画像出典:New Tiguan < モデル < フォルクスワーゲン公式サイト
2017年1月に発売されたフォルクスワーゲンの新型ティグアンを試乗してみました。アダプティブクルーズコントロール(ACC)やTraffic Assistなど自動運転系の機能を中心に、実際の使い勝手をレポートします。
ゴルフやパサートなどフォルクスワーゲンの他の車種にも装備されている機能もあるので、参考にしてください。
- 1.ティグアン自動運転系はレベル2
- (1)レーンキープは実際のところどうか
- (2)自動再発進はしてくれるか
- (3)停止車両を認識するか
- 2.ティグアンの自動運転系の使い勝手
- 3.他社の自動運転系の動き
- 4.ティグアンの自動運転系以外の使い勝手
- 5.まとめ
1.ティグアン自動運転系はレベル2
ティグアンの自動運転系は、レベル2の、常時運転者の監視や操作が必要な運転支援です。言い換えると、一定の条件では半自動運転が可能です。
画像出典:Piloted Driving - Audi がリードする自動運転の世界 -
これは、パサートなども基本的には同じですが、発売時期や車種によって、若干の違いがあります。たとえば、ACCは、ゴルフやポロなど多くの車種に設定されていますが、Traffic Assistは、設定車種がやや狭いなど。
現時点では、VWの日本仕様車としては、新型ティグアンが最新の機能を全て搭載しています。
ややこしいのがACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とそれに関係する機能の「Lane Assist」(レーン・アシスト)と渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」(トラフィック・アシスト)との関係。
カタログの表記も取扱説明書も複雑です。しかも、わかりにくく不正確な表示になっていますので要注意。ですからネットでもいろんな「解釈」が発生しています。
そもそも本国の仕様に対して、日本の法規制で仕様が変わっていることがややこしくなる大きな理由です。取説には「国によって異なります」とか、「日本仕様車を除く」とか書いてあるんですが、日本人にとって知りたいのは、「日本でどうなっているか」です。その点で、非常に不親切な取説です。これはワーゲンに限らないので、まあ、欧州標準ということでしょうね。
さて、特にややこしいのは次の3点。
(1)レーンキープは実際のところどうか
(2)渋滞時などで停止後に自動で再発進はしてくれるか
(3)前に停止している車を認識するか
これを、順に見ていきます。
以下の記述は、アダプティブクルーズコントロール(ACC)がオンになっていることが前提です。
(1)レーンキープは実際のところどうか
実はレーンキープ機能といっても2種類あります。
車線の間を走る機能のことをVWは、「アダプティブレーンガイド」と呼んでいます。
一方、「レーンキープアシスト」は、車線逸脱を防止する機能です。ややこしいのですが、この違いを説明します。
レーンキープアシスト(Lane Assist)については、同社のサイトではこう書いてあります。
フロントガラス上部に設置されたカメラにより走行中の車線をモニタリング。ドライバーの意図しない車線の逸脱を検知すると、ステアリング補正*を行いドライバーに警告します。マルチファンクションインジケーターには走行車線マーキングを表し、ドライバーのステアリング操作をサポートします。
Stage1.予防安全 | Volkswagen オールイン・セーフティ|Volkswagen
レーンガイドには「アダプティブレーンガイド」をONにしておく必要があります。(初期設定では、OFF)
これは、ナビシステムのインフォメントシステムDiscover Proの中の「CAR」のドライバーアシスト設定画面で選べます。
アダプティブレーンガイドがOFF
時速60㎞以上では、レーンアシストが作動します(起動時65㎞以上)。これは、左右のライン(白や黄色の線)を読み取って、そこに近づくと、逸脱しないようにハンドルを補正する機能です。ですので、走行車線が広い場合は、真ん中を走るわけではありません。これに頼ると、場合によっては、左から右へ、また左へ、と走行レーンの中でくねくねと千鳥足的に走ることもありえます。
アダプティブレーンガイドをON
アダプティブレーンガイドをONにすると、全速度域で作動します。カタログでは、作動速度は時速0~60㎞までとなっているので、これは、カタログ表記とは異なる点の一つです。
車線の両側のラインなどを認識し、車線の中央部を走行するように、ハンドルが自動で制御されます。(ステアリングが、こく、こく、っと動きます。)
とはいえ、車線の両側のラインが不明瞭だったり、やや急なカーブなどでは、レーンガイド任せでは車線を逸脱することもあります。これはレーンアシストも同じ。自動運転ではなく、あくまで運転支援なのです。
