むのきらんBlog

むのきらんBlog

自由に考えよう

トランプ氏がめざすのはFTAではない

f:id:munokilan:20170204095858p:plain

米国のトランプ新大統領が、「TPP(環太平洋経済連携協定)から永久に離脱する」と宣言した。その代わり、「2国間の自由貿易協定(FTA)に力を入れ、各国と相対で交渉する」と報道されている。しかし、トランプ氏が求めているのは、FTAではない。ほぼ真逆である。むしろ「保護貿易協定」もしくは、「不自由貿易協定」と言ってもいいものだ。そのように正しく認識すれば、打ち手が見えてくる。

  

(目次)

 

米国が求めるものは

2017年1月27日 日経電子版より引用。太字筆者。

米、日本と2国間交渉 首脳会談で要求へ

【ワシントン=河浪武史】トランプ米大統領は2月上旬で調整している日米首脳会談で、環太平洋経済連携協定(TPP)に代わる2国間の通商協定交渉を求める方針だ。ロイター通信が26日、トランプ政権高官の発言として伝えた。菅義偉官房長官は27日の閣議後の記者会見で、日米首脳会談の対応について「ありとあらゆる想定に対応できるように取り組む」と述べ、2国間協定の交渉も排除しない姿勢を示した。

 トランプ政権高官は「(米国が離脱を決めた)TPPの代替措置を議論する」と述べた。そのうえで「正式な自由貿易協定(FTA)交渉の前に、いくつかの準備段階があるかもしれない」とも指摘した。日米貿易には「明白な問題がある」と述べて、自動車などの貿易不均衡が議題になる可能性を示唆した。

 日本政府は日米首脳会談で米国が貿易交渉を求めてきた場合、交渉には応じる構えだが、FTAなど2国間協定の締結にはなお慎重な姿勢を崩していない。

 

また、FTA交渉の筆頭として、EUから離脱する英国との交渉が始まる模様である。

 

しかし、米国が求めているのは、FTAではない

FTAとは、自由貿易協定である。

自由貿易協定(じゆうぼうえききょうてい、英: Free Trade Agreement[1][2]、FTA)とは、2カ国以上の国・地域が関税、輸入割当など貿易制限的な措置を一定の期間内に撤廃・削減する協定である[3]。締結国・地域間の自由貿易および投資拡大を目的として関税/非関税障壁を取り払う[3]。

 自由貿易協定 - Wikipedia 太字筆者。

 

トランプ氏が求めているのは、これとはほぼ真逆といっていい。むしろ、「保護貿易協定」もしくは、「不自由貿易協定」である。要は、「米国からたくさん輸入せよ!」ということだ。

 

日米がFTAを締結したら

日米がFTAを締結したら、本来はこうなる。

米国は、自動車、特にピックアップトラックに掛けている25%の関税を撤廃。一方、日本は、コメをはじめとする農産品の関税を撤廃。

これが、本来の自由貿易であり、FTAである。でも、これではトランプ氏の米国はうれしくない。

  

トランプ氏が求めるものの本質は

トランプ氏が求めるものの本質は、再選に向けた米国民の支持である。そのために、求めるものはわかりやすい「米国の国益」だ。つまりは、米国車の対日輸出増大である。いわば、1台日本車を輸出したら、1台米国車を輸入せよ、ということだ。

 

日本において自動車の輸入関税はゼロである。したがって、環境、安全規制等の非関税障壁も標的になるだろう。しかし、仮にこれらの規制を緩和したとしても、米国車の輸入はほとんど変わらないだろう。日本人が米国車を買わないのは、輸入障壁のためではない。単に、日本人の好みや交通環境に合わないからである。

 

では、どうするか。トランプ氏は、「結果」を求める。1台日本車を輸出したら、1台米国車を輸入する、というのが最もわかりやすい「結果」である。

これは、自由貿易では全くない。政府が関与する管理貿易そのものである。

したがって、自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)に倣って言えば、不自由貿易協定(ATFA:Anti Free Trade Agreement)である。

 

農産物も似た面がある。日本においてはコメなどの輸入に数量制限とともに高い関税が掛けられている。しかし、仮に関税も数量制限も撤廃しても、全体として米国からの農産物の輸入は大して増大しないだろう。むしろ、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国、中国などからの輸入が増えるだろう。

したがって、制度というよりもむしろ、単に数量、金額として日本が多額に米国から輸入せよ、ということになる。たとえば1台日本車を輸出したら、その金額に相当する農産物を米国から買う、というような話になる。

 

日米の力関係はどうか

このような無体な要求に対して、日本は拒否できるか。

残念ながら拒否できない。なぜならば、日米の力関係は、米国のほうが有利であるからだ。

日本からの輸出、米国の日本企業、そして日本の安全保障、これらがすべて、トランプ氏のカードになる。より端的にいえば、日米首脳会談を開くかどうか、という1点もトランプ氏の持ち札である。

  

日本政府の方針は大間違い

前述の報道ではこうなっている。

日本政府は日米首脳会談で米国が貿易交渉を求めてきた場合、交渉には応じる構えだが、FTAなど2国間協定の締結にはなお慎重な姿勢を崩していない。

 しかし、これは大間違いである。本来は、「自由貿易協定(FTA)の交渉には応じる。しかし、自由貿易の本旨に反する交渉は拒否する」と言うべきだ。

それが日本の国益である。しかし、日本政府はこれが言えない。なぜならば、TPP交渉でも、日本に残っている関税は、コメなどの農産物がほとんどであるからだ。自民党は農民票が逃げるのがコワいのだ。(この「農民票」なるものの実態は、大部分が副業的な第二種兼業農家であり、本当の「農業票」ではないのだが、それは今回置いておく。)

  

日本政府はどうすべきか

力関係において圧倒的に不利な日本は、トランプ氏に従わざるを得ない。

できることは、ダメージコントロールである。

すぐ思いつくのは、交渉に入るにしても、できるだけ時間を掛けるということだ。しかしこれには限りがある。なぜなら、トランプ氏が、「妥結するまで日米首脳会談はしない」、といえばそれまでだからだ。

 

ではどうするか、ポイントは2つ。

1.できるだけ、トランプ氏が米国民にアピールできるわかりやすい「お土産」を与える。しかし、できるだけ、実利(日本にとっての実害)は与えない。

2.できるだけ、「お土産」を小出しにする。

 

具体的には、とりあえず、自動車の「非関税障壁」である規制に例外を設ける。米国車にのみ甘くする。そうしても、大して米国車の輸入は増えないが、トランプ氏は米国人に、「どうよ!」とアピールできる。

 

また、たとえば、「米国ブランド車の輸入を倍にする」と宣言する。米国ブランド車(GM、フォードなど)の輸入は、年間1万台にも満たない。仮に1万台を追加で輸入したとして、1台200万円としても、ざっくり200億円である。

 

こういう「立派な包装紙のお土産」を小出しに与えて、時間を稼ぐ。稼ぐべき時間は、大統領の任期の4年から(再選されれば)8年である。粘り腰が大切だ。

いわば、徳川家康のように「個々の局面の戦闘で負けても、長期の戦争には負けない。ぶざまであろうが逃げまくって、いずれ勝つ」ということだ。 

 

写真出典:Wikipedia(大統領としての公式の肖像)