むのきらんBlog

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自由に考えよう

観客は愚かな演技を嫌う~ドラマ「24」~

テレビや映画を観ていて、「愚かな行動」でイライラすることはありませんか。ストレス解消のために観ているはずなのに、「なんでこんな馬鹿なことをするんだ」って、かえってストレスが溜まること、ありますよね。

 

「24(トゥエンティ・フォー)」というアメリカのテレビドラマ。大統領暗殺をめぐる、CTU(対テロチーム)と犯人との行き詰まる24時間を描いて大ヒットしました。

観だしたら、止められません。次々と次の回を観て、24時間(実際には、CMタイム用の飛ばし時間があるので、正味16時間くらい)、画面に釘付けになってしまいます。

とはいえ、観ててイライラする瞬間もあります。たとえば シーズン1での・・・

 

主人公(ヒーロー)の娘の行動はイライラさせられる

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(画像は失礼して24シーズン2|アドバンスホームズ 池袋の日常より)

 

主人公であるCTU(テロ対策ユニット)チーフであるジャック・バウアーの娘のキンバリー・バウアー(エリシャ・カスバート)。

・テロリストに拉致されたところから脱出しようとしたところで、思いとどまっちゃう。(なんで逃げないのか(怒)と観客は思います。)

・隠れていろと父親に指示されたのに不用意に出て行って、敵に居場所をさらしてしまう。 

などなど。観客から見れば、娘の愚かで直情的な行動にイライラさせられます。(もっとも、後半では「賢い行動」も取るのですが。)

それぞれの「愚かな行動」には、それぞれ情緒的にはもっともな理由があるのですが、それを感情移入する観客は少ないのではないでしょうか。 

「キンバリー・バウアー」でグーグル検索をしようとすると、「キンバリー・バウアーうざい」が検索語候補にすぐに出てくることも、観客のストレスを物語っています。(もちろん、彼女を演じたエリシャ・カスパートが「うざい」わけでは全くありません。)

 

愚かな行動をするのは女性、子供、素人

愚かな行動をする人は、女性、子供、素人です。昔のアメリカ映画では、女性は「金切り声を上げてパニクるか、失神するか」という定番の反応がありました。さすがに最近は女性の描き方も多様化してきて、「愚かな素人女性」と「プロフェッショナル女性」に描き分けていますが。

一方、素人がプロっぽく拳銃を使いこなしたりしたら、それはそれで全くリアリティがありません。

 

観客は神の視点で観ている

観客というのは難しいものです。「素人」であるはずなのに、ドラマを見るときは、神というかプロの視点で見てしまうのです。自分もパニクるかもしれないのに、パニクる演技を観ると、「愚かだなあ」と感じてしまうのです。

もちろん、「プロ」の「愚かな行動」への厳しい評価はいうまでもありません。銃撃戦で遮蔽物から出て行って、あっさり撃たれちゃう、みたいな演技や演出は「糞」ですね(お下品ですみません)。

 

愚かなキャラクターは、作家が好む

こういうイライラさせる「愚かな行動」や「愚かなキャラクター」が、結構テレビや映画でしょっちゅうあるのはなぜでしょうか。

それは、作り手が好むのです。彼らがいないと、物事がうまくいきすぎるのです。作戦は予定どおり進行するのです。出来過ぎでは、ドラマにならないわけです。

 

愚かなキャラクターは不可欠なのか

では、愚かなキャラクターがいないと、ドラマは成立しないのでしょうか。そんなことはありません。

例えば、「携帯電話の着信音」。主人公が敵に隠れているところに、パートナーから電話がかかってくる、電話の呼び出し音で主人公の位置が敵に発見されてしまう。

これは、パートナーが愚かなのではありません。あえて言えば、携帯をマナーモードにしなかった主人公のミスといえるかもしれませんが。

 

コン・ゲーム(詐欺)の映画で有名な、スティングでは、賢い、プロの登場人物が、まんまと、巧妙な詐欺にひっかかってしまいます。自分は賢い、という過信が、落とし穴に自らを誘導してしまうのです。

この映画の気持ちいいところは、ひっかかった相手が「愚か」ではない、というところです。

 

イライラさせずにハラハラさせて

観客をイライラさせず、ハラハラ・ドキドキさせる、そういう演出が好きです!

 

とはいえ、24、やっぱりオススメです!

ハラハラ・ドキドキもたっぷりです。

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(画像はアマゾンより) 

 

放送作家の意識しない差別~タレントとの「越えてはいけない境界線」とは~

あぎゃ~ 見つけちゃった。

本人が気がつかない妙なエリート意識ってやつを。そこに潜む差別意識ってのを。それは、いったいどこにあるのでしょうか?

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(写真はエントリーとは別人。茜さやさんです。) 

 

ある放送作家のエントリー。いったい、どこが「問題」なんでしょうか?

一般人のブログでしたら、別にスルーなんですが、BLOGOS編集部に依頼された記事で、しかもコメント不可、というなんとも言論サイトとしてのBLOGOSの編集部と書き手の姿勢が残念ですので、あえて取り上げさせていただきますね。 

西原健太郎さんのこのエントリー。

 

blogos.com

 

エントリー自体は、放送作家という仕事に興味のある人、放送作家になりたい人にむけて、ラジオ放送の現場や、放送作家の仕事ってこういうものだよ、ということを教える内容です。タレントに近づきたいから放送作家になる、という発想じゃだめだよって言ってるわけ。それはそれでいいんですが・・・

問題なのはここ。(太字はあたし)

 

たまに「放送作家は、タレントさんと仲良くなれていいね」みたいな事を言われたりしますが、これも誤りです。もちろん現場では仲良くしますが、タレントさんは芸能人であり、我々はスタッフです。そこには越えられない、越えてはいけない境界線があるのです。いないと思いますが、「タレントと付き合いたい、結婚したいから放送作家になりたい」と考えている人は、残念ですが諦めてください。

 

え? これのどこが問題かって???

 

越えてはいけない境界線ってなに?

別にそんなもん、ないでしょうが!

たとえば、タレントとファンの関係で、熱狂したファンがステージに乱入する、っていうようなことはありますよね。舞台と客席には、越えてはいけない境界線があるよね。

でも、スタッフとタレントって、別に越えてはいけない境界線なんかありません。

 

たとえばね、スタッフが、

タレントと結婚しちゃだめですか?

