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豊洲市場は出発点でボタンの掛け違い~安心対策より安全対策を~

豊洲市場問題が相変わらず騒がれています。地下水排水システムを本格稼働しても、地下水位がなかなか下がらないとか、地下水が(飲料水としての)環境基準をオーバーしているとか。

豊洲市場の安全性に問題があるという立場と、まあ問題ない、という立場に大きく分かれ、合意が困難になっています。それはなぜでしょうか。それは、そもそもの出発点でボタンが大きく掛け違っているからなのです。

それは、「安全対策」なのか「安心対策」なのか、という点です。

(目次)

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画像は、豊洲市場について|東京都中央卸売市場 より

 

安全性に問題がある派

その主張の最大の根拠は、「豊洲市場は生鮮食品を扱う市場なので、立地する土地には、一般の施設よりも、特段に高い安全性が必要」というもの。

 

安全性に特段問題がない派

彼らの見方は、「立地する土地が、普通に生活できるレベルの安全性を満たしていれば、十分である」、というもの。

もちろん、そう表立って主張する人は少ないのですが、つきつめていくと、要するに本音はそういうことでしょう。

 

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画像は、ショートケーキの作成途中に乗り込んできて、「イチゴが乗ってないじゃないか!(激怒)」状態な豊洲新市場 | 東京都議会議員 おときた駿 公式サイト より

 

専門家会議はどちらか

実は、盛り土を安全対策として提言した専門家会議は、前者の主張を取っている。それは、前者が科学的安全論として正しいから、ではなく、前者の見方の不安を払拭するための「安心論」として、である。

 

「豊洲市場は生鮮食品を扱う市場なので、立地する土地には、一般の施設よりも、特段に高い安全性が必要」は本当にそうか

実はここに大きな勘違いがある。

生鮮食品を扱う市場には、当然に一般の物流施設よりも高い安全性が求められる。ただし、科学的にいえば、求められるのは「食品の安全性」である。それを担保するのが施設であり運営である。

 豊洲は、開放型の築地よりも高い食品の安全性を確保するために、閉鎖型の設計となっている。開放型とは食品が外気に接するもの。昔ながらの市場(いちば)のイメージ。閉鎖型とは、食品が外気に接しないもの。場内と場外をきちんと区切って、内部の空気を衛生的に管理するものだ。

 

閉鎖型の市場が立地する土地に必要な安全性とは

しっかりした閉鎖型であれば、理論上はどのような土地に立地してもいいはず。とはいえ、一応の基準は必要。

その基準はどういうものか。それは、「そこで住んでも健康に影響がないレベル」ということ。

それを担保するのが、土壌汚染対策法であり、都の条例や指針である。現在の豊洲の設計は、この両者を十分にクリアしている。

現在の議論は、すべてそれ以上の「安心」のための上乗せ対策をめぐる問題なのだ。

 

住宅と食品市場のどちらがより厳しい安全性を要求されるべきか

考えてみてほしい。食品が一か所に長くとどまるわけでない閉鎖型の食品流通市場と、一か所に何年も暮らす開放型の住宅と、土地の上の空気の安全度は、どちらがより厳しく要求されるべきだろうか。住宅であれば、毎日庭で子供が遊ぶかもしれない。前述の基準は、それでも「健康に支障がない」というレベルのものなのだ。

 

もちろん、豊洲市場にこれだけ不安を持った人は、豊洲市場の土地に住むのは不安、とんでもない、と思うだろうけど。

 

「安心対策」には終わりがない

それでも不安ならば対策がほしい、というのが人情だ。しかし、不安への対策の最も困るところは、「客観的な上限がない」、という点。Aさんは、ここまでで安心。しかし、Bさんはまだ不安。となる。

これは、工学上の安全率の考え方とは別の問題だ。たとえば橋を設計する場合、風力などをもとに、強度を計算するが、考えられる風力に対して余裕を持たせて設計するものだ。それが安全率だ。それは、「過去測定された最大風力の何倍」とか、「何年に一度の台風の風力」といった形で決めることができる。

 

しかし、豊洲の場合は、このような工学的な計算によるものではない。こうしておいたほうが安心でしょう、というだけで、「専門家会議」から種々の対策が提言されたわけなのだ。

本来、専門家の仕事は、「科学的・客観的にこれで安全、だから安心してね」とお墨付きを出すこと。なのに、専門家会議は、「ここまでやれば安心でしょ」とやってしまったわけ。会議のメンバーは、もちろん予算責任も執行責任もない。となれば、「不安」という人に対して、「安心」を大盤振る舞いしたくなるのが人情である。そうすれば、やっかいな説明、説得をしなくて済むわけだから。

 

公共事業の宿命

民間の事業でも、顧客などの不安に対して、対策をとることはもちろんある。しかし、そこには歯止めがある。それは、事業として採算が成り立たないレベルにはしない、ということ。そういう場合は、事業そのものから撤退するのだ。

ところが、公共事業はそうではない。中央卸売市場は都の事業だ。卸売業者などの利用者からは利用料を 徴収するが、足りない分は税金で補てんする。その構造を要求側もわかっている。だから対策が青天井となり、総事業費が6千億円もの巨費に膨らんでしまったのだ。

で、さすがにこれ以上は無理、ということで、使い勝手とコストの両面で、実務家が建物下からは盛り土を省く、という合理的な設計をした。外部への説明を省いて、である。

 

「安心対策」ではなく「安全対策」を

つまりは、主観的で上限のない「安心対策」ではなく、客観的で科学的な「安全対策」を行うべきなのです。それが、消費者であり、納税者である、都民や国民にとっての利益です。

一方、最大の「安心対策」は、都民などへの、科学的リテラシーを高める啓蒙活動です。残念ながら安心のベースとなる「信頼」を、盛り土を黙って省略したことで、損なってしまったわけですが。

 

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(関連情報)

小池都知事の定例記者会見9月30日(全文1)盛り土なしを決定したプロセス (1/2)

 

(都の公開情報)

豊洲市場について|東京都中央卸売市場 現在、盛り土の部分の誤った説明文は削除されている。

専門家会議資料  東京都が予定している土壌汚染等の対策  都が以前、専門家会議に出した資料。

環境確保条例|東京都環境局 化学物質・土壌汚染対策

東京都土壌汚染対策指針 特に13ページを参照。 

 

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