頼りっぱなしはNG
レーンアシストやレーンガイドに頼ってハンドル操作をしないでいると、おおよそ3分程度でまず警告表示、次に警告音と表示が出て、ハンドルの操作を促します。それを無視すると、アダプティブレーンガイドが解除されます。ちなみに欧州仕様では、ゆるやかに減速して停止する機能が作動しますが、日本仕様車ではそれは作動しないようになっています。
ちなみにカタログでは、Traffic Assistの作動条件に「両手でステアリングを握っていてハンドル操作に関与していること」 と記載されていますが、「両手」がステアリングに触れているかどうかが問題ではなく、ステアリングを操作していることが、警告の基準のようです。もちろん、常に両手でステアリングを握っていることが基本ですが、「ステアリングを両手で握っなきゃ」と特に強く意識する必要はなく、いままでの運転と同様でいいわけです。
(2)自動再発進はしてくれるか
カタログでは、渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」について「渋滞の最後尾など、停止している車両の後ろで停車するまで減速し、先行車の動きを検知して再度発進します。」となっています。これでは停止したあと再発進するように思えます。
しかし、これは欧州仕様の話。日本では渋滞等で 、前の車に続いて停車。するとアイドリングストップ機能が効いて、エンジンが止まります。前車が発進すると、エンジンが起動します。しかしそのままでは再発進しません。再発進するには、アクセルを踏むか、RES(レジーム)ボタンを押す必要があります。
ちなみに、Traffic Assistというボタンはありません。ACCに含まれているのです。
なお、Traffic Assistについては、同社のサイトでは以下のように表示されています。
“Traffic Assist”はドライバーがあらかじめ設定した間隔を先行車との間で保ち、走行レーンを維持するようサポートすることができます。この機能をオンにすると交通渋滞時やストップ&ゴーの多い状況において、システムは自動的にアクセルペダル、ブレーキおよびステアリングを制御します。渋滞の最後尾など、停止している車両の後ろで停車するまで減速し、先行車の動きを検知して再度発進します。
Stage1.予防安全 | Volkswagen オールイン・セーフティ|Volkswagen
(3)停止車両を認識するか
では、安全にとってとても大切な、「停止」はどうでしょうか。
カタログではACCは「渋滞などの低速域でも作動し、先行車が完全に停止するまでの範囲で制御が可能」。Traffic Assistは、「渋滞の最後尾など、停止している車両の後ろで停車するまで減速し渋滞最後尾で停止し再発進します」と書いてあります。
取扱説明書では、「止まっている車両は検知しません」、と記載されているので、どうなのかと試してみました。
実際にはこういうことです。低速の場合は、前の停止車両を認識しますが、中高速では停止車両を認識してACCによる(ゆるやかな)自動ブレーキが作動する余裕がありません。
ですから、たとえば高速道路で100キロでクルージングしていて、急に渋滞を発見した場合、ACCがオンでも、それに頼らずブレーキを踏む必要があります。また、前車の急ブレーキによる減速に対応するものでもありません。(最後の文はカタログにも明記されています。)
ブレーキを踏み遅れたら
そこでブレーキを踏み遅れたらどうなるか。
その場合、緊急用の自動ブレーキのプリクラッシュブレーキシステム、Front Assistが作動します。ただし、必ず衝突を回避できるわけではなく、速度や路面状態によっては衝突します。これは他社も同じです。あくまで衝突を緩和することになります。
そもそも、レーダーが認識できた場合、ということが前提ですので、いつでも何でも、緊急自動ブレーキが作動するっていうわけではありません。
先日、日産セレナの試乗時に追突した事故が報道されていました。これは車載カメラが雨のため先行車を把握できなかったため、と報道されました。ティグアンなどのミリ波レーダーはカメラよりは雨に強いですが、それでも限界はあります。
ですから
ACCに備わっている速度調節としての自動ブレーキ機能と緊急用の自動(急)ブレーキは別の機能
ということを押さえておきましょう。
2.ティグアンの自動運転系の使い勝手
ACCが前車を認識する範囲
ACCが先行車を認識するのは、おおよそ100メートルくらい前のクルマです。ですから、高速道路の走行車線を走っていて、先行車が追い越し車線に車線変更したあと、あらためて走行車線の前のクルマを認識するのは、100メートルぐらいに近づいてからです。交通の流れがスムーズだと、そういう受け渡しは円滑に行われます。
