オンラインカジノやブックメーカーが、一部で流行っています。公営ギャンブルよりも遙かに勝率(還元率)が高いことが人気のもと。
でもね、これって合法なのでしょうか? それとも違法?
ネット上の大論争をわかりやすく整理します。
(目次)
- オンラインカジノとブックメーカーって?
- 違法説
- 「合法説」
- オンラインカジノの客が逮捕された
- 「不起訴を勝ち取った」
- じゃあ、合法となったのか
- 不起訴とは
- 改めて、賭博罪の成立要件について考えます
- 賭博法の本質は
- まとめ
そもそも、
オンラインカジノとブックメーカーって?
オンラインカジノとは、ネットからあたかも、現実のカジノにいるように、いろんなゲームができるもの。海外ではカジノやオンラインカジノが合法の国がいくつもあります。
ブックメーカーとは、いわゆる「賭け屋」。スポーツの勝敗から大統領選挙まで、なんでも賭けの対象にします。イギリスなどでは合法とされています。
ここでのお話は、「海外のオンラインカジノやブックメーカーに、日本からネットで接続してお金を賭ける」ということに限定します。もちろん、日本国内の業者が行うオンラインカジノやブックメーカーは違法です。たとえば、「野球賭博」とかね。
で。
違法説
違法説は、カジノ専門家の木曽崇さんと弁護士の渡邉雅之さん。階猛議員の協力を得て正式に政府に質問して回答をもらいました。国会議員は政府に文書(質問主意書)で質問すると、政府がきちんと文書で回答してくれることになっています。
政府への質問と解説はカジノ合法化に関する100の質問 : 結論: オンライン賭博は違法であるにあります。
政府の答弁 2013.11.1(太字筆者)
衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対する答弁書
衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対する答弁書
一から三までについて
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがあるものと考えられる。
四について
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、富くじの授受行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第百八十七条第三項の富くじ授受罪が成立することがあるものと考えられる。
五について
御指摘のような観点からの広報については、今後の社会情勢等を踏まえ、慎重に検討してまいりたい。
と、いうことで、国がしっかり答えています。
木曽崇さんの解説はカジノ合法化に関する100の質問 : ファイナルアンサー: オンライン賭博は違法であるをどうぞ。
政府の見解を受けて、東京都の消費者情報でも次のように記載されています。(太字筆者)
「オンラインカジノで一儲け」?不審な誘いに乗らないで!~海外のサイトだから問題ない?そんなことはありません!~ | 東京くらしWEB
相談事例 2 <友人が賭けたお金の一部があなたのものに?>
友人からネットカジノの説明を聞きにいかないか、と誘われ、近くのファミリーレストランに出向いた。
「カジノはネット上にあり、オンラインゲームのようなものだ」と言い、「日本では賭博は違法だが、海外サイトなので法律違反にはあたらない」と説明された。ネットカジノの年間売上1%が年2回もらえるし、誰かを誘えばその人が支払った金額の5%がもらえる、と言う。販売権利を得るために18万円が必要らしいが、怪しい話だと思う。自分は契約しなかったが、大学では口コミで流行っている。(大学生 男性)
ココに注意!・・・東京都消費生活総合センターからのアドバイス
(中略)
インターネット上であっても、国内で賭け事をすれば犯罪行為となる可能性があります。
海外のオンラインカジノのサイトであっても、国内から参加した場合、刑法で定める「賭博罪」に該当する可能性があります。
一方、
「合法説」
ネットでは、過激な合法説もありますが、法律の専門家による「合法説」の主砲は、弁護士の津田岳宏さん。
2013.9.28 (太字筆者)
五輪やノーベル賞も「賭け」の対象 「海外ブックメーカー」に日本から参加できる? - 弁護士ドットコム
●判例はまだないが「違法とされる可能性はある」
「刑法上は、犯罪を構成する事実の一部が日本で行われれば刑法が適用されます。したがって、日本から賭博に参加している以上、賭博罪(刑法185条)が適用される可能性があります。しかし、実は難しい論点があります」
難しい論点とは、どんな内容なのだろうか。
「賭博罪は、犯罪の性質上、必ず複数の人間が関わる『必要的共犯』とされ、胴元と参加者という向かいあう関係の者たちが共犯となることから『対向犯』と呼ばれています。ところが、胴元であるブックメーカーは合法なので処罰できません。対向犯の一方である胴元を処罰できないのに、もう一方である参加者のみを処罰できるのか、という問題があるのです」
かみ砕いていえば、《必ず相手方がある犯罪で、片方だけを処罰していいのか》という問題といえるが、どう考えればいいのだろうか?
