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宅配問題の「正しい」解決法~再配達料金は取れるか~

宅急便のヤマト運輸が、宅配料金の27年ぶりの値上げに踏み切ろうとしています。その背景には、配送現場の労働過重と人手不足があります。

 

配送現場があえいでいる、大きな要素が、不在による再配達。

およそ2割が不在による再配達が必要とのこと。共働きなどの条件が重なると、不在率はさらに高まります。一人暮らしはもちろん、結婚した女性が外で働くことが当たり前になっている今、不在率は高まることはあれ、下がることはなかなかないでしょう。

クロネコは、宅配ボックスの普及など、様々な対策を進めるそうです。とはいえ、宅配ボックスの設置にはお金やスペースが要りますので、急速な普及は難しそうです。職場、コンビニ、駅などで受け取るのも、モノによってはいいですが、アマゾンの箱を担いで家まで持って帰るのは、かなりしんどそうです。

(そのあたりクルマ社会か電車社会か、という交通手段にもよるでしょう。)

 

値上げには理解を示す声もある反面、高齢者を中心に、「自分は必ず家にいて、だいたい一発で受け取ってるのに、なんで値上げしなきゃいけないんだ」という反応もあります。

 

どうすればいいのでしょう?

それを考えることで、値上げに踏み切ったヤマトの戦略も見えてきます。

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画像出典:写真素材 足成【フリーフォト、無料写真素材サイト】

 

単純な解決は再配達料金

経済学的に考えると、答えは単純です。

Aさんには一発配達。Bさんには不在で二回配達。となったら、Aさんには何も責任はありません。不在となったコストはBさんが負うのが基本です。つまり、再配達の料金を追加で取ればいいのです。

これは、考えて見れば当たり前。ちょうど、近くにいるAさん、遠くにいるBさんの二人に荷物を送ろうとしたときに、Bさんへの運送料金が高いのは当たり前。だって、その分輸送のコストがかかるからです。

不在、再配達、というのは、Bさんのところは、不在がちなので輸送コストがかかる送り先ですよ、という意味です。だから、再配達料金を徴収するのは理にかなっています。

 

再配達料金を取ることの問題点

ところが、この再配達料金を取る、というのが結構難しいのです。

2つのケースを考えます。

・自分でネット通販を注文したケース。

・他人に贈り物をするケース。

 

ネット通販を注文したケース。

ネット通販を注文する際に、「配送料無料」につられて選ぶことってよくありますよね。そうしておいて、不在だったら、再配達料金を取られる、としたらどうでしょうか。素直に払って受け取るのは、ちょっと抵抗があります。

まして、クロネコの人がピンポンした時に、たまたまトイレに入っていた、みたいなとき。もうちょっと待ってもらったら、よかったのに、自分が悪いんじゃない、クロネコが悪いんだ、というクレームも出るでしょう。

 

他人に贈り物をするケース。

まして、他人にお中元やお歳暮を贈る時は、一層ハードルが高くなります。

正直、余りほしくもないものを頂くこともあります。それを、再配達料金を払ってまで受け取るか、というとちょっと微妙。では、贈る側にその費用を後で請求するのはどうか。贈る側としては、もう金額を確定しちゃった、という気持ちです。なので、あとから再配達料を請求されるのは困ります。

 

と、いうことで、再配達料金を頂くのは、なかなか難しいのです。

 

では、どうしたらいいか。簡単な解決法があります。

それは

逆にする!

こと。

 

つまり、再配達料金をあらかじめ配送料金に含めてしまいます。その分、値上げも必要でしょう。で、一発配達できた場合は、ポイントを差し上げるのです。そうすると、会員になってネットで時間指定したり、職場、駅、コンビニなどで受け取るなどすれば、ポイントがもらえるのでそういう「良い子」になろうとする、ということ。

 

ちょっと考えると、この2つは同じです。しかし、「参照点」と「評価者」が異なるのです。

「参照点」というのは、スタートラインのこと。

基本の料金に加え、後で追加料金を負担するのは、非常に負担感があります。さきほどのトイレに入っていたケースなどは、割り切れない思いが残ります。

一方、後者の方法だと、ポイントはあくまで、もらえてラッキー、ということ。言い換えると、お客の都合ではなく、クロネコ側に、「助かった。ありがとうございます。」とポイントを贈る権利(?)があるわけです。つまり、「評価者」が、お客の側ではなく、クロネコ側になる、ということです。お客が便秘で長時間トイレであろうが、長電話だろうが、本当の不在だろうが、クロネコのドライバーにとっては、同じことです。だから、クロネコ側が評価すればいいわけです。