身分が違うんですか? 別に全然オッケーですよね。

実際、いっくらでも例があります。ディレクターとタレントとかもね。もちろん、付き合うのもありです。打ち上げとかの飲み会もありますしね。

 

実は放送業界って、他の「業界」と同じく、けっこう閉じた業界で、関係者の中でくっついたり、結婚したり、って非常によくあることです。一緒に長い時間を過ごして、時にはロケという名の「出張」もして、共通の話題や感覚を持っていて、てなったら、くっつくのはごく自然な話。

 

ついでにいえば、CIA(米国中央情報局)もそうなんだとか。そのほうが秘密が保てるんだって、ホントかしらんね。アメリカのテレビドラマや映画の中では、よくそういう設定がありますけどね)。

 

じゃあ、

越えてはいけない境界線ってないのか?

といえば、それはあります。

公私混同ってやつ。

たとえばね、プロデューサーとかが、売れないタレントを番組で使う代わりに、○○を強要するっていうようなこと。これ、パワハラとかセクハラです。

その境界線は、スタッフとタレントじゃあなくて、「公」(お仕事)と「私」(プライベート)にあるわけ。パワハラってほどじゃなくても、タレントに「ファンなんです」ってサインをもらう、なんていう素人っぽいことは、かっこ悪いし、(陰で)白い目で見られますよね。(でも、ありますけどね)

 

でね。このエントリーの問題はっていうと。

実はすごい差別意識が隠れてるかも

ってこと。

この放送作家さん、ひょっとして、タレントを「特殊な人たち」と思っていない?

自分たちスタッフとは別の「種族」って思っていない?

スタッフとタレントは越えてはいけない一線があるとすると、じゃあタレント同士ならば一線がないのかしら。まーさか、「ドラマでラブシーンを演じた二人は、収録が終わったあとも、その続きをやるのが当たり前」なんて思っていないかしらね。(そういうことになるケースも皆無じゃないけどね)

 

操る側と操られる側

この作家さんの意識は、スタッフである自分たちは、黒子として後ろからタレントを操る存在、っていうことではないかしら。もっと悪くストレートにいうとね。

水商売や風俗系で「黒服」がキャバ嬢などの「商売モノに手を出すな」っていう話があるでしょ、そんな感じ。タレントを「商品」と思っている、ということ。

もちろんタレントは商品ではありません。放送作家が台本を売っているとすれば、タレントは「作り込んだキャラクターを売っている」というだけのことなんです。収録が終われば、スタッフもタレントもありません。両方とも、「生産者」なんですよ。だから、両方の職種の間に、越えてはいけない境界線なんてありません。

 

じゃあ、 

「種族」としての境界線はどこにあるの?

役割というか立場をめぐる明確な境界線は、そこにはなくて、生産者と消費者(視聴者、聴取者など、つまり普通のひと)にあります。

それは、たとえば、飛行機でのCA(スッチー)と乗客、病院での看護師と患者の距離みたいなもの。その組み合わせよりもくっつくケースがはるかに多いのは、航空会社の社員同士、病院のスタッフ同士、です。 (タレントがCAと結婚、ってのはだから話題になるわけ)

 

ついでにね。もう一つ、境界線があります。それは、

「局」の人とその他。

放送関係者といっても、キー局の正社員(「局の人」、「局員」)とその他に大きく分けられます。圧倒的に強い立場にあるのは、「局の人」。なにせ規制業種なので、雇用と収入が安定しています。

一方、「その他」は、放送作家や制作会社の人など。タレントもそこに含まれます。下請け、外注先であり、雇用形態もフリーだったり、非正規だったり。彼らの中で立場が強いのは、ごく一握りの売れっ子だけ。

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差別と気が付かいないのが差別意識ってやつ。

差別する人に、「自分は差別主義者だ」って思っている人は、あんまりいません。それが差別の難しいところ。そこに気がついてほしいな、と思うんです。

 

だからといって、差別だ! 糾弾するぞ! っていうつもりはありません。いわゆる「ポリコレ棒」(ポリティカル・コレクトネス、政治倫理的に正しい主張を振り回すこと)を振り回すつもりはありません。

これくらいの、軽~い差別意識は、実は結構だれにでもあること。本人には、当たり前すぎて、なかなか気が付きにくいことなんですよね。だから難しいんです。

あたしにもきっといろいろあると思います。

気が付きにくいからこそ、ちょっと考えたほうがいいかな、と思うんです。

 

 

なお、もちろん、放送作家にもいろいろいますから、「放送作家は差別意識を持っている」なんて言うつもりはありません。好意的に見れば、この方も放送作家という言葉のプロとして「読者の目線でわかりやすく書いた」のかもしれません。

けどね。言葉のプロだからこそ、きちんと物事の本質を見極めなきゃいけないよ、と思うのよね。

 

西原さんも、直接問われれば「そういうつもりじゃありませんでした。勘違いして放送作家を志望しないようにね、という趣旨のエントリーです」と言われると思います。しかし、この方(か、BLOGOS編集部か)は、あたしがBLOGOSの大きな価値だと思うコメント欄を意図的に閉じているのです。つまり、「放送」と同じ、流しっぱなしで、読者の返信は受け付けないよ、という姿勢なんですね。残念ですっ。

  

 

新型ティグアンにみるワーゲンの自動運転の今~ACCなどの実力を試乗~

画像出典:New Tiguan < モデル < フォルクスワーゲン公式サイト

 

2017年1月に発売されたフォルクスワーゲンの新型ティグアンを試乗してみました。アダプティブクルーズコントロール(ACC)やTraffic Assistなど自動運転系の機能を中心に、実際の使い勝手をレポートします。

ゴルフやパサートなどフォルクスワーゲンの他の車種にも装備されている機能もあるので、参考にしてください。

 

 

1.ティグアン自動運転系はレベル2

ティグアンの自動運転系は、レベル2の、常時運転者の監視や操作が必要な運転支援です。言い換えると、一定の条件では半自動運転が可能です。

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画像出典:Piloted Driving - Audi がリードする自動運転の世界 -

これは、パサートなども基本的には同じですが、発売時期や車種によって、若干の違いがあります。たとえば、ACCは、ゴルフやポロなど多くの車種に設定されていますが、Traffic Assistは、設定車種がやや狭いなど。

