国土交通省が、空き家対策のために、空き家情報の全国的な検索システムをつくると報道されました。
まあ、それはいいのですが、そこは民間に任せておいたらいいでしょう。すでに不動産の全国的な情報システムは、スーモとかホームズとかいろいろありますから。
で、本質はそこじゃあないんです。
誰も語らない空き家問題の本質と解決法を、超カンタンに、かつ本質的に提供します。
(目次)
- なぜ空き家問題が問題か
- 空き家問題はなぜ減らないか
- 「家主が、なんとかしようとしないから。」なの。どんなに「空き家バンク」を整備しても、そもそも家主がそれらに登録しようとしないわけ。
- どうすればいいか
- 1.保有のコストを上げて、家主のおしりに火をつける
- 不動産は使わないと周りに迷惑をかける
- 2.自治体が家主に代わって解決する。
- 「空き家対策法」で解決できるか
- 「危険な空き家」でない場合
- 相続放棄の場合
- 持ち主がわからない場合も多い
(写真は足成より。本文と直接関係ありません。)
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なぜ空き家問題が問題か
そもそもなぜ空き家が問題なのでしょうか。空き家は全国で増え続け、820万戸もあり、住宅の13%を占めています。人口減少時代を迎え、さらに増えると予想されています。
空き家が増えると、まちがゴーストタウン化します。倒壊の危険、放火、治安の悪化、などなどが発生します。周りに住んでいる人にとっては大迷惑。
だから、空き家問題は、「公害」と同じ「外部不経済」問題。
汚水を流す工場があると、周りが迷惑する。本当は「私害」なんだけどみんながやるので、「公害」と呼ばれています。
周りの迷惑のことを、「外部不経済」と呼びます。放置しても、遠くにいる持ち主は何にも感じない。しかし周りは迷惑する。だから空き家は社会問題なのです。
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空き家問題はなぜ減らないか
「家主が、なんとかしようとしないから。」なの。どんなに「空き家バンク」を整備しても、そもそも家主がそれらに登録しようとしないわけ。
どうしてかというと、カンタンに言えば、放置するコストが、何とかするコストより低いから。それだけ。
何とかしようとすると、けっこう大変です。
人に貸そうと思えば、修繕しなきゃとか変な人に貸してトラブルになったら、などなど、面倒くさい。
売ろうと思うと、いくらで売れるかな、安く買い叩かれたらいやだし、などなど面倒くさい。しかも、相続で共有になっていたり、敷地の境界がはっきりしていなかったり、手間がかかりそうなとばかり。だから、今売らなくても、となっちゃう。
一方、ほっといたらどうか。別に大してお金がかかるわけでなし、特に遠方に住んでいたら、日々の生活が忙しくて、遠くの空き家のことなんて、考える暇がないわけ。
だから、そうやって、売りにも貸しにも出されない空き家が増えているんです。
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どうすればいいか
解決策は2つ。
1.保有のコストを上げて、家主のおしりに火をつける。
2.自治体が家主に代わって解決する。
順に説明します。
1.保有のコストを上げて、家主のおしりに火をつける
具体的には、空き家の所有者には課税を強化する。「空き家税」を創設すればいいわけ。
2015年に空き家対策法ができました。倒壊の危険のある空き家がある土地には、更地並みの固定資産税が課されることに。
で、固定資産税が6倍になるから、空き家が解消されると、あちこちでいわれてますが。これは間違い。ケースにもよりますが、せいぜい3.6倍です。
もう一つは、そもそも6倍になったって、大した額にならないところが多い。年額1万円とかね。これだと、ほっておいて払ったほうがラク、となります。
でも空き家に課税するというう方向性は正しい。
ただし、固定資産税はそもそもその不動産を利用するために、地域からもらう便益のコストを負担する税。だから地方税なの。
便益がゼロならば、ゼロでもいい。ではなくて、外部に迷惑をかけているならば、重課すべきなのです。だから、6倍どころでなく、60倍でいいわけです。固定資産税ではなく「空き家税」という新税を作るべきです。
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不動産は使わないと周りに迷惑をかける
「自分の所有物だから使おうが使うまいが、世間には関係ない」、という人がいます。それは大間違い。都市は、文字通り、みんなが集まって住むからメリットが生じる。宅配便が毎日安価に届くのも、そのおかげ。だから「使わない」というのはゼロではなくて、迷惑をかけていることなのです。そこが、ネット上のものと違う、不動産というものの特性です。
2.自治体が家主に代わって解決する。
それでも放置する人が多い。それは、いろんな事情で解決力がなくなっているから。たとえば、お金持ちのおじいちゃんだったら、固定資産税が60倍になっても、放置するわけ。
