トランプ大統領について、いろんな「レッテル」が貼られています。しかし、間違いも結構あります。トランプ氏を好きか嫌いかは置いておいて、彼の言動を観察してみましょう。プロファイリングしていくと、見えてくるものがあります。
彼を理解する一番のキーワードは「キング」です。
- ビジネスマンか
- 現実主義者か
- 差別主義者か
- アメリカ第一主義者か
- 嘘つきか
- 保守主義者か
- 新自由主義者か
- 小さな政府を目指しているのか
- では、トランプ氏は何者なのか
- トランプ王朝はどうやって実現できるか
写真はWikipediaより(大統領としての公式の肖像)
ビジネスマンか
違います。池上彰氏などは彼をビジネスマンと評していますがちょっと違います。もちろん、ビジネスやビジネスマンの定義によります。彼も自分のことをビジネスマンと思っているかもしれません。ビジネスを単なる金儲けと考えれば、ビジネスマンというのもあながち間違いにはなりません。しかし、それならば、泥棒もビジネスマンになってしまいます。
経営学でいう「ビジネス」とは、「価値を持続的に創出する活動」です。ビジネスマンとはそういう人を差します。それには、顧客、社員、会社、社会、それぞれに価値があることが不可欠です。いわゆるWin-Winの関係です。
それに対して、トランプ氏のスタンスは、勝ち負け、つまりWin-Loseの枠組みです。価値を創出する活動ではありません。Win-Winが全体のパイが増えるプラスサムなら、Win-Loseはプラスマイナスゼロのゼロサムや、マイナスが出るマイナスサムです。
いわば、賭け事の勝負師のようなものです。なので、ビジネスマンというよりも、あえていえば、トレーダーというほうがまだましでしょう。ただし、アンフェアな行為もトレーダーの行為として見なすかどうか、という問題は残ります。(なお、貿易などの本来の「トレード」は、価値を交換することで、価値を創出する活動です。プラスサムなのです。)
※※※
ビジネスを遂行する上で、大事なのはなんでしょうか。それは信用であり信頼です。約束したら守ってくれる、ということです。トランプ氏にはそれはありません。米国が過去、他国とした約束や条約も、平然と踏みにじることを公言しています。
むしろ、トランプ氏は、何をするか分からない、という不確実性を武器にしています。そういう人は、ビジネスマンと言えるでしょうか。顧客は信頼して、彼の商品を買うでしょうか。
彼が成功してきたのは、彼に、父が築いてくれた財産があったからです。それを元手に不動産などを買いまくり、事業を大きくしてきました。もしも、彼が無一文であったら、彼と取引したい、というビジネスマンはいないでしょう。
ビジネスマンではないにしても、タフ・ネゴシエーターとは言えるかもしれません。常に、法外な要求をつきつけて、そこを出発点にして買い叩く、というスタイルです。ただし、その戦術は彼が優位な時に限って有効です。そういうスタイルの買い手は、優位でなければ、門前払いされてしまいます。
米国大統領という地位は、どんな法外な要求を他国や企業に押しつけても、決して門前払いされない、という地位です。これを武器に、彼は「最強の大統領」となります。
現実主義者か
違います。現実主義とは、理念よりも実利を取る考え方です。トランプ氏自体は、そう思っているので、「主義者」という点では、主観的には「現実主義者」といえます。
しかし客観的にはどうでしょうか。トランプ氏が立脚しているのは、客観的な現実ではありません。彼の思い込みです。そこから描くトランプ氏の処方箋は、現実的な実利を得られるものではありません。つまり前提も処方も、ともに「非現実的」なのです。
したがって、「主観的には現実主義者であるが、客観的には夢想主義者」と言っていいでしょう。
差別主義者か
微妙です。トランプ氏に尋ねたら、「自分は差別主義者ではない」と言うでしょう。しかし、イスラム教徒をテロリストと同一視する発言や、女性蔑視の発言からみれば、差別主義者と言われてもしかたがないでしょう。
アメリカ第一主義者か
微妙です。アメリカファーストを唱えている、という点ではアメリカ第一主義者と言ってもいいでしょう。