ただし、追い越し車線を走っていて、先行車が走行車線に移って減速した場合、こちらが追い越し車線のままでも、すぐには先行車の認識が切り替わらず、走行車線に移った先行車の速度に引きずられて自車も減速します。その場合は、アクセルを踏んで加速すればいいわけです。
高速道路や郊外では快適
これらの機能は、高速道路はもちろん、郊外の国道や県道など、一応の整備がされた信号の少ない道では、非常に快適です。その状況では(半)「自動運転」と呼んでも間違いではないくらい。
おおよそですが、距離で9割、時間で8割程度、十分な運転支援をしてくれます。快適すぎて、眠くなるくらい。ステアリング操作の異常を感知して警告する、ドライバー疲労検知システムはついていますけれども。
とはいえ、運転者の注意力を維持させるのは、自動運転車の大きな課題ですね。完全自動運転になれば別ですが、現在のレベル2まではあくまで運転支援なので、運転者はしっかり注意している必要があります。
一般道では特に注意
これらのシステムは、一般道でも作動します。しかし、一般道では高速道路など自動車専用道路に比べ、特に注意が必要です。
当たり前ですが、交通信号には反応しません。本当は信号機も認識できるのかもしれませんが、現在のところ、フォルクスワーゲンに限らず、各社そうなっています。ですから、交差点や横断歩道には要注意です。
また、前のクルマに追従していて、前のクルマが右折車線に入って減速した場合、前のクルマに合わせて減速します。
一方、ブレーキを踏まない限り、ACCはキャンセルになりませんので、追従で自動停止したあとで、前車が直進、自分は左折するためにアクセルを踏んだとします。すると直前にセットしてあった速度まで加速しますので要注意です。
3.他社の自動運転系の動き
フォルクスワーゲン以外の動きで注目したいのは、日産のプロパイロットとアウディのA8です。
日産のプロパイロット
日産のセレナに搭載された「プロパイロット」も、全速度域でのレーンキープ(車線の中央を走る)を実現しています。
ハンドル操作をしないと、手放し警告が表示され、無視すると、プロパイロット機能が解除されます。また、ステアリング制御は高速道路や自動車専用道路のみで可能であり、時速50km以下では先行車がいない場合はオフになってしまうなど、作動領域が限定されています(ACCは作動します)。
口コミでは、下りでは速度を出し過ぎるなどの欠点もあるようですが、ティグアンでは、それは見られません。
また、プロパイロットやスバルのアイサイトは、カメラによる前方把握ですが、ティグアンなどは、ミリ波レーダーとカメラの組み合わせです(レーダーは先行車などを、カメラは車線のラインなどを感知)なので、レーダーは雨や霧などには強い面があります。
アウディA8
アウディが2017年に新型A8でレベル3の自動運転搭載車を出すと発表しました。時速60㎞以下の高速道路などの渋滞時では、運転者の常時監視が不要、とするものです。レベル2までの「運転支援」から、レベル3の「自動運転」に踏み出すわけです。
「レベル3」の自動運転技術搭載車を販売予定。
欧州で販売する新型 Audi A8には「トラフィック ジャム パイロット」を搭載予定です。これは、一定の条件を満たした場合、60 km/h 以下の渋滞時に、ドライバーが監視義務のない同一車線内の自動運転を行なうものです。
Piloted Driving - Audi がリードする自動運転の世界 -
日本ではレベル3の自動運転は認められるか
日本では、この仕様が許可されるかどうかは、まだわかりません。たとえば上に書いたように、一旦停止したあとの自動再発進機能が使えないのは、日本の国土交通省の指導によるものだからです。また、「運転者の常時監視が不要」が認められるかどうかの問題もあります。まず欧州で導入されてから、その実績をみて、ということにもなりそうです。
私は、日産などが手を上げれば、まずは、歩行者や自転車と関係ない、高速道路や自動車専用道路に限って、これらを認めればいいと思います。日本は自動車の先進国である必要があるからです。
自動運転系の技術は、2017年に出る新型車では、どんどん実装され、普及していくでしょうね。
4.ティグアンの自動運転系以外の使い勝手
さて、新型ティグアンについて、自動運転系以外のインプレッションをいくつか。
エンジンと走り
日本で発売されたのはFF(前輪駆動)の二輪駆動車、エンジンはインタークーラー付きターボの1400CCのみ。2018年には四輪駆動車が追加されるでしょう。その際には、ディーゼルエンジンが搭載されたモデルになるかもしれません。欧州ではそういう組み合わせもありますから。
エンジン が1400CCと小さいので、最高出力こそ150PSと控えめですが、トルクが1500回転から250Nmと十分あるので、MQBプラットフォームによる軽量化と相まって、旧モデルの2000CCモデルよりも走りが悪くなった印象はありません。けっこうキビキビ走ります。燃費も16.3㎞と良好です。
