今回の大統領候補の中で、好感度ナンバーワンはバーニー・サンダースだそうだ。
CNNによれば「登録有権者の60%がサンダース氏に肯定的な見方をしていた。否定的に見ていた割合は33%だった。」とのこと。
なぜ、サンダースの好感度が高いのか。
反ワシントン、反ウォール街、反富裕層というサンダースの主張が、格差社会アメリカの貧しい人や若者の共感を得ているから、と言われる。確かにそうだろう。
そしてまた私は、彼が伝統的な「良きアメリカ人」を体現しているように見えるからだと考える。私は彼の政策を支持しないが、彼の好感度が高いのは、理解できるように思う。
(目次)
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「スミス 都会に行く」
往年の映画に、「スミス 都会に行く」というのがある。フランク・キャプラ監督、ジェームス・スチュワート主演の作品だ。田舎のボーイ・スカウトの青年スミスが合衆国議員になって、奮闘する話である。(以下、若干のネタバレあり)
写真は、アマゾンより
スミス都へ行く - Mr. Smith Goes to Washington -
彼はワシントンのしきたりにはこだわらず、庶民感覚をもとに民衆のための政治を実現しようとする。しかし、嵌められて孤立無縁になる。そんな彼を支えるのが、故郷の少年たちだ。
ちなみに、窮地に陥った彼は、フィリバスターという議会戦術を使う。アメリカ上院では、発言者は発言を終えて着席しない限り、いつまでも登壇しつづけることができる、というルールを利用したもの。彼は、昼夜ぶっとうしで倒れるまで演壇で話し続ける。これと同じ戦術で一躍有名になったのが、サンダースだ。議会の多数派に、たった一人で立ち向かう姿は、ダブってみえないだろうか。(共和党の大統領候補の1人であるテッド・クルーズも行なった。)
ただし、サンダースは1991年から下院議員を、そして2007年からは上院議員を務めている、ワシントンの古手である。白髪、高齢の彼の風貌は、「スミス」に出てくる、ジェームズ・スチュアート演じる青年スミスではなく、クロード・レインズ演じる先輩上院議員(微妙な役回り)と似ているのは面白い。
写真は、映画ありきより
なお、スミスを助けるヒロインの名もサンダース(ジーン・アーサー)であるのは、偶然の一致だ。
たった1人ででも正義を貫くという構図は、「12人の怒れる男」(監督シドニー・ルメット、主演ヘンリー・フォンダ)という映画にも共通する。陪審員による裁判で、誰もが有罪を確信していた中、たった一人で疑問をぶつけ、全員を説得していく姿を描いたもの。アメリカの「正義」とはなにか、という価値観を問うドラマだ。
写真は、アマゾンより
「スミス」と同じ監督と主演の作品に、「素晴らしき哉(かな)人生」もある。タイムマシン映画の傑作、「バックトウザフューチャー」のアイデアの元になった映画だ。
ここでもまた主人公は、貧しい庶民のために少額の金を貸し、阿漕な取り立てはしない。今風に言えば、社会起業家、インキュベーター、エンジェルということになるだろう。
写真は、アマゾンより
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サンダースはスミス
今の米国の若者は、これらの古い映画を観ていないだろう。しかし、これらに通底する、弱者をたった一人ででも弱者を助け、社会正義を実現しようとする姿は、古き良きアメリカ人の理想形ではないだろうか。
アメリカというとすぐ、自由競争による格差を肯定する国のイメージがあるが、それとともに、もう一つのアメリカ人の理想形もまたあることを思い起こさせられるのだ。
この2つの思想は、大雑把にいえば、共和党と民主党につながるものでもある。前者は経済的自由競争主義(新自由主義)、後者は政治的自由主義のいわゆるリベラルだ。
サンダースは、「社会民主主義者」を自称している。フランク・キャプラもまた、1950年代のマッカーシー議員主導の「赤狩り」の反共旋風時代に「社会主義的映画人」といわれた。
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フランク・キャプラは絶対お勧め
フランク・キャプラの映画は、絶対のお勧めだ。アメリカが好きになる。人生が好きになる。これらの映画は、是非観てほしい。今見ても、決してダルいことはない。テーマ、プロットだけでなく、ディテールにも映画人たちの職人芸が溢れている。旧作映画の良さを存分に味わえる名作たちだ。
社会や政治に失望した時、元気が出る映画たちでもある。
ちなみに、上でも写真を使わせていただいた、こちらのサイトもお勧め。映画を観たあと、追体験するのにうってつけ。ストーリーが載ってますので、映画を観る前は、さらりと覗くくらいをお勧めします。ストーリーを知っていても、何度でも感動させられるのが、名画ではあるけれど。
映画ありき 〜クラシック映画に魅せられて〜 - Film -
(敬称略)