現時点では、VWの日本仕様車としては、新型ティグアンが最新の機能を全て搭載しています。

 

ややこしいのがACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とそれに関係する機能の「Lane Assist」(レーン・アシスト)と渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」(トラフィック・アシスト)との関係。

 

カタログの表記も取扱説明書も複雑です。しかも、わかりにくく不正確な表示になっていますので要注意。ですからネットでもいろんな「解釈」が発生しています。

 

そもそも本国の仕様に対して、日本の法規制で仕様が変わっていることがややこしくなる大きな理由です。取説には「国によって異なります」とか、「日本仕様車を除く」とか書いてあるんですが、日本人にとって知りたいのは、「日本でどうなっているか」です。その点で、非常に不親切な取説です。これはワーゲンに限らないので、まあ、欧州標準ということでしょうね。

 

さて、特にややこしいのは次の3点。

(1)レーンキープは実際のところどうか

(2)渋滞時などで停止後に自動で再発進はしてくれるか

(3)前に停止している車を認識するか

これを、順に見ていきます。 

 

 

以下の記述は、アダプティブクルーズコントロール(ACC)がオンになっていることが前提です。 

 

(1)レーンキープは実際のところどうか

実はレーンキープ機能といっても2種類あります。

車線の間を走る機能のことをVWは、「アダプティブレーンガイド」と呼んでいます。

一方、「レーンキープアシスト」は、車線逸脱を防止する機能です。ややこしいのですが、この違いを説明します。

レーンキープアシスト(Lane Assist)については、同社のサイトではこう書いてあります。

フロントガラス上部に設置されたカメラにより走行中の車線をモニタリング。ドライバーの意図しない車線の逸脱を検知すると、ステアリング補正*を行いドライバーに警告します。マルチファンクションインジケーターには走行車線マーキングを表し、ドライバーのステアリング操作をサポートします。

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 Stage1.予防安全 | Volkswagen オールイン・セーフティ|Volkswagen

 

レーンガイドには「アダプティブレーンガイド」をONにしておく必要があります。(初期設定では、OFF)

これは、ナビシステムのインフォメントシステムDiscover Proの中の「CAR」のドライバーアシスト設定画面で選べます。

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アダプティブレーンガイドがOFF

時速60㎞以上では、レーンアシストが作動します(起動時65㎞以上)。これは、左右のライン(白や黄色の線)を読み取って、そこに近づくと、逸脱しないようにハンドルを補正する機能です。ですので、走行車線が広い場合は、真ん中を走るわけではありません。これに頼ると、場合によっては、左から右へ、また左へ、と走行レーンの中でくねくねと千鳥足的に走ることもありえます。

 

アダプティブレーンガイドをON

アダプティブレーンガイドをONにすると、全速度域で作動します。カタログでは、作動速度は時速0~60㎞までとなっているので、これは、カタログ表記とは異なる点の一つです。

車線の両側のラインなどを認識し、車線の中央部を走行するように、ハンドルが自動で制御されます。(ステアリングが、こく、こく、っと動きます。)


とはいえ、車線の両側のラインが不明瞭だったり、やや急なカーブなどでは、レーンガイド任せでは車線を逸脱することもあります。これはレーンアシストも同じ。自動運転ではなく、あくまで運転支援なのです。

 

頼りっぱなしはNG

レーンアシストやレーンガイドに頼ってハンドル操作をしないでいると、おおよそ3分程度でまず警告表示、次に警告音と表示が出て、ハンドルの操作を促します。それを無視すると、アダプティブレーンガイドが解除されます。ちなみに欧州仕様では、ゆるやかに減速して停止する機能が作動しますが、日本仕様車ではそれは作動しないようになっています。

 

ちなみにカタログでは、Traffic Assistの作動条件に「両手でステアリングを握っていてハンドル操作に関与していること」 と記載されていますが、「両手」がステアリングに触れているかどうかが問題ではなく、ステアリングを操作していることが、警告の基準のようです。もちろん、常に両手でステアリングを握っていることが基本ですが、「ステアリングを両手で握っなきゃ」と特に強く意識する必要はなく、いままでの運転と同様でいいわけです。

 

(2)自動再発進はしてくれるか

カタログでは、渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」について「渋滞の最後尾など、停止している車両の後ろで停車するまで減速し、先行車の動きを検知して再度発進します。」となっています。これでは停止したあと再発進するように思えます。

 

しかし、これは欧州仕様の話。日本では渋滞等で 、前の車に続いて停車。するとアイドリングストップ機能が効いて、エンジンが止まります。前車が発進すると、エンジンが起動します。しかしそのままでは再発進しません。再発進するには、アクセルを踏むか、RES(レジーム)ボタンを押す必要があります。

 

ちなみに、Traffic Assistというボタンはありません。ACCに含まれているのです。

 

なお、Traffic Assistについては、同社のサイトでは以下のように表示されています。

“Traffic Assist”はドライバーがあらかじめ設定した間隔を先行車との間で保ち、走行レーンを維持するようサポートすることができます。この機能をオンにすると交通渋滞時やストップ&ゴーの多い状況において、システムは自動的にアクセルペダル、ブレーキおよびステアリングを制御します。渋滞の最後尾など、停止している車両の後ろで停車するまで減速し、先行車の動きを検知して再度発進します。

 

 

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Stage1.予防安全 | Volkswagen オールイン・セーフティ|Volkswagen

(3)停止車両を認識するか

では、安全にとってとても大切な、「停止」はどうでしょうか。

 

カタログではACCは「渋滞などの低速域でも作動し、先行車が完全に停止するまでの範囲で制御が可能」。Traffic Assistは、「渋滞の最後尾など、停止している車両の後ろで停車するまで減速し渋滞最後尾で停止し再発進します」と書いてあります。

取扱説明書では、「止まっている車両は検知しません」、と記載されているので、どうなのかと試してみました。

 

実際にはこういうことです。低速の場合は、前の停止車両を認識しますが、中高速では停止車両を認識してACCによる(ゆるやかな)自動ブレーキが作動する余裕がありません。

ですから、たとえば高速道路で100キロでクルージングしていて、急に渋滞を発見した場合、ACCがオンでも、それに頼らずブレーキを踏む必要があります。また、前車の急ブレーキによる減速に対応するものでもありません。(最後の文はカタログにも明記されています。)