なので、なにもしない空き家は、自治体が家主に代わって管理する、とすべき。管理の費用も所有者に請求する。
で、地域で必要としている人に貸すなり売るなりすればいいわけです。
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「空き家対策法」で解決できるか
2014年に成立した「空き家対策法」(空家等対策の推進に関する特別措置法)は、基本的にはこの方向です。危険な空き家を「特定空き家」として指定。土地の固定資産税を更地なみに。そして、本人に代わって自治体が取り壊し、費用を本人に請求する、ということになった。しかしこれは、山で言えば麓もふもと、せいぜい1合目。
しかも、2016年からは、売った場合の税金を優遇することになりました。それは、売るコストを下げる、という点ではいいのですが、その優遇分を負担するのは国民です。
無駄なコストを下げることはいいのですが、基本的には所有者には、所有に伴う適切なコスト負担を求めるべきなのです。
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「危険な空き家」でない場合
空き家対策法は、基本的には「危険な空き家」に限った法律です。しかし、多数を占める「今は危険でない空き家」こそが問題。それらを放置するから、「危険な空き家」になるわけ。だから、「空き家」全体に強い網をかける必要がある。
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相続放棄の場合
売っても2足3文。しかも取り壊しなどの費用のほうが高くつく。だから相続を放棄しちゃう、という人が増えています。
しかし、民法940条では、相続放棄をした人は財産を継ぐ人が管理を始めるまで管理責任があると規定しています。
1.相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
つまり相続を放棄したからといって、空き家を放置していい、ということではない。これ、当たり前ですよね。
おばあちゃんが亡くなって、ネコが一匹残った。子供はいらない、といって放棄する。それはダメだよね。(この問題も深いのですが、とりあえずね)
ところが空き家問題については、この法律があまり使われてこなかった。むしろ、みんな放棄すれば、あとは自治体まかせじゃん。ぼくらは遠くに住んでて、関係ないし、みたいな感じでした。
ですが、最近は、この法律をたてに法定相続人に管理責任を問う自治体も出てきました。これは正しい方向です。
2016/1/27付日経電子版「相続放棄でもなお管理責任」 より引用
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「放棄者が管理を続けることを自治体が求める例がある」と日本司法書士会連合会の今川嘉典理事は指摘する。民法940条では、放棄者は財産を継ぐ人が管理を始めるまで管理責任があると規定している。従来はあまり使われなかったが、空き家の相続放棄増に対応して一部の自治体が持ち出し始めたという。
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持ち主がわからない場合も多い
ところが、持ち主がわからないことが結構多い。よく、空き家対策法で持ち主を調べるのがカンタンになったから、持ち主がわからないなんてことない、という人がいるけど、これは実態がわかってない。
確かに、固定資産税の情報を使うことができるようになったので、以前よりは調べやすい。しかし、相続や引っ越し、などなどで、持ち主なんてそうカンタンに分かるものではないのです。
しかも、固定資産税を払っている人と本当の持ち主は違うこともたくさんある。
どういうことかというと、固定資産税は、「課税名簿筆頭者」といって、基本的に名簿の一番上の人に請求がいく。その人が払えばおしまい。
ところが、その人は本当の持ち主とは限らないことが沢山。相続が起きて、3人の子供が相続したとする。地元に残った長男が筆頭者になり、税金を払う。ところが、所有者は3人の共有であることも多い。また、相続手続きがされていないこと、さらには、誰が相続したか確定していない、なんてことがざらにある。
ほら、福島の原発事故の補償金で、なかなか解決しないのは、そもそも誰の家屋敷かわからない、ということがあるわけ。
だから、とことん持ち主を調べる、ということは非常に難しい。なので、現地に立て札などして、一定期間に申し出しなかったら、自治体が召し上げる、とすればよいのです。
と、いうことで、空き家問題の本質と解決法でした。カンタンでしょ。
では、なぜこんな当然でカンタンなことが語られないか。それは、「正当な負担」を嫌ったり、「所有権の絶対」を主張する人が多いからです。政治は、彼らに配慮してしまうのです。そういう政治を変えることが大切。それはみんなの認識次第なんです。
これは、商店街の「シャッター通り問題」や農地の「耕作放棄地問題」でも同じです。ここはまた、別の機会にでも。