「この点について、まだ判例はありません。したがって、現状での回答としては『違法となる可能性がある』ということになります」
つまり現時点では、大手を振って参加できる――というわけではなさそうだ。
●賭博罪の違法性と「公然性」は密接に関連している
ところが、津田弁護士はこのように述べる。
「とはいえ、現実問題、自宅のパソコンからこっそり海外のブックメーカーを利用しても、逮捕される可能性は限りなくゼロに近いでしょう」
いったいなぜ、そんなことが言えるのだろうか。
「賭博罪は風紀に対する罪とされています。その違法性の多寡は『公然性』の多寡に関わります。
日本国が明治時代、刑法を作る際に参考にしたドイツ刑法では、非公然の単純賭博は不可罰でした。そして、日本でも明治23年の刑法草案段階では『公ノ場所』でされる賭博のみを処罰する案でした」
現在の刑法にそう書かれているわけではないが、刑法が作られた時の背景も、法律の運用にある程度、影響があるということだろうか……。津田弁護士はこう続ける。
「自宅でこっそり参加する分には、公然性は皆無です。また、上記のように違法かどうかも明確でないので、いきなり逮捕される可能性はほぼゼロといっていいでしょう」
合法説にもいろいろあります。
津田岳宏弁護士の説は正確には、「違法かどうかも明確でないので、いきなり逮捕される可能性はほぼゼロ」という説。
なお、津田氏は、別のところで「賭博法を改正してオンラインカジノなどを合法にすべき」という趣旨の主張もしています。けど、これは全く別の話ですね。
ところが、2016年3月、
オンラインカジノの客が逮捕された
という事件が起きました。(太字筆者)
インターネット上のオンラインカジノで賭博をしたとして、京都府警が3月上旬、大阪府吹田市の30代男性ら3人を、単純賭博容疑で逮捕した。無店舗型オンラインカジノで利用客が逮捕されるのは、全国初とみられる。
報道によると、3人は今年2月ごろ、オンラインカジノに接続し、「ブラックジャック」で金を賭けた疑いが持たれている。利用したサイトは英国に拠点があるが、日本人がディーラーをつとめ、日本人が参加しやすい仕組みだった。京都府警は、事実上、国内で日本人向けにカジノが開かれて、賭博行為がおこなわれていると判断したという。
今回のニュースについてネット上では、「現地のカジノに行くのはOKで、外国に拠点を置いているカジノにネットを通してプレイするのが違法なのは何で? 」といった疑問の声があがっていた。今回、利用客たちが逮捕されたのは、なぜなのか。渡邉雅之弁護士に聞いた。
●なぜ利用客は逮捕されたのか?
「インターネットによる海外サイトのオンラインカジノに関して、オンラインカジノ事業者やそのアフィリエイト事業者は<国内で賭博に参加していたとしても、賭博罪は、賭博開帳者と賭博者が一緒に処罰される『必要的共犯』が前提である>と説明してきました。
つまり、賭博開帳者が国外犯として処罰されないのであれば、その対抗犯である賭博罪は成立しないので、安心してプレーしてください、と勧誘してきたのです」
渡邉弁護士はこのように述べる。今回、なぜ利用客たちは逮捕されたのか。
「今回の逮捕は、日本人女性のディーラーがゲームを提供していること、日本語でやりとりができたこと、賭博の開催時間は、日本時間の夕方から深夜に設定されていること、といった日本人向けのサイトであったことが、特に重視されたようです。
これは、オンラインカジノの実態が国内において行われていると評価できる場合には、たとえ無店舗型の海外サイトからのインターネットを通じたオンラインカジノであっても、プレイヤーが賭博罪に問われることを明らかにしたものと考えられるでしょう。
これに対して、津田弁護士は
「不起訴を勝ち取った」
とのこと。