 

ブレーキを踏み遅れたら 

そこでブレーキを踏み遅れたらどうなるか。

その場合、緊急用の自動ブレーキのプリクラッシュブレーキシステム、Front Assistが作動します。ただし、必ず衝突を回避できるわけではなく、速度や路面状態によっては衝突します。これは他社も同じです。あくまで衝突を緩和することになります。

 

そもそも、レーダーが認識できた場合、ということが前提ですので、いつでも何でも、緊急自動ブレーキが作動するっていうわけではありません。

 

先日、日産セレナの試乗時に追突した事故が報道されていました。これは車載カメラが雨のため先行車を把握できなかったため、と報道されました。ティグアンなどのミリ波レーダーはカメラよりは雨に強いですが、それでも限界はあります。

 

ですから  

ACCに備わっている速度調節としての自動ブレーキ機能と緊急用の自動(急)ブレーキは別の機能

ということを押さえておきましょう。

 

2.ティグアンの自動運転系の使い勝手

 

ACCが前車を認識する範囲

ACCが先行車を認識するのは、おおよそ100メートルくらい前のクルマです。ですから、高速道路の走行車線を走っていて、先行車が追い越し車線に車線変更したあと、あらためて走行車線の前のクルマを認識するのは、100メートルぐらいに近づいてからです。交通の流れがスムーズだと、そういう受け渡しは円滑に行われます。

 

ただし、追い越し車線を走っていて、先行車が走行車線に移って減速した場合、こちらが追い越し車線のままでも、すぐには先行車の認識が切り替わらず、走行車線に移った先行車の速度に引きずられて自車も減速します。その場合は、アクセルを踏んで加速すればいいわけです。

 

高速道路や郊外では快適 

これらの機能は、高速道路はもちろん、郊外の国道や県道など、一応の整備がされた信号の少ない道では、非常に快適です。その状況では(半)「自動運転」と呼んでも間違いではないくらい。

 

おおよそですが、距離で9割、時間で8割程度、十分な運転支援をしてくれます。快適すぎて、眠くなるくらい。ステアリング操作の異常を感知して警告する、ドライバー疲労検知システムはついていますけれども。

とはいえ、運転者の注意力を維持させるのは、自動運転車の大きな課題ですね。完全自動運転になれば別ですが、現在のレベル2まではあくまで運転支援なので、運転者はしっかり注意している必要があります。

  

一般道では特に注意

これらのシステムは、一般道でも作動します。しかし、一般道では高速道路など自動車専用道路に比べ、特に注意が必要です。

 

当たり前ですが、交通信号には反応しません。本当は信号機も認識できるのかもしれませんが、現在のところ、フォルクスワーゲンに限らず、各社そうなっています。ですから、交差点や横断歩道には要注意です。

 

また、前のクルマに追従していて、前のクルマが右折車線に入って減速した場合、前のクルマに合わせて減速します。

一方、ブレーキを踏まない限り、ACCはキャンセルになりませんので、追従で自動停止したあとで、前車が直進、自分は左折するためにアクセルを踏んだとします。すると直前にセットしてあった速度まで加速しますので要注意です。

 

3.他社の自動運転系の動き

フォルクスワーゲン以外の動きで注目したいのは、日産のプロパイロットとアウディのA8です。

 

日産のプロパイロット

日産のセレナに搭載された「プロパイロット」も、全速度域でのレーンキープ(車線の中央を走る)を実現しています。

ハンドル操作をしないと、手放し警告が表示され、無視すると、プロパイロット機能が解除されます。また、ステアリング制御は高速道路や自動車専用道路のみで可能であり、時速50km以下では先行車がいない場合はオフになってしまうなど、作動領域が限定されています(ACCは作動します)。

口コミでは、下りでは速度を出し過ぎるなどの欠点もあるようですが、ティグアンでは、それは見られません。

 

また、プロパイロットやスバルのアイサイトは、カメラによる前方把握ですが、ティグアンなどは、ミリ波レーダーとカメラの組み合わせです(レーダーは先行車などを、カメラは車線のラインなどを感知)なので、レーダーは雨や霧などには強い面があります。

 

アウディA8

アウディが2017年に新型A8でレベル3の自動運転搭載車を出すと発表しました。時速60㎞以下の高速道路などの渋滞時では、運転者の常時監視が不要、とするものです。レベル2までの「運転支援」から、レベル3の「自動運転」に踏み出すわけです。

「レベル3」の自動運転技術搭載車を販売予定。
欧州で販売する新型 Audi A8には「トラフィック ジャム パイロット」を搭載予定です。これは、一定の条件を満たした場合、60 km/h 以下の渋滞時に、ドライバーが監視義務のない同一車線内の自動運転を行なうものです。

Piloted Driving - Audi がリードする自動運転の世界 -

 

日本ではレベル3の自動運転は認められるか

日本では、この仕様が許可されるかどうかは、まだわかりません。たとえば上に書いたように、一旦停止したあとの自動再発進機能が使えないのは、日本の国土交通省の指導によるものだからです。また、「運転者の常時監視が不要」が認められるかどうかの問題もあります。まず欧州で導入されてから、その実績をみて、ということにもなりそうです。

私は、日産などが手を上げれば、まずは、歩行者や自転車と関係ない、高速道路や自動車専用道路に限って、これらを認めればいいと思います。日本は自動車の先進国である必要があるからです。

 

自動運転系の技術は、2017年に出る新型車では、どんどん実装され、普及していくでしょうね。

 

 

 

4.ティグアンの自動運転系以外の使い勝手

さて、新型ティグアンについて、自動運転系以外のインプレッションをいくつか。

 

エンジンと走り

日本で発売されたのはFF(前輪駆動)の二輪駆動車、エンジンはインタークーラー付きターボの1400CCのみ。2018年には四輪駆動車が追加されるでしょう。その際には、ディーゼルエンジンが搭載されたモデルになるかもしれません。欧州ではそういう組み合わせもありますから。

 

エンジン が1400CCと小さいので、最高出力こそ150PSと控えめですが、トルクが1500回転から250Nmと十分あるので、MQBプラットフォームによる軽量化と相まって、旧モデルの2000CCモデルよりも走りが悪くなった印象はありません。けっこうキビキビ走ります。燃費も16.3㎞と良好です。