 

ちなみに、この「参照点」というのは、応用の利く概念です。ランチセットにコーヒーとデザートがついていると、「お得」と感じます。一方、コーヒーとデザートが別料金ですよ、というと抵抗を感じます。

買い物をするときに、おまけがついてくることがあります。考えて見ると、その費用はお客が負担しているわけです。ですが、お客は「お得」に感じがちです。

こんな風に、人は無意識に、参照点を持って判断しているわけです。一般にセット料金で込み料金よりも、追加料金を払うほうに負担を感じがち、ということです。

 

ただし、問題点もあります。それは、

基本料金を値上げせざるを得ない

ということ。

そこには、強い抵抗があります。だから、この問題はなかなか解決できなかったわけです。とはいえ、配送業者の現場の労働条件は限界です。また人手不足も深刻です。

そうなった今こそ、値上げを受け入れる余地が出てきたのだと思います。

 

したがって、一斉値上げをした上で、再配達が不要な「一発配達」に対して、あの手この手で優遇策を打ってくるでしょう。

 

なぜ今、ヤマトが抵抗の大きい値上げを打ち出したか。それには、このような考えがあるとあたしは思います。

 

 

マイナンバーは失敗するか~よくある誤解~

ネットでは、「マイナンバーは住基ネットと同じく失敗する」という声が結構あります。マイナンバーは本当に失敗するのでしょうか。

 

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画像はマイナンバー社会保障・税番号制度より

 

ありがちな批判を見てみましょう。(太字筆者)

gendai.ismedia.jp

'02年8月の稼働開始から13年あまり。発行された住基カードは累計920万枚だが、紛失などを除く有効発行数は710万枚で、カードを持っているのは全国民のわずか5・5%にすぎない。発行済みの住基カードは、有効期限いっぱいは使えるが、随時マイナンバーカードに置き換えられてゆく。

 

このままでは間違いなく、マイナンバーも住基ネットの轍を踏むことになるだろう。ある内閣府官僚が、こんなことを口にした。

「にわかには信じがたいかもしれませんが、実は近い将来、マイナンバーカードは廃止になる可能性が濃厚です。国民のほぼ全員が携帯電話を持つようになった今、携帯のSIMカードに必要な情報を入れた方が、ICカードに情報を書き込むより安全で手軽ですから。

総務省では、すでにそのための実証実験も始まったと聞きます」

 

 批判をもう一件。 

wpb.shueisha.co.jp

政府が作成した『マイナンバー制度利活用推進ロードマップ』には、国民への交付枚数の目安として『2016年3月末・1000万枚』→『2019年・8700万枚』と記されているが、現状はどうか?

「7月上旬時点で636万枚です」(総務省住民制度課の担当者)

政府が示した交付枚数の目安を大幅に下回る数字…。番号通知された国民(約1億2千万人)の約5%にとどまるという、予想以上の体たらくぶりだった。

なぜ、これほどまでにマイナンバーカードは普及していないのだろう? ITジャーナリストの佃均氏がこう語る。

「交付枚数が少ないのは、国が運用するマイナンバーの管理システムに不具合が出て交付枚数を制限せざるを得なかったことや『制度への不信感』、『利便性が感じられない』などの理由で国民からの申請そのものが低調になっていることが影響しています」

また、そうした状況は普及率がわずか5%(交付枚数・約700万枚)に止まって大失敗に終わった住基カードにソックリなのだという。

「住基カードは公務員への普及が非常に低調でした。制度を支える当事者でさえそんな状態だったのですから国民に普及しないのも当然でしょう。その反省から、総務省は『職員は必ずマイナンバーを取得しなさい』と全国の自治体に指示を出したようですが…

これらの批判は、全く的外れ、というわけではありません。しかし、基本的なことを押さえておかないと、マイナンバーはオワコン、みたいな話に流されてしまいます。 

 

住基ネットと住基ネットカードは別

よく、「住基ネットは失敗したんですよね。だからマイナンバーもそうなるんじゃない」という声を聞きます。しかし、これは全くの勘違い。

住基ネットという情報システムは、着々と稼働しています。たとえば、パスポートを申請に行った時に、パスポートセンターで現住所を確認されますが、それは「住基ネット」に接続して確認されているのです。

