ貿易赤字ができるか
ご:なあんだ。そういうことですか。では、一つ教えて差し上げましょうかね。結論からいえば、貿易赤字や輸入は決して悪ではない、ってことです。
他所の人が作ったいいものを安く買えて、使えるなら、世の中こんなにいいことはありません。八さんだって、たとえば、昨晩のおかずのサンマは、八さんが海で捕ってきたものじゃないでしょう。漁師さんが取ってきて、安く売ってくれるから、あたしたちは、おいしいサンマが安くいただけるっていうわけです。
八:そういえば、そうですね。それは国でも同じことなんでしょうかねえ。
ご:国でも、基本は同じです。
八:なるほど。輸入は悪いことでもなんでもないんですね。
赤字ではお金がたりなくなる?
八:でも、サンマを買うにはお金がいりますでしょ。どんどんどんどんサンマやらイワシやらを買いすぎて、大八車を売っていただいたお金が足りなくなったら困るんじゃないでしょうか。それを貿易赤字っていうんじゃないですかい?
ご:八さん。なかなかいいところに目をつけましたね。そのとおり、先立つものがなければ、他所にどんなにいいものがあっても、得ることはできませんね。
仮に、大八車を売って10両もらったとしましょう。サンマやらなにやらを10両買ってしまったら、ネギを買うお金がなくなってしましいますね。
でも、それならそもそも「貿易赤字」なんてならないはずですねえ。
貿易赤字がずうっと続いてもいいの?
八:いわれてみればそうですねえ。そうなので困った時は、高利貸しにお金を融通してもらうこともあります。それで必要なものを買う。でも、高利貸しはいくらでも貸してくれるわけではないし、利息も払わなければいけないし、元手もいつかはかえさなくてはいけないわけでござんすよね。一時の赤字はともかく、毎年毎年、ずうっと貿易赤字では、やっぱり不味いんじゃないですかい。
貧乏国にはだれもお金をだしてくれない
ご:そうそう。確かにそのとおり。だがね、そこが庶民と国の違いといえば違いなんです。ま、国と言ってもいろいろです。
どことは言いませんが、たとえば内乱に明け暮れて貧乏な国には、いくら欲しくても、なかなかお金も貸してくれないし、その国のお札では、他所の国からモノも買えません。
八:ですよねえ。貧乏人には誰もモノを売ってくれませんよね。
偉大な国はお金が集まる
ご:ところが、メリケンなどの先進国は違うんです。他所の国は、いくらでもモノを売ってくれます。その代金はといえば、ざっくりいえば3つ。まずわかりやすのは、たとえば日の本が、メリケンの飛行機を輸入したときに払った、円紙幣。二つ目は、メリケンの胴元が刷った、ドル紙幣。そして、三つ目は、メリケンは発展すると思って、他所の国がメリケンに投資したり貸し付けたりしたポンドやユーロなどのお札です。
八:なるほど。一つ目はわかるんですが、それだけでは貿易赤字にならないわけでしょう? 問題は2つ目と3つ目ですね。みんながいつまでもドル紙幣を有り難がったり、メリケンを信じて、投資したり貸し付けたりするとは限らないじゃないですか。
偉大な国なら貿易赤字は問題ない
ご:そのとおり。さっきの、内乱の貧乏国がその例ですね。その違いはなんでしょうか。
八:そうか。要は、これからも発展する国かどうか、つまり、お金を貸したり投資したりしてもいい、と思える国かどうか、が肝心かなめなんですね。
ご:そのとおり。ついでにいえば、国の大小でもないんです。スイスがいい例ですね。
だから、トランプさんは、間違っているんです。逆なんです。トランプさんはどうやら「アメリカを偉大な国にする」と宣言しているようだが、「偉大な国」だ、とみんなが信用できるならば、貿易赤字でもいいわけです。事実、これまで100年以上、アメリカはそうしてきたわけですからね。世界中から、お金もモノも人も集まってくる、ドル紙幣は世界で有り難がられる、そういう国が偉大な国ってことなんです。
八:なるほど。そういうことなんですね。
※※※(お茶を一口)
八:それにしてもトランプってのは、ご隠居に教えてもらえば、あっしでもわかるような理屈をわからないような人なんですねえ。
ご:まあ、そういうことだねえ。そういう人が大統領に選ばれてしまった、っていうことが、とても困りものなんだが。まあ、そういう人だと思って、うまあく付き合っていくしかありませんねえ。
八:そうですか。まったく困ったもんですね。どうしたもんだか。
ご:ま、どうすればいいかは、また別の機会にでもお話しましょう。こんなに油売ってて商売いいのかね。
八:あ、そうでした! ご隠居、またお願いいたしやす!
※※※
ところで、トランプ氏は、日本とFTA(自由貿易協定)を結びたいと言われていますが、それは本当でしょうか。実はトランプ氏がめざすのはFTAではない んです。トランプ氏が目指すのは、ちょっと違うところ。そこも押させておきたいですね。