 

サイズと取り回し

サイズは、先代が実寸の割に小さく見える丸みを帯びたデザインでしたが、新型は、角張ったデザイン、ボンネットが縁まで高めなので、全体に一回りか半回り大きくなった印象です。後部座席と荷室も大きくなったので、使い勝手はよくなりました。また、最小回転半径が従来の5.7メートルから5.4メートルに30センチメートル短くなったので、全長、全幅がやや大きくなった割には、取り回し自体はプラスマイナスゼロ、という感じです。

また、前後左右にカメラが備えられているので、運転席から全周を確認することができます。

 

ヘッドアップディスプレイなどオプション 4点セットは必須

新型ティグアンではインパネが液晶化し、インパネ中央部にもナビ画面が表示できるようになりました。これは非常に便利です。

 

さらにヘッドアップディスプレイは視線の移動が少なくてすみ、疲れにくく、安全性も増します。

軽自動車にも2017年発売の新型ワゴンRに軽自動車初として搭載が始まりました。今後、急速に普及するでしょう。

 

ヘッドアップディスプレイは、ダイナミックライトアシスト、パワーテールゲート、アクティブシャシーコントロール(DCC)とのセットオプションです。

ヘッドライトのダイナミックライトアシストは、対向車や先行車の位置や距離を算出して、最適な照射をする機能です。街灯のない高速道路などで非常に有効です。

パワーテールゲートは、両手がふさがっていてもテールゲートが開けられて、なにげに便利です。DCCも乗り心地を選べて快適です。

 

ですので、ティグアンを疲れずに安全に移動する手段として買うならば、オプション4点セットは強くオススメします。30万円ほどしますが、ティグアンにするならば、その価値は十分にあります。

  

ティグアンは「走るスマホ」か

「走るスマホ化」をフォルクスワーゲンはアピールしています。

ナビシステムのインフォメントシステムDiscover Proをネットに接続して、グーグルアースやストリートビューなどなどを、スマホのように使える、という機能。ティグアン以外の車種でも順次搭載されています。(機能には、搭載時期や車種により若干の違いがあります。)

 

とはいえ、現在は「走るスマホ」というのはちょっと言い過ぎ、「走る外部ディスプレイ」というレベルです。

 

最大の問題は、クルマ単体では「走るスマホ」にならない、ということ。つまり、走るスマホを実現するには、(外部の携帯通信回線につながっている)スマホやタブレットが必要なのです。

そこから、USBやWifi(電話や音楽はブルートゥースも可)で、クルマに接続する必要があります。それじゃあ走るスマホとはちょっと言えませんね。

必要な機能によって、USB,Wi-fi,Bluetoothを使いわける必要もあります。

「走るスマホ」と言うからには、月額の接続料金は別にかかってでもクルマ自体を直接通信端末にすべきと思います。

 

また、たとえば、クルマのナビデータの更新は、ディーラーに頼むか、SDカードにデータをダウンロードして入れなければいけません。これじゃあスマホとは言えません。

 

まあ、これらは、そこそこ便利、というところでしょうか。

 

5.まとめ

新型ティグアンを、自動運転系を中心にみてきました。

全体としては、8年ぶりのフルモデルチェンジだけあって、非常に良くできています。あたしとしては、「いいモノ」印を上げていいと思います。

 

ベンツ、BMW、アウディのドイツプレミアム御三家は、でかいモデルについている装備で、小さいモデルにはついていない装備も結構あります。ティグアンはサイズ的には、御三家の小さめモデル並ですが、それらのでかいモデル(いわゆる上級・高級モデル)に匹敵する安全、快適装備があります。

 

しかし、ティグアンは欧州ではSUVとしてベストセラーカーの一つですが、先代同様、日本で爆発的に売れることはないでしょう。

フォルクスワーゲンというブランド自体が、ディーゼルエンジンの排ガス偽装問題でダメージを受けましたし、日本車とドイツプレミアム御三家がラインナップを広げた結果、ワーゲンがこれまで持っていた、その間のポジショニングをとるのが結構難しくなっていると思います。ドイツのトヨタじゃん、という意見も聞かれますが、それは全くそのとおり。そうなんですよね。

 

つまり、「日本のトヨタ」と「ドイツのトヨタ」の似ているところと違うところ、ということでしょう。

それゆえに、ドイツプレミアム御三家とはちょっと違う、さりげない「いいモノ」を探している方には、いい買い物だと思います。

 

 

なお、本記事は、ティグアンの3グレードのうち、HighlineとR-Lineの2つのグレードの2017年1月の日本発売初期モデルを前提にしています。引用、参照しているカタログは、2017年1月版、サイトは2017年4月時点のものです。

 

 

 

複式簿記なんていらない?~黒字倒産の犯人は~

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起業や事業をするときに、必ず通らなければいけない関門が「複式簿記」。会社の経理には義務付けられてますし、個人事業でも、税金の青色申告にはつきものいっていいものです。してないと、65万円の特別控除が受けられませんから。

 

でもね、複式簿記って本当に必要なんでしょうか。本当はいらないんじゃないですか。

 

複式簿記って実は、黒字倒産の真犯人にして、会計を「会計専門家の聖域」にしちゃってる「悪魔の経典」なんです。

 

こいつのどこがヤバいかを解説します。

 

 

 

複式簿記のフクちゃんです! 

簿記とか経理とか財務会計とかなんとか、難しめのこと習う時に、必ず出てくるこいつ、複式簿記。フクちゃんって呼びますね。そう呼ぶと、そこはかとなく可愛い感じもしますが、こいつが曲者、食わせもの。

 

フクちゃんのそもそもはの出自は、ローマかイスラム商人かなどの説があります。ベニスの商人たちも使っていたみたいです。

複式簿記 - Wikipedia

 

なんで彼らが、面倒くさいフクちゃんを使ったのか。

 

それは、香料から奴隷まで手広く商いをするとき、地中海一円をまたにかけて交易をするときに便利だから。

いつも、現金払いならば、単にお金の出入りだけきちんと帳面に付けておけばいいわけです。でも、それだと商いが大きくなりません。

奴隷を100人仕入れる、香料を奴隷一人分の重さ仕入れる、なんてとき、大金を払うよりは、「お代は奴隷や香料が売れたときに支払いますから、先に商品を送ってよ」ってやったほうが商いが大きくできますよね。