廃止になったのは、「住基ネット」ではなく、「住基ネットカード」です。

 

マイナンバーもこれと同じ。マイナンバーという情報システムそのものは、間違いなく、どんどん進むでしょう。では、「マイナンバーカード」はどれだけ普及するか、という問いは残ります。

マイナンバーカードは、長期的にはなくなると思います。それは、「カード」を持たなくなる時代がいつかはくる、ということ。と、言っても、当分は「カードの時代」は続くでしょう。そうすると、クレジットカードやキャッシュカードなどのいわゆるカード類、さらにいえば、運転免許証や健康保険証などの広義の「カード」の中で、「マイナンバーカード」という存在が、いつまで続くか、ということでしょうね。

  

マイナンバーカードの枚数は

「マイナンバー失敗説」の論拠の一つが、少ない交付枚数です。公表情報がいまいち更新されていないので、最新の交付枚数はわかりません。

が、2016年9月25日時点のデータが見つかりました。

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内閣官房「マイナンバー制度の現状と将来について」より

これによれば、 交付済みは8百万枚あまりですが、自治体への発送枚数は約1千1百万枚、ということです。つまり、昨年時点で、ほぼ住基カードの交付枚数に達した、ということ。

1千万枚という数字は、おおよそ日本の大人が1億人いるので、およそ1割、ということになりますね。(もちろん、子供もマイナンバーカードを持つことができますが、マイナンバーカードのメリットを受けられるのは、主に大人ですので、そのようにとらえることができます。)

 

「マイナンバーの失敗」とはそもそも何か

そもそも、「マイナンバーが失敗する」というのはどういう状態を指すのでしょうか。

普通に考えると、「マイナンバーが廃止される」か「普及しない」という二つの「失敗」がありそうです。

 

では、

マイナンバーは廃止されるのか

まず、廃止されることはないでしょう。今後の日本の基幹的なしくみとなるでしょう。 

マイナンバーという番号を通じて、納税、資産、医療などなどの各種の情報が変換され、統合されていく、といことになるでしょう。

 

では、

マイナンバーは普及しないで尻すぼみになるのか

それも、ほぼありえません。たとえば、税務署が脱税を調べる時に必要になるのは、銀行口座の情報。これまでは、「名寄せ」が困難でした。マイナンバーによって、各種の口座の情報を、税務署が正確に知ることができるのです。(なお、投資信託などを除く、既存の銀行預金口座についてのマイナンバーの申請義務づけは、現在は見送られています。)

 

あり得るのは、「活用」が進まない、という事態です。税務調査など、行政の都合による活用ばかり進み、民間や国民にとっての利便性が置き去りにされる、ということは十分にありえます。

 

マイナンバーカードはどうなるのか

「マイナンバー」という制度は、今後ますます広がっていくとしても、上で述べたように「マイナンバーカード」は、長期的にはなくなるでしょう。

とはいえ、e-Taxを使う人は徐々にですが毎年増えています。それにはマイナンバーカードがほぼ不可欠。したがって、マイナンバーカードも徐々に普及していくでしょう。

マイナンバーカードなどの「ICカードによらない本人認証」や「写真によらない本人確認」が進んだ時点、それがマイナンバーカードの終わりでしょう。その時は、クレジットカードや運転免許証などのカードも、電子的なものに置き換わっていくことだと思います。

それまでの過渡期として、たとえば、健康保険証、運転免許証などとマイナンバーカードが一体化した「カード」という時期もあるかもしれません。 

 

マイナンバー漏洩のリスクはどれくらいか

「マイナンバーが他人に知られたら大変なことになる」と心配される方がいます。確かに、マイナンバーは、秘密にしておくべき個人情報です。しかし、どれくらいの程度か、ということが重要です。

私は、マイナンバーのリスク(可能性)とダメージ(影響)は、生年月日の漏洩リスクと同じ程度、だと思います。

 

マイナンバーを他人に知られたとして、それが直ちに、経歴、収入、資産、病歴、家族、などなどの個人情報が他人に知られる、ということではありません。そこを間違えないようにしたいものです。

たとえば、勤め人は、マイナンバーを会社に知らせることになっています。確定申告をする時にはマイナンバーが必要です。そこから漏洩されるリスクはゼロとはいえません。これまでも、会社や行政機関などから、個人情報が大量に流出することがありました。それと同じです。