サイズと取り回し
サイズは、先代が実寸の割に小さく見える丸みを帯びたデザインでしたが、新型は、角張ったデザイン、ボンネットが縁まで高めなので、全体に一回りか半回り大きくなった印象です。後部座席と荷室も大きくなったので、使い勝手はよくなりました。また、最小回転半径が従来の5.7メートルから5.4メートルに30センチメートル短くなったので、全長、全幅がやや大きくなった割には、取り回し自体はプラスマイナスゼロ、という感じです。
また、前後左右にカメラが備えられているので、運転席から全周を確認することができます。
ヘッドアップディスプレイなどオプション 4点セットは必須
新型ティグアンではインパネが液晶化し、インパネ中央部にもナビ画面が表示できるようになりました。これは非常に便利です。
さらにヘッドアップディスプレイは視線の移動が少なくてすみ、疲れにくく、安全性も増します。
軽自動車にも2017年発売の新型ワゴンRに軽自動車初として搭載が始まりました。今後、急速に普及するでしょう。
ヘッドアップディスプレイは、ダイナミックライトアシスト、パワーテールゲート、アクティブシャシーコントロール(DCC)とのセットオプションです。
ヘッドライトのダイナミックライトアシストは、対向車や先行車の位置や距離を算出して、最適な照射をする機能です。街灯のない高速道路などで非常に有効です。
パワーテールゲートは、両手がふさがっていてもテールゲートが開けられて、なにげに便利です。DCCも乗り心地を選べて快適です。
ですので、ティグアンを疲れずに安全に移動する手段として買うならば、オプション4点セットは強くオススメします。30万円ほどしますが、ティグアンにするならば、その価値は十分にあります。
ティグアンは「走るスマホ」か
「走るスマホ化」をフォルクスワーゲンはアピールしています。
ナビシステムのインフォメントシステムDiscover Proをネットに接続して、グーグルアースやストリートビューなどなどを、スマホのように使える、という機能。ティグアン以外の車種でも順次搭載されています。(機能には、搭載時期や車種により若干の違いがあります。)
とはいえ、現在は「走るスマホ」というのはちょっと言い過ぎ、「走る外部ディスプレイ」というレベルです。
最大の問題は、クルマ単体では「走るスマホ」にならない、ということ。つまり、走るスマホを実現するには、(外部の携帯通信回線につながっている)スマホやタブレットが必要なのです。
そこから、USBやWifi(電話や音楽はブルートゥースも可)で、クルマに接続する必要があります。それじゃあ走るスマホとはちょっと言えませんね。
必要な機能によって、USB,Wi-fi,Bluetoothを使いわける必要もあります。
「走るスマホ」と言うからには、月額の接続料金は別にかかってでもクルマ自体を直接通信端末にすべきと思います。
また、たとえば、クルマのナビデータの更新は、ディーラーに頼むか、SDカードにデータをダウンロードして入れなければいけません。これじゃあスマホとは言えません。
まあ、これらは、そこそこ便利、というところでしょうか。
5.まとめ
新型ティグアンを、自動運転系を中心にみてきました。
全体としては、8年ぶりのフルモデルチェンジだけあって、非常に良くできています。あたしとしては、「いいモノ」印を上げていいと思います。
ベンツ、BMW、アウディのドイツプレミアム御三家は、でかいモデルについている装備で、小さいモデルにはついていない装備も結構あります。ティグアンはサイズ的には、御三家の小さめモデル並ですが、それらのでかいモデル(いわゆる上級・高級モデル)に匹敵する安全、快適装備があります。
しかし、ティグアンは欧州ではSUVとしてベストセラーカーの一つですが、先代同様、日本で爆発的に売れることはないでしょう。
フォルクスワーゲンというブランド自体が、ディーゼルエンジンの排ガス偽装問題でダメージを受けましたし、日本車とドイツプレミアム御三家がラインナップを広げた結果、ワーゲンがこれまで持っていた、その間のポジショニングをとるのが結構難しくなっていると思います。ドイツのトヨタじゃん、という意見も聞かれますが、それは全くそのとおり。そうなんですよね。
つまり、「日本のトヨタ」と「ドイツのトヨタ」の似ているところと違うところ、ということでしょう。
それゆえに、ドイツプレミアム御三家とはちょっと違う、さりげない「いいモノ」を探している方には、いい買い物だと思います。
なお、本記事は、ティグアンの3グレードのうち、HighlineとR-Lineの2つのグレードの2017年1月の日本発売初期モデルを前提にしています。引用、参照しているカタログは、2017年1月版、サイトは2017年4月時点のものです。