今でいう、後払いの掛け売り・掛け買い、です。当時は、そういう「信用」による取引のネットワークが発達していました。

 

そうすると、手元の現金の出入りだけでは、いくら儲かっているのか、売り掛け、買い掛けはいくらあるのかがわかりません。それをきちんと帳面につけるために、複式簿記はいい方法だったんです。

 

実は複式簿記でなくても、買い掛け帳、売り掛け帳だけでも、買掛金、売掛金は管理できます。しかしそれでは、いくら儲かっているか、在庫はどうなっているか、それらの全体像がわかりません。なんらかの整理する仕組みが必要です。

だから、複式簿記、そしてそれを一定のタイミングで整理した貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)は、とっても便利な発明だったんです。

そこまではいいんです。

 

でね。

それを体系化、理論化したのが「簿記会計の父」と呼ばれたルカ・パチョーリ、15世紀イタリアの修道僧、お坊さんですね。

ルカ・パチョーリ - Wikipedia

どうやら、ルカ坊さんが、きちんと整理してくれたおかげで、「経典」と化していったわけですね。だから、「会計」というと、このフクちゃんが「常識」っていうことになっちゃったわけ。

 

で、何がやばいか

といえば、

黒字トーさん

です。

金持ちとーさみたいで、黒字のお父さんならいいじゃん、いよっ社長さん、ってい感じ。

でもこいつは、「黒字倒産」。

つまり、「勘定あって銭足らず」、ってことが起きちゃう。

 

「我が社の今期の損益は、黒字です。利益が出ます。よかったよかった」なんて言ってるうちに、「いや、でも、月末に支払うお金がありません。」みたいな話しが飛び出しちゃう。

 

え、まじですか。さっき黒字って言ったでしょう! っていうと、経理部の人は、「これだからあ、素人は」っていう微妙な目つきになって、「黒字で利益が出ますと言いましたが、それと資金繰りは別です。」っていい放つわけ。

それならそうと、先に言ってよね! って思いますよね。

 

この 

黒字とーさんの犯人

がこれ、フクちゃんなのです。

 

では、実行犯は、というと。

・棚卸資産

・仕掛品

・売掛金

・元金返済

などです。

 

減価償却といい、こいつらといい、どうも、経理独特の四文字(三文字)熟語には、要注意です。

こいつらのおかげで、実際にはお金(キャッシュ)がなくても、帳簿上の、見かけ上の利益が出ちゃうんです。

 

もちろん、棚卸し資産でも、明日ちゃんと売れればいいんですが。でも、原価(コスト)を沢山かけたけど、売れ残っちゃったものが棚卸し資産になしがち。タダでも引き取り手がない、とかね。

 

また、売掛金も要注意。ちゃんとした会社ならば、期日にはちゃんと払ってくれますが、お金はチャリーンと入るまで、気が抜けません。

取引先だって、倒産することがあるのです。そういうときは大抵、音もなく突然に、やってくるもんです。

 

それやこれやの元凶が、繰り返しになりますが、複式簿記のフクちゃんなのです。

 

で、近年は、この欠点を補うために、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)に加えて、キャッシュフロー計算書(CF)が大事ってことに。キャッシュフロー会計なんて言ってるけど、要は、資金繰り表の進化版のことです。

BSやらPLやらの前に、まずキャッシュフロー。

だから、 

キャッシュイズキング

です!

 

ついでにね。

中央卸売市場をめぐって、豊洲か築地っていう騒ぎがありますよね。豊洲にはもう8000億円かけちゃった。しかし、これは、逆立ちしても戻ってこないお金なんです。それを、サンクコストっていいますね。

 

だから、いくらかけたか、なんでことじゃなくて、これからどっちがいいかで判断することが大事なんです。

それも、複式簿記じゃあ分からないこと。かえってミスリードしちゃうことにもなっちゃう。

キャッシュフローだとわかるんですよ。

 

ちなみに、現在、国や自治体の会計を企業の真似して複式簿記にしよう、という方向になっています。

これはメリットもあるのですが、弊害もあります。それは「我が国や我が町の資産はこんなにある、だから借金してもいいんだ」論に陥りやすいってこと。

国や町の資産のほとんどは、実は「売れない資産」です。それをどやっ、って計上しても意味がありません。下手すると、ばんばん借金して、どんどん役に立たない箱物や道路などを作る口実になっちゃうんです。もちろん箱物や道路が全部ダメっていう話じゃありません。「効用」が大切なんです。

 

さて、ここで練習問題

無借金、内部留保10億は優良か?

 

問題。「我が社は、無借金、純資産も潤沢、なんと内部留保が10億もあるんです。どやっ」なんて会社があるとします。

これ、財務体質が良好と言えるでしょうか?

 

答え。いえません。

 

BSの右側、「資産の部」を見てみる必要があります。内部留保が10億あるとしても、現預金が100万。あとは、全て棚卸資産と固定資産だったらどうでしょう。これらの資産が、お金にしたらいくらになるか、を良く見てみないと、なんとも言えます。

 

棚卸資産が埃だらけの返品の山、固定資産も誰も買い手がつかないような土地、建物、設備だったら目も当てられません。

こういう会社、実は結構多いのです。一昔前は、それでも土地を売って、会社が精算できました。今も東京都心でしたら土地は間違いなく売れます。しか地方の会社だったら、土地の買い手でもなかなかつきません。

 

国際会計基準などで、「時価会計」ってのが進められています。つまり、帳簿価格ではなく、現在処分したらいくらか、できちんと評価しようっていう話。それは方向としては正しいのですが、大企業は別として、中小企業ではなかなか浸透していません。しかも、帳簿価格は会計屋さんが一発で計算できますが、「時価」で評価するっていうのは、なかなか難しいのです。

商品でしたら商品ごと、土地や建物でしたら不動産っていうことになりますから、それぞれ、その道のプロでないと、本当の評価はなかなかできないものですから。

 

だから「内部留保=お金がある」っていうのは全くの勘違い。内部留保にもご用心です。

 

 

まとめ

と、いうことで、複式簿記のフクちゃん、いいところもあるんです。でも、ヤバいところもある悪魔の「経典」でもある。そして税務署や銀行と付き合うためには不可欠、というやっかいなやつ。

複式簿記とは離縁はできませぬ。しかし、神棚に上げて毎日おまつりしても御利益はありません。


「勘定あって銭足らず」にならないように、キャッシュイズキングでございます。

複式簿記にはご用心。

 

というお話でした! 