今も、簡易的な本人確認には、現住所と生年月日を使うことが多いのです。したがって、マイナンバーは生年月日と同じくらい、秘密にしておくべきもの。漏れた場合の問題は、生年月日と同じくらい、と思っておくのがいいと思います。

 

マイナンバーカードを受け取る際に、パスワードを設定します。マイナンバーカードに加えてパスワードも同時に盗られると、なりすましがされやすくなります。

したがって、「マイナンバーカード」と「パスワード」をセットで盗られないように管理することが大切です。(もし盗難にあったりしたら、マイナンバーを変更することも可能です。)

 

マイナンバーを巡る風説には要注意です。正しく理解して、お付き合しいましょうね!

 

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なお、マイナンバーカードを取ると、e-Taxによって確定申告も楽になるんです。それについては、

今からでも間に合うe-Tax~使ってみた。確定申告が楽になる。~ - むのきらんBlog

をどうぞ!

確定申告とマイナンバーの微妙な関係については、

確定申告にマイナンバーや本人確認は拒否できるのか - むのきらんBlog

を読んでねっ。

 

 

2017.4.3 追加をしました。

 

豊洲と築地の比較は正しいか~築地は既存不適格物件~

豊洲市場問題、ついに築地にも飛び火(?)しました。

築地のほうが、豊洲より危ない、ということです。

戦後の進駐軍(米軍などのことです)のクリーニング施設もあったので、土壌も汚染されているおそれが高いとのことです。それ以外にも、老朽建物の耐震性や、開放型市場であるゆえの衛生面の問題など、築地は深掘りすればするほど、安全とは断言できにくなります。

 一方、だからといってそれは「豊洲が安全」「豊洲が妥当」ということにはならない、という意見もあります。

どちらが正しいのでしょうか。

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画像は築地市場のご紹介|東京都中央卸売市場より

 

築地と豊洲、どちらが危ないか

これは、文句なく、築地が危ない。それは明白です。ただし、築地の危険度は、「食の安全」という観点から見れば、まあ当面容認できる程度。築地の土壌がどうこう、ということではなく、開放型市場というスタイルは、基本的には一定の危険を伴うのです。食品工場や外食店の厨房の衛生管理を考えると明白です。ただし、開放型市場は、実は築地だけではありません。したがって、築地は「ただちに閉鎖せねばならないほど危ない」のではないのです。

  

「築地が豊洲より危ないからといって、『豊洲が安全』とはいえない」論は正しいか

答え:正しい。

「築地が豊洲より危ないからといって、『豊洲が安全』とはいえない」論、っていうのは、ポピュラーな問題です。

建物を新築する際に、それまで住んでいた建物が、危ないから、新築建物が安全、とは言い切れませんよね。

建築や不動産の用語で、「既存不適格物件」という言葉があります。耐震基準などは、どんどん厳しくなっていきます。なので、昔の基準でOKだった建物も、現在の基準で見れば、「危ない」ということになります。だからといって、住んじゃダメ、取り壊さなければダメ、耐震補強しなくちゃダメ、っというわけではありません。(耐震補強は、一定の規模や用途の場合は、補強していない建築物が公表されたり、耐震補強が促されるなどの動きはありますが。)

 

なので、一般に、新しい基準に適合した建物のほうが、安全、というのは当たり前。

 

で、豊洲は、基準に適合しているのです(都の環境確保条例や土壌汚染対策法など)。

 

では、新しい基準に適合した施設である豊洲は絶対的に安全か、といえばそういうことはありません。世の中、絶対はないわけです。

また、風評リスクという面でいえば、豊洲以外により良い候補地があれば、そこがベターでしょう。しかし、面積やアクセスその他の理由で、種々検討の結果、豊洲がベターである、というのが、これまでの都の結論です。それに対する説得力のある代替案は、今のところ見当たりません。

 

つまり、豊洲が「まし」であり、説得力ある代替案はない

ということなのです。

なお、そもそも、卸売市場のあり方はそれでいいのか、という問いはあります。これからの流通を考えた時に、現在のスキームは卸売市場法を含めて見直すべきです。

 

とはいえ、豊洲危ない、豊洲反対、という主張をする方は、具体的な代替案を出すべきでしょう。「危ない」といえば、たとえば地震リスクを考えると、東京都自体が、「危ない」 わけなのです。

 

 

 

石原氏と小池氏、どちらが正しいのか~安全と安心を混同するポピュリズムのコスト~

築地市場の豊洲移転問題で、石原元都知事が記者会見を行い、小池都知事を批判しました。小池氏も反論しています。ネットでは、石原氏に軍配をあげ、小池氏を批判する意見も目立ちます。石原氏と小池氏、どちらが正しいのでしょうか?