しかし、米国の政治家は多かれ少なかれ、アメリカ第一を唱えています。「アメリカの国益を損なって他国第一で」なんていう政治家はいないわけです。ですので、「アメリカ第一」という言葉そのものは、本質的には無意味です。
それでもアメリカ第一を政治スローガンに唱えることは、政治的には、政敵が「アメリカ第一」でなかった、という含意です。日本でも、政敵に対して、「反日」という言い方で批判するケースがありますが、それと同じです。
嘘つきか
微妙です。嘘つきとは、「嘘と分かっていて嘘を言う人」のことです。自分が正しいと思っていることを言うのは、それが客観的にはたとえ間違っていても、嘘つきとはなりません。
その点で、トランプ氏は、嘘つきでありません。彼に見えているもの、彼の思い込みを発言しているのです。ただし、客観的な事実を受け入れようとしないわけです。彼にとって、客観的に正しいかどうかはどうでもいいのです。
もちろん、それはフェア(公正)な態度とは言えません。したがって、「嘘つきではないが、アンフェアな人」というのが正しい理解でしょう。
保守主義者か
微妙です。彼は中絶に反対する大統領令に署名しました。その点では、保守主義者と呼んでも間違いではないでしょう。一方で、米国の保守主義は、自由主義とも結びつくものです。しかし、後で述べるように、トランプ氏の主張は自由主義とは相容れないものです。
新自由主義者か
間違いです。確かに「新たな規制を1つ作る代わりに2つを撤廃する」と言っています。しかし、新自由主義は、自由貿易や自由市場を基本とします。政府による保護貿易、企業への介入を行うトランプ氏は新自由主義者ではありません。
小さな政府を目指しているのか
間違いです。確かに、「オバマケア」を廃止すると主張しています。しかしその一方で、膨大なインフラ投資を宣言しています。また、企業活動に介入する姿勢は、小さな政府とは言えません。
※※※
これらの分析から見えることは、彼がセルフイメージとして主観的に発信していることと、客観的な見方には違いがある、ということです。「ビジネスマン」という言葉が典型です。彼のセルフイメージを理解することは重要です。それとともに客観的な見方も大切なのです。そのように複眼的に理解することが肝要なのです。
では、トランプ氏は何者なのか
トランプ氏は「キング」です。彼は、彼の支持層が感じるように感じ、思うように思うことができます。彼の思い込みそのものが彼にとっての真実であり正義です。
トランプ氏には、過去も未来もありません。その瞬間、反射的に自分が思ったこと、思いついたことが、彼にとっての全てです。
彼にとっては、彼の言ったことのみ真実(トゥルース)であり正義なのです。そういう人のことを、キングといってもいいでしょう。彼は、「ポストトゥルースのキング」です。
彼は、父親に「おまえはキングになれ」と言われて育ちました。大統領とは、トランプ氏にとってキングなのです。だから議会も関係ありません。彼は、彼の王国として米国を統治し、世界を従え、彼の王朝を永続させようとしています。
そのためには、支持者を満足させることです。2年後の中間選挙で、議会でのトランプ派を増やし、4年後の大統領選で再選を果たす。そして、8年間の任期を終えた後も、彼の王朝を永続させる。それが彼のビジョンでありモチベーションでしょう。
だから、意外にストイックな側面も持っています。タバコも酒も、もちろん麻薬もしませんし、家族にもたしなまないように言っています。本気で王になるために、彼は彼なりに精進しているわけです。
トランプ王朝はどうやって実現できるか
いくつかの可能性があります。
一つは、8年間の任期満了後も、彼の家族を大統領にしていくことで、トランプ王朝を実現させること。これが最も現実的です。
一つは、憲法を改正し、2期8年という制限を取り払うこと。いわば「終身大統領」です。
さらに、生命工学やAIの進歩を取り入れ、永遠の命や、クローン、さらには「分身のAI(人工知能)としてのトランプ」を得ようとすることも、全くないとはいえません。
これらのことを、トランプ氏はまだ十分には考えていないでしょう。今は、大統領という役割を嬉々として楽しんでいます。とはいえ、彼は70歳。2期を終えると78歳です。高齢者ほど、自分の死を意識し、先のことを考えるものです。
トランプ氏を理解するキーワードは「キング」です。