 

 

複式簿記っていえば、こないだ、減価償却費は節税になんかなりません、って書きました。こちらもよくある「神話」ですので用心くださいね。 

 

ついでに。 

コミック「女騎士、経理になる」。これ、いいですね。面白くてタメになります。

画像出典 女騎士、経理になる。 - デンシバーズ

 

 

 

トランプは北朝鮮を攻撃しない~解決シナリオはあるのか~

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北朝鮮問題が、一気に緊迫化しています。北朝鮮は核実験やミサイル発射を繰り返し、トランプ大統領は「北朝鮮問題を処理する」と言っています。

アメリカは、空母カール・ビンソンを主軸とする空母打撃群を持ってきたり、アフガニスタンでISのトンネル内の基地に対して大規模爆風爆弾(MOAB)を使ったり。それがまた北朝鮮の反発を招く、という事態になっています。

 

どちらかが軍事攻撃に手を出す「Xデー」はいつか、なんて話がネットで飛び交っています。 解決策も、「金正恩に大型爆弾一発落とせば解決よ」っていう過激なものから、専門家ぽいものまで様々出ています。はたしてトランプ大統領は北朝鮮を攻撃するのでしょうか。

 

北朝鮮については冷静な視点を忘れてはいけません。割と忘れられがちな、「大きなポイント」と「ましなシナリオ」があるんです。

 

 

 

最大のポイントはこれ。 

北朝鮮問題は「解決可能点」を超えている

っていうことなんです。

 

ポイント・オブ・ノーリターンっていう言葉があります。飛行機の離着陸などで、ある点を超えると、もうやり直すことができない、という点を言います。「離陸やーめた」ができなくて、もう頑張って飛び上がるしかない、ということ。

 

また、たとえば、火事。

初期の時点では家庭の消火器で消せる。次は消防車で消せる。しかし、火が十分に大きくなると、もう消すことができない状態になります。できることは、周囲への延焼を少しでもくい止めることぐらいになるわけ。2016年12月に糸魚川市駅前で起きた大火事は、そんな状態でした。

 

問題解決も同じ。

問題には、「解決できる問題」と、「解決できない(できなくなった)問題」がある、ということなんです。

 

北朝鮮問題も同じ

問題解決が可能な時点を越えちゃっているんです。

それは、今になって「処理する」には、コストもリスクもかかり過ぎちゃうので対処ができないという状態。

 

では、

北朝鮮は問題解決可能点をいつ越えたか

といえば、正確には分かりません。

 

しかし少なくとも1994年には越えていたのです。

 

当時のクリントン政権が、核開発を進める北朝鮮の核施設への攻撃プランを検討しました。

核・平和をめぐる動き | NHK 平和アーカイブス

しかし、国防総省の答えは、韓国に数十万人の死者、在韓米軍に数万人の死者が出る、ということ。もちろん、韓国も反対しました。

それで、クリントン大統領は、攻撃プランを止めたのです。

 

つまり

北朝鮮問題は処理できるか

といえば、残念ながら、「処理できない問題」になっちゃっているのです。

トランプ大統領は、まだそこが分かっていません。だから「処理する」と言っちゃっているわけ。

 

そもそも

処理とはなにか

それは、「少なくとも、これまでよりは良い状態にする」、ということ。

病気や感染症でいえば、感染の拡大を抑え、症状を快方に向かわせるということ。

 

トランプ大統領は、オバマ大統領の弱腰を批判し、「自分なら処理できる」と公言しました。

しかし、それはできない選択なのです。もう少し、詳しく見てみましょう。

 

処理のシナリオ

それには、大きく、軍事攻撃と交渉の2つのシナリオがあります。

1.軍事攻撃のシナリオ

(1)指導部をピンポイントで狙いを絞って攻撃して、指導部を壊滅させる。

(2)ミサイル基地を攻撃して、ミサイルが発射できないようにする。

(3)北朝鮮軍全体を攻撃して、韓国侵攻の意思と能力を奪う。

 

2.交渉のシナリオ

中国の協力も得て、軍事、経済両面の圧力で

(1)核開発を放棄させる。

(2)米本土に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)開発を放棄、停止させる。

 

シナリオの有効性

残念ながら、どのシナリオも有効性が極めて低いのです。

 

一つ目の、

軍事攻撃は

どれを行っても、速やかに戦果を十二分に上げられないというリスクが高いのです。

そして、その結果、日本や韓国へのミサイル発射や韓国への砲撃、侵攻を招きます。

数万人どころか、数十万人の死者が出ます。また、放射性物質を詰め込んだ「汚い爆弾」や核ミサイルによる核爆発は、直接の死者以外にも甚大な人的・経済的被害を及ぼします。(北朝鮮の核兵器がミサイルに搭載可能なレベルになっているかどうかは、諸説ありますが、一定レベルの核爆発が可能となっている可能性もあると考えます。)

 

米国は「攻撃する場合は日韓と事前協議する」としています。日韓がそれを了承するはずがありません。また、在日・在韓の米軍やアメリカ人に数万人の死者が出ます。

 

アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領と支持者にとって、日本人や韓国人の命の値段は安いものです。

しかし、米国民の命は非常に高い。4月のシリア空軍基地への空爆は、米国人の犠牲がないことを見越して行われたのです。

したがって、在日、在韓の米軍とその家族が数万人単位で駐留し続ける限り、軍事攻撃は行われません。在韓米軍は約3万人、在日米軍は約5万、家族などを含めて約10万人が駐留しています。

 

トランプ大統領は、中国が協力しないならアメリカ単独でも北朝鮮問題を処理するとしています。そして、北朝鮮への攻撃を否定していません。しかしそれは、「トランプなら何をするかわらない。やるかもしれない。」という脅しとして使っていると見るべきです。

 

シリアやアフガニスタンでのミサイルや空爆は、反撃のリスクがほとんどないものです。韓国はもちろん、在日米軍をミサイルの射程圏内に納めている北朝鮮の場合は、反撃のリスクが極めて高いのです。さすがのトランプ大統領も、軍事専門家からのそういった報告を無視できません。自分の支持率が下がるからです。