津田さんの主張を正確に伝えるために、あえてかなりの主要な部分を引用させていただきます。もちろん全文は津田さんのエントリーをご覧ください。(太字筆者)
不起訴の勝ち取りーオンラインカジノプレイヤーの件
2017-01-06
テーマ:法律
賭博罪を専門とする弁護士として,新年早々非常に嬉しい結果を出すことができた。
私は昨年から,いわゆるオンライカジノをプレイしたとして賭博罪の容疑を受けた人の弁護を担当していたのであるが,これにつき,不起訴を勝ち取ったのである。
昨年,オンラインカジノをプレイしていたユーザー複数が賭博罪の容疑をかけられた。
彼らのほとんどは,略式起訴されることに応じて(これに応じるかどうかは各人の自由である)軽い罰金刑になることに甘んじたのであるが,そのうち1人は,刑を受けることをよしとせず,略式起訴の打診に応じず争いたいとの意向を示した。弁護を担当したのは私であった。
本件は,海外において合法的なライセンスを取得しているオンラインカジノにつき,日本国内のパソコンからアクセスしたという事案である。
この形態の案件は,従前検挙された例がなく,違法なのかどうかがはっきりしない状況になっていた。
賭博をやったのは認めるが,そのような状況で不意に検挙されたのが納得いかない,というのがその人の言い分であった。
賭博罪の不当性を強く感じている私としても,本件は是が非でも勝ちたい事件であった。
本件のポイントは,いわゆる必要的共犯の論点で語られることが多かったが,私はそれは違うと考えていた。
これのポイントは,被疑者が営利目的のない単なるユーザーであり,罪名も単純賭博罪であるという点である。
<中略>
本件の特徴は,当該賭博行為につき,海外で合法的なライセンスを得ている一方当事者である胴元を処罰することはできないところ,他方当事者であるユーザーを処罰しようとする点にある。
この点は従前,必要的共犯において一方当事者が不可罰である場合に他方当事者を処罰することができるのか,という論点に絡めて語られることが多かった。
しかし,真の問題点はここではないと私は考えていた。
賭博場開張図利罪と単純賭博罪の軽重は雲泥の差である。
賭博行為について,刑事責任のメインは開張者(胴元)が負うのであり,賭博者(客)が負う責任はある意味で付随的である。
賭博犯の捜査は胴元の検挙を目的におこなうものであり,「賭博事犯の捜査実務」にもその旨記載がある。
そこには,些細な賭け麻雀を安易に検挙すべきでない旨の記載もある。胴元のいない賭博を安直に検挙することをいさめる趣旨である。
以上を踏まえたとき,本件は,主たる地位にある一方当事者を処罰することができないにもかかわらず,これに従属する地位にある当事者を処罰することができるのか,という点が真の論点となる。
この点,大コンメンタール刑法には,正犯者が不可罰であるときに従属的な地位にある教唆者や幇助者を処罰することは実質的にみて妥当性を欠くので違法性を阻却させるべき,との記載がある。
賭博事犯において,胴元と客は教唆や幇助の関係にあるわけでないが,その刑事責任の軽重にかんがみれば,事実上従属する関係にあるといえる。
<中略>
結果が出たのは,間違いのない事実である。
本日時点において,オンラインカジノプレイヤーが対象となった賭博罪被疑事件で争った案件は国内でただひとつであり,そのひとつは,不起訴となった。
言うまでもなく,不起訴は不処罰であり,何らの前科はつかない。平たく言うと「おとがめなし」ということだ。
営利の目的なく個人の楽しみとしてする行為を対象とする単純賭博罪の不当性をうったえ続けている弁護士として,この結果を嬉しく思う。そしてちょっぴり誇りに思う。
と、いうことで、勝ち取った不起訴を誇っておられます。
まあ、それはそうでしょう。弁護士の腕の見せ所ですからね。誇って当然です。
じゃあ、合法となったのか
といえば、どうでしょうか?
