ネットでは、「マイナンバーは住基ネットと同じく失敗する」という声が結構あります。マイナンバーは本当に失敗するのでしょうか。
- 住基ネットと住基ネットカードは別
- マイナンバーカードの枚数は
- 「マイナンバーの失敗」とはそもそも何か
- マイナンバーは廃止されるのか
- マイナンバーは普及しないで尻すぼみになるのか
- マイナンバーカードはどうなるのか
- マイナンバー漏洩のリスクはどれくらいか
画像はマイナンバー社会保障・税番号制度より
ありがちな批判を見てみましょう。(太字筆者)
'02年8月の稼働開始から13年あまり。発行された住基カードは累計920万枚だが、紛失などを除く有効発行数は710万枚で、カードを持っているのは全国民のわずか5・5%にすぎない。発行済みの住基カードは、有効期限いっぱいは使えるが、随時マイナンバーカードに置き換えられてゆく。
このままでは間違いなく、マイナンバーも住基ネットの轍を踏むことになるだろう。ある内閣府官僚が、こんなことを口にした。
「にわかには信じがたいかもしれませんが、実は近い将来、マイナンバーカードは廃止になる可能性が濃厚です。国民のほぼ全員が携帯電話を持つようになった今、携帯のSIMカードに必要な情報を入れた方が、ICカードに情報を書き込むより安全で手軽ですから。
総務省では、すでにそのための実証実験も始まったと聞きます」
批判をもう一件。
政府が作成した『マイナンバー制度利活用推進ロードマップ』には、国民への交付枚数の目安として『2016年3月末・1000万枚』→『2019年・8700万枚』と記されているが、現状はどうか?
「7月上旬時点で636万枚です」(総務省住民制度課の担当者)
政府が示した交付枚数の目安を大幅に下回る数字…。番号通知された国民(約1億2千万人)の約5%にとどまるという、予想以上の体たらくぶりだった。
なぜ、これほどまでにマイナンバーカードは普及していないのだろう? ITジャーナリストの佃均氏がこう語る。
「交付枚数が少ないのは、国が運用するマイナンバーの管理システムに不具合が出て交付枚数を制限せざるを得なかったことや『制度への不信感』、『利便性が感じられない』などの理由で国民からの申請そのものが低調になっていることが影響しています」
また、そうした状況は普及率がわずか5%(交付枚数・約700万枚)に止まって大失敗に終わった住基カードにソックリなのだという。
「住基カードは公務員への普及が非常に低調でした。制度を支える当事者でさえそんな状態だったのですから国民に普及しないのも当然でしょう。その反省から、総務省は『職員は必ずマイナンバーを取得しなさい』と全国の自治体に指示を出したようですが…
これらの批判は、全く的外れ、というわけではありません。しかし、基本的なことを押さえておかないと、マイナンバーはオワコン、みたいな話に流されてしまいます。
住基ネットと住基ネットカードは別
よく、「住基ネットは失敗したんですよね。だからマイナンバーもそうなるんじゃない」という声を聞きます。しかし、これは全くの勘違い。
住基ネットという情報システムは、着々と稼働しています。たとえば、パスポートを申請に行った時に、パスポートセンターで現住所を確認されますが、それは「住基ネット」に接続して確認されているのです。
廃止になったのは、「住基ネット」ではなく、「住基ネットカード」です。
マイナンバーもこれと同じ。マイナンバーという情報システムそのものは、間違いなく、どんどん進むでしょう。では、「マイナンバーカード」はどれだけ普及するか、という問いは残ります。
マイナンバーカードは、長期的にはなくなると思います。それは、「カード」を持たなくなる時代がいつかはくる、ということ。と、言っても、当分は「カードの時代」は続くでしょう。そうすると、クレジットカードやキャッシュカードなどのいわゆるカード類、さらにいえば、運転免許証や健康保険証などの広義の「カード」の中で、「マイナンバーカード」という存在が、いつまで続くか、ということでしょうね。
マイナンバーカードの枚数は
「マイナンバー失敗説」の論拠の一つが、少ない交付枚数です。公表情報がいまいち更新されていないので、最新の交付枚数はわかりません。
が、2016年9月25日時点のデータが見つかりました。
内閣官房「マイナンバー制度の現状と将来について」より
これによれば、 交付済みは8百万枚あまりですが、自治体への発送枚数は約1千1百万枚、ということです。つまり、昨年時点で、ほぼ住基カードの交付枚数に達した、ということ。