 

ちなみに、

トランプ大統領が反撃のリスクを承知の上で攻撃をするのはどういう場合か

といえば、それは、米軍や米国人が攻撃された場合です。

そうなると、戦争によって米国人にもっと死者が出ても、アメリカ世論は攻撃を支持します。非常にざっくりと言えば、第一次大戦、第二次大戦のアメリカの参戦理由もそれでした。

米国は、反撃リスクが極めて低い場合以外は先制攻撃を行いません。

もちろん、自らが攻撃されることが分かりきっている場合は別ですが、それは反撃の一種です。

 

 

では、2つ目の 

交渉は

どうでしょうか。

北朝鮮が交渉のテーブルに着く可能性はあります。なんらかの合意ができる可能性もあるでしょう。しかし、交渉の最大の欠点は、「実効性が担保されない」ということ。

過去、幾度も合意を反故にした北朝鮮。約束を反故にするトランプ大統領。という組み合わせで、約束を守る、守らせる状況ができるはずはありません。

 

北朝鮮から見たら、約束を守るリスクが高すぎるのです。4年後にトランプ大統領よりさらに過激な人が大統領になるかもしれないわけだし。だから、どんな約束をしようが、ICBM開発を進めるわけです。

ICBMの発射実験は、米軍に確実に知られますから、それは当面は控えるにしてもね。これまでの繰り返しです。こでまでと同様に着実に開発は進みます。過去のアメリカに止められなかったものが、今止められるはずがありません。

それを本当に止めるすべは、事実上、「軍事攻撃」しかないからです。

 

 

そうなると、

できることは何か、マシなシナリオは

それは、北朝鮮への抑止力を高く保つことしかありません。

しかしこれが、難しいのです。

 

軍事的抑止力には2つの側面があります

一つは、核兵器、いわゆる核の傘です。

もう一つは通常兵器による侵攻の抑止です。

 

相互確証破壊(MAD)が実現した場合

北朝鮮は、核を搭載して米国本土を攻撃できるICBMを開発中です。10年以内に実戦配備されるでしょう。そうなると、米国との間に、相互確証破壊(MAD)が、「一応」できます。

つまり、米国が核を使うぞ、という脅しは、そうすれば、こちらも核の雨をワシントンに降らせるぞ、という脅しで無力化されるのです。

したがって、日本や韓国を守っている核の傘は無力になります。

 

ちなみに、中国も相互確証破壊をめざしています。中国や北朝鮮の相互確証破壊については、中国の核戦略は相互確証破壊(MAD)の実現~南シナ海や尖閣だけではない、想像したくない近未来シナリオ~をどうぞ。

 

さて、相互確証破壊が実現してしまうと、核戦力は無力化されてしまい、残るは核以外、つまり通常兵力です。

在韓米軍を除いた場合、北朝鮮と韓国の軍事バランスは微妙です。ソウルが北朝鮮国境に近い、という地政学的問題があるため、韓国は、北朝鮮の攻撃に極めて脆弱なのです。

また、北朝鮮はすでに日本をミサイルの射程距離内に置いています。

 

したがって、北朝鮮は、日本や韓国を脅すことが十分にできます。

ですので、

在日米軍の通常兵器による反撃と、日韓両軍の通常兵器による反撃の両方を、確実に担保しておく必要があります。

 

とりわけ、もしも

在日米軍・在韓米軍の引き揚げ

という事態になったら、核の傘もない中で、日韓は「裸」で北朝鮮と対峙することになります。

 

幸いに、

北朝鮮には本格攻撃の意図はない

のです。

 

北朝鮮の狙いを正確に理解する必要があります。

それは、ともかくも現体制の維持につきます。その上で、体制を引き締め、かつできれば経済的な譲歩(支援や制裁解除)を求める、ということ。

したがって、これらを甘受すれば、北朝鮮からの攻撃はまずありません。彼らの軍備はそのためのものなのです。

 

とはいえ、北朝鮮の体制もいつかは不安定な時機を迎えます。その際に、万が一にも暴発させないようにしておくことが不可欠です。

 

徹底的な反撃のコミット

ですから、攻撃したら徹底的に反撃されることを明確にコミットしておくことです。

それを準備するためには、交渉するシナリオもあるでしょう。ただしそれは、根本的な問題解決を図るためではなく、北朝鮮の暴発を防ぐためのものであることを十分に理解する必要があります。

 

自民党の一部で言われ出した、「敵基地攻撃能力を自衛隊に付与する」という議論も、その観点でとらえる必要があります。

経済力では、日韓は北朝鮮を遙か上を言っています。ですので、経済力を生かして、協力な抑止力を備える必要があるのです。もちろん、日韓の間に、すきま風が吹いていけません。

歴史認識や領土問題などで、対立点があることは、「あって当然」とした上で、それと安全保障をリンクさせないことを、両国国民が強く認識する必要があるのです。

 

 

そして、本当は、

自動兵器・ロボット兵器が一番

なのです。

人間ですと、躊躇があったり、実行しないだろう、と思われてしまいますが、自動的に徹底的に反撃される、という状態にしておくことです。

38度線には韓国軍が自動兵器を配備しています。北朝鮮兵士が境界を越えると、自動的に発砲するロボット兵器です。

 

地雷原に踏み込む人はいません。それは、地雷には意思がなく、踏めば自動的に爆発することが「担保」されているからです。

いわば自動兵器・ロボット兵器と同じような、相互確証破壊のしくみを、日韓は対北朝鮮に対して、通常兵器でも持っておく必要があるんです。

 

 

なお、北朝鮮については、安全保障とは別に重大な問題があります。

それは拉致問題も含めた人権問題です。 残念ながら、上の「ましなシナリオ」では、人権問題を解決することはできません。北朝鮮で起きている強権支配による強烈な人権の無視は、甘受するしかありません。それは現体制と表裏一体のものだからです。

 

まとめ

北朝鮮については、米国の大統領が誰になろうとも、かっこいい解決策は存在しません。

できることは、できるだけ北朝鮮の核兵器やミサイルの開発を遅らせる一方で北朝鮮の暴発を、強力な抑止力を備えることによって抑え続ける、という「マシなシナリオ」だけなのです。 

残念な世の中ですが、これも世の中ですね。

 

 

(注)冒頭写真はモデルさんです。