それには、「不起訴」の意味を正確に知ることが必要です。
不起訴とは
不起訴には種類があります。
・罪とならず
・嫌疑なし
・嫌疑不十分
・起訴猶予
の4種類。このうち、「罪とならず」「嫌疑なし」は、いわゆる「無罪放免」です。
一方、「嫌疑不十分」は、起訴するに足りる十分な証拠が集まらなかった、などであり、今後起訴される可能性はゼロではありません。
また、起訴猶予は、「検事が事件を捜査した結果、起訴に足る容疑や証拠があっても初犯であるとか、被疑者が十分反省しているという点を配慮し、起訴するのを止めて、刑事手続きを終了させるのが起訴猶予になります。」ということ。
不起訴処分には種類がある~不起訴処分~ | 刑事事件弁護士相談広場より
不起訴の内訳は、平成26年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節から見ると、起訴猶予が7割、嫌疑不十分が2割を占めているのです。
ちなみに、逮捕・送検されても検察で不起訴になる率は、およそ55%もあります。
つまり、不起訴イコール「無罪潔白で真っ白で合法だよっ」ということではないんです。(ただし、有罪が確定するまでは、「無罪」ではあるわけ。)
検察としては、何らかの理由で、今のところは起訴をしなかった、というだけです。その際、津田弁護士の主張を考慮したことはあるでしょうが。
上の統計を見ると、確率的には(?)「起訴猶予」か「嫌疑不十分」である可能性が高そうです。
津田弁護士には、不起訴のうちどれにあたるのか、不起訴理由の理由開示請求をして、それを公開してくれるとありがたいのですが。(詳しい不起訴理由はわかりませんが、4つの内どれか、はわかるので。)
また、他の逮捕者たちは、略式起訴に応じて罰金刑が確定していることも、あらためて押さえておきたいところです。どうも「罪とならず」「嫌疑なし」ってわけでもなさそうですね。
ここでもう一度、国会答弁を見てみます。
一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、
なので、今回の不起訴は、国会答弁と矛盾するものではありません。
今回不起訴になった方が、これからも同じような行為を繰り返したりした時や、今後また、別の人が逮捕、起訴、有罪となる可能性は、依然としてあるのです。
なお、木曽さんと津田弁護士の主張の対立点である、「胴元が海外なので処罰されないのに、日本の客だけ処罰されるのはおかしいじゃん」論の妥当性については、お二人のブログを見比べて判断されるといいと思います。
木曽さんは最高裁判例、津田さんはコンメンタールを元に主張しています。お二人の主張は噛み合っているところと、噛み合ってないところもあるようです。
カジノ合法化に関する100の質問 : ファイナルアンサー: オンライン賭博は違法である
不起訴の勝ち取りーオンラインカジノプレイヤーの件|賭博罪改正を願う弁護士津田岳宏のブログ
いずれも専門家同士の議論なので、とても勉強になりますね。よくよく考えていくと、両者の主張は、水と油、というわけではないようです。それぞれ、いいところを突いています。
さて、ややこしくなったところで、キリッと整理しましょう。
改めて、賭博罪の成立要件について考えます
3つのケースがあります。
1.胴元が国内なら
違法ですね。
2.胴元が海外なら
ここが論点でした。
ちなみに、中国にいるお金持ちがフィリピンのカジノで、現地の代理人に賭けさせるなんてのもあるようです。「中国にいながらフィリピンでカジノ」ですって。
では
3.胴元がいなかったら
客と胴元ではなく、一般人同士が、高額なお金を賭けあったらどうか。
たとえば、こじま君とおおしまさんが、明日のお天気が晴れかどうか、100万円を賭けたとしたら。晴れになったら、こじま君がおおしまさんから100万円受け取り、ならなかったら、その逆、みたいな。
少額の賭け麻雀くらいでは処罰されません。
賭け麻雀が発覚した市長らは賭博罪で処罰されるのか??弁護士が解説(福永活也) - 個人 - Yahoo!ニュース
雀荘や客が賭博の罪で処罰されない理由は??弁護士が解説(福永活也) - 個人 - Yahoo!ニュース
胴元がいなくても、馬券型の賭けゴルフでNECの社員が立件されたケースもあります。
賭けゴルフの違法性、ゴルフコンペの賞金は賭博になるか - 法廷日記
なかなか微妙なところですが、警察と検察は、社会的影響を考慮して「お縄」を使っているようですね。一般人同士が、胴元を介さずに、高額なお金を堂々と賭て勝負したら、やはりまずそうです。ということで、こじま君とおおしまさんの100万円の賭けは、基本的には賭博罪でしょうね。
と、いうことで。
賭博法の本質は
あたしは、胴元がいるいない、どこにいる、というのは本質ではなくて、 賭博法はやはり、賭博という行為を禁止しているのだと理解します。
ちなみに、
「あるべき論」は別
合法か違法か、と合法であるべき、違法であるべき、はもちろん、議論のテーマが違います。あたしは、基本的には合法として、きちんとルールを明確にしたほうがいいと思います。
まとめ
「海外のオンラインカジノやブックメーカーに国内から賭けることは違法か合法か」という問いの答えは、
「合法とは言えない。ただし、逮捕・起訴されるとは限らない。(逮捕・起訴される可能性はある、けど、その可能性は今のところ割と少ない)」
ということだと思います。
今ひとつ、もやもやしますよね。まあ、もやもやすることって、世の中いろいろあるのよねっ。
ちなみに、完全に合法で「勝てる」ギャンブルはどれかを知りたい方は、
勝てるギャンブルはどれ?~宝くじとFX~ - むのきらんBlogをどうぞ!