1千万枚という数字は、おおよそ日本の大人が1億人いるので、およそ1割、ということになりますね。(もちろん、子供もマイナンバーカードを持つことができますが、マイナンバーカードのメリットを受けられるのは、主に大人ですので、そのようにとらえることができます。)
「マイナンバーの失敗」とはそもそも何か
そもそも、「マイナンバーが失敗する」というのはどういう状態を指すのでしょうか。
普通に考えると、「マイナンバーが廃止される」か「普及しない」という二つの「失敗」がありそうです。
では、
マイナンバーは廃止されるのか
まず、廃止されることはないでしょう。今後の日本の基幹的なしくみとなるでしょう。
マイナンバーという番号を通じて、納税、資産、医療などなどの各種の情報が変換され、統合されていく、といことになるでしょう。
では、
マイナンバーは普及しないで尻すぼみになるのか
それも、ほぼありえません。たとえば、税務署が脱税を調べる時に必要になるのは、銀行口座の情報。これまでは、「名寄せ」が困難でした。マイナンバーによって、各種の口座の情報を、税務署が正確に知ることができるのです。(なお、投資信託などを除く、既存の銀行預金口座についてのマイナンバーの申請義務づけは、現在は見送られています。)
あり得るのは、「活用」が進まない、という事態です。税務調査など、行政の都合による活用ばかり進み、民間や国民にとっての利便性が置き去りにされる、ということは十分にありえます。
マイナンバーカードはどうなるのか
「マイナンバー」という制度は、今後ますます広がっていくとしても、上で述べたように「マイナンバーカード」は、長期的にはなくなるでしょう。
とはいえ、e-Taxを使う人は徐々にですが毎年増えています。それにはマイナンバーカードがほぼ不可欠。したがって、マイナンバーカードも徐々に普及していくでしょう。
マイナンバーカードなどの「ICカードによらない本人認証」や「写真によらない本人確認」が進んだ時点、それがマイナンバーカードの終わりでしょう。その時は、クレジットカードや運転免許証などのカードも、電子的なものに置き換わっていくことだと思います。
それまでの過渡期として、たとえば、健康保険証、運転免許証などとマイナンバーカードが一体化した「カード」という時期もあるかもしれません。
マイナンバー漏洩のリスクはどれくらいか
「マイナンバーが他人に知られたら大変なことになる」と心配される方がいます。確かに、マイナンバーは、秘密にしておくべき個人情報です。しかし、どれくらいの程度か、ということが重要です。
私は、マイナンバーのリスク(可能性)とダメージ(影響)は、生年月日の漏洩リスクと同じ程度、だと思います。
マイナンバーを他人に知られたとして、それが直ちに、経歴、収入、資産、病歴、家族、などなどの個人情報が他人に知られる、ということではありません。そこを間違えないようにしたいものです。
たとえば、勤め人は、マイナンバーを会社に知らせることになっています。確定申告をする時にはマイナンバーが必要です。そこから漏洩されるリスクはゼロとはいえません。これまでも、会社や行政機関などから、個人情報が大量に流出することがありました。それと同じです。
今も、簡易的な本人確認には、現住所と生年月日を使うことが多いのです。したがって、マイナンバーは生年月日と同じくらい、秘密にしておくべきもの。漏れた場合の問題は、生年月日と同じくらい、と思っておくのがいいと思います。
マイナンバーカードを受け取る際に、パスワードを設定します。マイナンバーカードに加えてパスワードも同時に盗られると、なりすましがされやすくなります。
したがって、「マイナンバーカード」と「パスワード」をセットで盗られないように管理することが大切です。(もし盗難にあったりしたら、マイナンバーを変更することも可能です。)
マイナンバーを巡る風説には要注意です。正しく理解して、お付き合しいましょうね!
なお、マイナンバーカードを取ると、e-Taxによって確定申告も楽になるんです。それについては、
今からでも間に合うe-Tax~使ってみた。確定申告が楽になる。~ - むのきらんBlog
をどうぞ!
確定申告とマイナンバーの微妙な関係については、
確定申告にマイナンバーや本人確認は拒否できるのか - むのきらんBlog
を読んでねっ。
2017.4.3 追加をしました。