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画像は、豊洲市場について|東京都中央卸売市場 より

 

石原氏の主張は、2017年3月3日 記者会見資料|コラム|石原慎太郎公式サイト | 宣戦布告.netにありますが、それを受けた、小池氏への批判記事はたとえばこちら。

blogos.com

確かに、科学は非常に重要です。安全は科学的に評価すべきです。

 

そもそも

豊洲は、都の環境確保条例と土壌汚染対策法に準拠していれば安全上の問題はありません

環境確保条例と土壌汚染対策法は、大きな安全率を盛り込んで科学的に設定されたルールであり、これを守っていれば、人体には影響がないのです。

 

なので、小池氏への批判は、頷けるものです。

 

しかし、ちょっと待ってください。「安全」の基準を定めた環境確保条例に対して、豊洲を特別扱いして、

「安心問題」に盛ったのは、石原都政

なのです。

「豊洲は危険」という声が都議会やメディアで出たので、それに対応して、「専門家会議」の設置を決めたのです。実は、これが「悪手」でした。都の条例や法律に上乗せする対策を行う仕組みを事実上つくってしまったのです。

 

以下、

2017年3月3日 記者会見で石原氏が公表した 「豊洲市場関係時系列」表

を元に、時系列を追います。

2005(H17)年5月31日
「豊洲地区用地の土壌処理に関する確認書」締結
→ 東京ガスは,環境確保条例117条に基づく計画を実施。
→ 加えて,処理基準を超える操業由来の汚染土壌については,道路の区域の下及びAP+2mより下部に存するものを除
き,除去するか又は原位置での浄化等により処理基準以下となる対策を行う。

そして、

2007(H19)年4月27日 東京ガスが「汚染拡散防止措置完了届」提出,都(環境局環境改善部)が受理

となります。つまり、この時点で、都の条例に基づく安全対策は施工済みなのです。

(なお、土壌汚染対策法は、2002年5月に施行されましたが、都の条例をクリアする対策が打たれていたならば、土壌汚染対策法もクリアしていると考えて、ほぼ問題ありません。)

 

「安心対策」に突き進む専門家会議

ところが、石原都政の2007(H19)年4月 「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議」が設置されます。

専門家会議はハッスルします。あれが心配、これが心配、とばかり、安全対策のてんこ盛りを提言しました。ゼロリスクを極限まで求めていけば、自ずと、そういうことになるわけです。それでは、社会が困りますから、一定の基準を決めているわけです。それが環境確保条例であるわけなのに、です。

 

その専門家会議で出てきたのが、「盛り土」をはじめとした過大な「安全対策」。

2008(H20)年7月26日
「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議報告書」公表
→「土壌汚染対策法・関連法令に求められる対策を上回る内容の手厚い土壌汚染対策を独自に追加実施すべき旨の提言がなされた」

(太字筆者)

つまり、科学的な安全対策というよりは、「ここまでやれば安心でしょ!」っていう安心対策なのです。すでに環境確保条例どおりの施工で、十分な安全性は確保できているのですから。

 

もちろん費用も膨らみます。土壌汚染対策費が586億円にまで膨らんだのは、このような石原都政の「安心対策」が根源です。で、石原都政からそれを引き継いだ、猪瀬知事、桝添知事傘下の都庁は、専門家会議の提言した対策をPRします。

一方、建設の技術畑では、建築の常識による、設計が進みます。当然、建物地下には盛り土はありません。盛り土は不要であり邪魔ですから。

 

その結果、2016年夏の小池都政になって明らかになったのが、例の

盛り土問題

です。

専門家会議の提言どおりの盛り土の説明図と、実際の建築が別ものだった、ということが明らかになりました。

そもそも、盛り土は安心対策であり、安全対策としては過剰なものです。したがって、盛り土問題の本質は安全問題ではなく、「意思決定から説明に至るプロセスが不適切であった」という問題です。そうでなければ、施工内容と違う説明図が長く公開されているはずはありません。

 

石原都知事の決定は正しいのか

もしも石原氏が専門家会議を設置しなかったらどうなっていたでしょうか。

おそらく、豊洲の危険性を危惧する声が大きくなり、豊洲移転はできなかったのではないでしょうか。石原都政が豊洲移転を強行していたら、都政への批判は強まり、石原氏やそれに続く猪瀬氏の政治生命が絶たれたかもしれません。また都議会でも、多数を占める自民党の圧勝はなかったかもしれません。

したがって、石原氏の決定は、政治家としては、およそ日本の政治家の平均点であった、と評価することができるでしょう。自らのまいた種を放置して、小池氏を批判する資格はないでしょう。そのように批判するならば、専門家会議などを設置しなければよかったのです。

 

石原氏の小池批判

ところが石原氏は次のように小池氏を批判しています。

「安全と安心を混同している。専門家が豊洲は安全と言っているのに、信用せずに無為無策で放置して余計なお金を使う。理解できない。その責任は彼女にある」(2017/3/4 2:30日本経済新聞 朝刊)

しかし、それを混同するような、「専門家会議」を設置し、環境確保条例を大幅に超える「安心対策」のしくみを作ったのは、石原都政です。その結果、「莫大な安全対策」が投じられることになりました。必要以上のことをやろうとすれば、ずれも出ます。その一つが「盛り土問題」でした。

専門家会議の設置は、石原氏個人が主導したとまでは言いませんが、それを決済したのは石原氏です。したがって、石原氏も小池氏も、五十歩百歩というか、同じようなものなのです。 

 

小池都知事の決断は正しいのか

一方、小池氏はどうでしょう。都知事就任直後の盛り土問題の発覚の時点で、豊洲をめぐる都政への信頼度は地に落ちました。そいう中で、予定どおり11月の移転を進めることは、政治的には無理でしょう。

実際には、移転延期の決定のほうが先でした。しかし、移転延期の決定は、「待ったなし」でしたし、移転を予定どおり進めていたとしても、盛り土問題発覚によって、移転には急ブレーキをかけざるをえなかったでしょう。

したがって、小池氏の決定もまた、政治家としては、およそ日本の政治家の平均点であった、と評価することができるでしょう。

 

では、

本来はどうあるべきでしょうか

本来は、都の環境確保条例と土壌汚染対策法を元に、粛々と移転を進めるべきです。

しかし、それができる条件は4つ。

(1)都が十分な説明を行うこと。

(2)マスメディアが冷静な報道を行うこと。

(3)政治家が、不安を煽らないこと。

そして、

(4)都民や築地関係者が冷静な理解力を持つこと。

 

残念ながら、豊洲問題においては、この4つの条件がそろっていないのです。

 

今、石原氏や小池氏を批判している人たちは、自分が彼らの立場であったら、彼らの轍を踏まない、といえるでしょうか。正直いって、私が都知事であっても、難しいかなあ、と思うのです。

 

したがって、石原氏も小池氏も、ベストとはいえないが、政治家としては、まあ平均点ということだと思います。

 

今後のシナリオ

9回目の地下水調査で、異常な数値が出ましたが、その原因は、どうやら調査方法に問題があったようです。

したがって、改めて調査をした上で、「安全に問題はない」ということを、新たな専門家会議が報告し、それを都庁、都議会が了承して、豊洲移転を進める、ということになるでしょう。その際に、「追加の安全対策」が盛られるかもしれませんし、移転時期が延びることは間違いないわけです。

 

 

こうみていくと、はじめの問いの答えが見えてきます。

石原氏と小池氏、どちらが正しいのか

それは、石原氏、小池氏ともに、「民意」の虜であったということです。 石原氏や小池氏に、そうさせたもの。それは、安心と安全の混同であり、それもポピュリズムの症状の一つです。

つまりは、この騒ぎは、

安全と安心を混同する、ポピュリズムのコスト

ということです。

 

安全と安心を混同している例は、いろいろあります。一方、科学的に考えると、よりお金をかけるべき問題、より緊急に解決すべき重要な問題があります。科学的な安全性を抜きにして、特定の問題に強く情緒的な安心を求めることで、かえって社会にとっての長期的で持続可能な安全性が損なわれることになりがちです。

豊洲問題は、その縮図といえるでしょう。

だから、私たちは、私たち自身にある、ポピュリズムを問うことが大切なのです。

 

 

 

豊洲問題についての基本はこちらをご覧ください。

www.munokilan.com 

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